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知らせ

Even a worm will turn.

「一寸の虫にも五分の魂」という意味です。

物語が進んで行くにつれ、その意味が分かってくると思います。

 あれから2週間が経った。フリースクールは中間テスト期間で、いつもよりも少しだけ、勉強に熱が入っている感じがする。私は真面目に授業受けてるはずなのに、小テストとかになると全然答えが出てこない。不登校になってから頭の回転が鈍くなった気がする。勉強以外のことは少し頑張れているのに……。今回のテストで頑張らなきゃ、内申点がとんでもないことになると先生に脅されたから、一層勉強しなきゃいけない。

 テスト勉強をきっかけに、スマホを殆ど使わなくなった。使うのは下校途中、母さんからお使いを頼まれた時だけ。あとは時間を確認する時に電源をつけるくらいだ。今までみたいに、緑のSNSでやり取りするというのはめっきり減った。勿論、紫苑とも。


 あの事件以来、あの子は学校に行かなくなってしまった。今は傷を治すために、近くの大学病院にいるらしい。お見舞いに行きたかったけど、親族以外は面会謝絶だと言われてしまった。表向きは、感染症対策とは言われたけど、あの子は私が思っている以上に傷ついているんだ。今でも夢の中で、涙をぼろぼろ零して、私に抱き着いてきたあの子の顔が出てくることがある。それを思い出す度に、傷つけた奴等が許せなくなる。逮捕されてから続報を聞かないけど、罰を受けていたらいいな。

「井坂さん、井坂さん!」

「あ、はい!」

「さっきから呼んでるけど、ボーっとしてない? 教科書の102ページを読んでください」

「分かりました……」

 ボーっとする時間も増えた。いつも勉強以外の何かを考えていて、気づいたら疲れている。そんなことの繰り返しだ。不登校になっていた時よりは体力もついたはずなんだけど……。ああもう! そんなことばかり考えても仕方がない。音読の声が、少しだけ大きくなっている気がした。


 下校途中、母さんからお使いが頼まれているかどうか確認する。SNSを開いても、新着は無い。あ、そう言えば今日は私が料理当番の日だから、お使いは必要無いんだった。なんか調子狂うんだよな。誰とも連絡を取らない日が、続くようになってから。溜め息が出る。今日は椿さんとも話さないで、真っすぐ帰ろう。そう思っていた。

 と、久しぶりにこんな時間にスマホが震える。誰だろう。画面を開くと、赤羽くんからだった。あの事件以来、私からは連絡を取らなかったのに、一体何があったんだろう。

『久しぶり。元気だった?』

『私は大丈夫。赤羽くんは?』

『どうにかやってるよ。旗本さんとは連絡、取ってる?』

『まだ。なんか、紫苑もそういう気分じゃないと思っちゃってさ……』

 歩きスマホはダメだって分かっていたから、いつもの公園のベンチに腰を下ろす。男の子と連絡を取り合うなんて、少し前までは全く考えられなかった。でも今、こうして紫苑の安否を心配して、不安を埋めている。私がこんな感じだから、赤羽くんはもっと心配しているのかもしれない。私が男の子に対して、こういう感情になれる日は来るんだろうか。そんな下らないことも考えてしまう。

『これから学校祭の準備に入るんだけど』

『あれ?もう終わったと思った。まだだったんだ』

『感染症騒ぎで延期になったんだ。それで、クラスのまとめ役の旗本さんがいないもんだから、みんな好き勝手始めちゃって……』

『大変なんだね。どんなことするの?』

『ステージで踊ったり、クラス展示したり。去年と変わらないよ』

『私、去年学校祭参加してなかったから分からなかった。そんなことやってたんだ』

『あ、ごめん!こんなこと言っちゃって』

『大丈夫。気にしなくてもいいよ』

 2週間、他人と全く連絡を取っていなかった割には、そこそこ会話が続いている。これも私にとっての進歩なのかな。しかし、学校祭か。去年は私がいない間に、どんな楽しいことがあったんだろうな。フリースクールでも学校祭はやるみたいだけど、普通の学校と比べたら、全然大したことない。

『紫苑が学校来なくなって、寂しい?』

『ちょっとね。というかそんな質問して、隣に母さんいたりする?』

『今回は違うよ笑 ただ心配だったから聞いただけ』

『びっくりさせないでよ! それじゃ、またね』

『うん。またね』

 スマホの電源を切る。ところで、紫苑は赤羽くんのことをどう思っているんだろう。それを聞いてもどうにかなるものじゃないのは分かっているけど、純粋に興味がある。それに、女の子同士でこういう話、したことなかったし。でも仮にやることになっても、私に話のネタが無いのが一番の困りどころだ。

 私の前を、近所の高校生が通りかかる。男女仲睦まじく、手を繋いで歩いていた。この人たちはどういうきっかけで仲良くなって、どういうきっかけで、どんな瞬間に、一緒になりたいって決意したんだろう。


 冷たい風が吹くけど、私の周りに、幽霊はいなかった。



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