テスト初日から……
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いよいよ秋の中間テストだ。そろそろ進路を決めなきゃいけないから、頑張らなきゃ。みんな不安で表情が死んでる。僕はそんな周りに流されないように、教科書を開いて最後の復習に入る。
「おはよ」
「あ、おはよう」
少しすると、旗本さんが隣に座った。1か月近く学校に来ていなかったけど、勉強は大丈夫なんだろうか。横目で見ていると、ノートを取り出した。ふうと息を吐いて開くと、僕はびっくりして思わずガン見してしまった。
「すげえ……」
「ちょっと、勝手に見ないでよ。恥ずかしい」
そう言いながらも、旗本さんは笑っていた。ノートは文字で殆ど埋め尽くされていて、それでいて僕のなんかより数倍、分かりやすくまとめられていた。
「ちょっと見てもいい?」
「良いよ。というかもう見てるじゃん」
これから始まる理科のテスト範囲をしっかりと勉強していたみたいで、僕は圧倒された。字が綺麗で、今回のテスト範囲の天気の内容や、血液循環の内容も図を描いていて分かりやすい。内容がすっと頭の中に入っていく感覚がした。やっぱり、頭では旗本さんに勝てないや。笑うしかなかった。
「そろそろいい?」
「あ、うん。ありがとう。このノート、今度借りてもいい?」
「え? 別に良いけど。テスト終わってからね」
さりげなく会話もすることが出来た。よし! ノルマ達成! 最近は恥ずかしすぎて、二人だけで話すなんて出来なかったから、進歩したぞ! 自己満足に浸っていると、先生が入ってきた。
「皆さん、おはようございます。これから中間テストが始まります。この時期からのテストは、皆さんの将来を左右する大事なテストになってくるので、より一層気を引き締めて臨んで下さい。それでは、机の上には筆記用具と時計だけ置いて、ノート等の類は全て鞄の中に入れて下さい」
始まる。背筋が伸びるような感じがした。一瞬、不安そうに俯く旗本さんが映ったけど、今は自分のことに集中することにした。お互い、きっと大丈夫。心の中でエールを送った。
3時間目終了のチャイムが鳴った。今日はこれで終わり。あと2日あると思うと気が滅入るけど、今はひたすら頑張るしかない。先生が数学のテストを回収すると、一斉に溜め息が聞こえてきた。皆口々に労いの言葉をかけるけど、僕にはそれが少し白々しく聞こえた。
「赤羽くん、どうだった?」
「音楽のテスト以外はまあまあだったと思う。結構難しかったね」
「本当。私なんてもうぐったりだよ」
「そりゃそうだよ。お疲れ様」
つい出てしまう。これしか言うことは出来ないのか、僕。それでも笑ってくれているからいいけど。いつも通り帰ろうと席を立つ。早く帰って、明日のテストに向けて勉強しなきゃいけない。でも、周りを見ると何か様子がおかしい。皆がある席の周りでざわついていた。
「青野くん、もうテスト終わったよ」
「起きろよ青野。どうしたんだよ」
ああ、あいつか。青野って奴は、この学年で指折りの不良で、1年生の頃は井坂さんのイジメにも関わっていた。学校には来ない時の方が多いし、来たとしてもまともに授業を受けることなんてない。案の定、今日のテストもこうやって机に突っ伏して寝ていたわけだし。
でも、いつもはなんだかんだ文句も言いつつ起きる時もあるのに、先生が起こそうとする声にも全く反応しない。どうしたんだろう。
「青野。いい加減起きろ。もうテストは終わったぞ」
結構な大声で起こそうとしているけど、結果は同じだった。見かねた先生が、青野を机から剥がす。抵抗してくるものかと思ったけど、驚くほどすんなり起こせた。だけど、直後に皆が悲鳴をあげた。
「おい青野! 大丈夫なのか!」
「……」
「凄い熱だ……。 誰か! 保健室連れて行って!」
彼の顔は真っ赤になっていて、鼻から血も出ている。誰かの支えが無ければすぐに倒れてしまいそうなくらい、意識が朦朧としていた。クラス中パニックになっていて、旗本さんも、変わり果てた青野に言葉を失っていた。
「ねえ、何が起こってるの……?」
「僕にも分からないよ」
「もしかして、また幽霊の仕業?」
「しっ! そうかもしれないけどさ……」
旗本さんの頭の中では、幽霊屋敷のあれが蘇っているのかもしれない。あれも本当に幽霊がいたっていうオチだったけど、今回はそうなのか見当もつかない。本当に病気にかかってしまったのかもしれないし。それにしても一体、何があったんだ? 昨日までは全然そんなこと無かったのに。あまりにも突然すぎて、皆が恐れている。数分後、青野を保健室に運んだクラスメートと先生が帰ってきた。
「皆さん、今日はすぐに帰ってください。とりあえず、明日のテストは通常通り行う予定ですが、何か体調に不安がある場合は、テスト中であろうと直ぐに申し出て下さい。それでは、さようなら」
続々と「さようなら」も言わずに、皆が帰っていく。逃げるような小走りで。旗本さんは少し顔が青ざめていて、今にも泣いてしまいそうだった。どうにかして不安を受け止めたかったけど、僕には無理だった。二人で帰りの挨拶をして、旗本さんは車へと行ってしまった。
「……はあ」
明日は果たして、無事にテストが出来るのだろうか。旗本さんの車を見送りながら、そんなことを考えていた。
外に出ると、周りは青野の話題で持ちきりだった。話が広がるのが早いな……。いきなり出てきた正体不明の病気に怯えているのか、なんだかいつもよりマスクをしている人が多く感じる。僕も早く帰らなきゃ。足を早める。
校門から出ようとする。いつもより肌寒く感じるのは気のせいだろうか。いや、気のせいということにしておこう。と、誰かにぶつかったような感触があった。下を向いていたから気付かなかった。
「あ、すみません……」
謝ろうと顔を上げると、僕の足は止まった。まさか。話には聞いていたけど、もうここに来るなんて……。
「久しぶり、義人くん」
そこにいたのは、紛れもなく水原さんだった。




