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救出へ(3)

※※※※※


 車に揺られてどれくらい経ったのか分からないけど、私が降ろされたのは意外な場所だった。

 市立朝露小学校。私と真白ちゃんの思い出の場所だ。でも、ここが私の最期の場所になっちゃうんだろうな。凄く怖いはずなのに、涙は零れないし、身体も震えない。私は手を縛られて、体育館に入れられた。暗くてうっすらとしか見えなかったけど、扉の鍵は壊されていた。

 体育館の中には、男の人が一人、立っているだけだった。

「なんで俺も呼んだんだ? 俺はただブツを受け取るだけのはずだろ?」

「すみません。少し手伝って欲しいことがあって」

 手伝ってほしいこと? 疑問に思ううちに、私を攫った男は、鞄から道具を取り出す。突然、私の目に強烈な光が入った。うわ、これなんだ? 少しだけ目が慣れた頃には、道具が床に並べられていた。

 なにこれ。三脚にカメラ、見たことのない道具が何個か。そして、凄く鋭い包丁。カメラの後ろには、光の正体。写真撮影か何かに使う照明灯? こんなの用意して、私をどうするつもりなんだろう。直ぐに殺されるわけではなさそうだ。

「立石さん、カメラの用意は出来ましたか?」

「ああ。ったく、なんで俺がお前の手伝いなんてしなきゃいけねえんだよ。俺がヤる方だと思ったじゃねえか。まあいいや。金になるもの頼むぞ」

 立石と呼ばれた人は、やる気がなさそうな声で撮影開始の合図を送った。ちょっと待って。私、何も知らされてないんだけど、これから一体、何が始まるの? そんな時、私を攫った男が隣に座る。

 嫌だ。この人が隣にいると、吐き気がしてくる。それでも平静でいなきゃ殴られる。いや、それだけならまだ良い方かもしれない。男はニタニタしながら、私に質問を投げかけてきた。

「初めまして。名前を教えてください。下だけでもいいから」

 本当は答えたくないけど、あの包丁を見てしまった私は、思わず答えてしまった。

「……紫苑。紫苑です」

「歳はいくつ?」

「じゅう、よんです」

「14! 若いねぇ。おじさんもその頃に戻りたいよぉ!」

 男が明らかな作り笑いで話しかけてくる。ああああ、キモいキモいキモいキモい! 明らかに顔近いし、私の肩に手が触れてるし、加齢臭きついし! 吐きそうになるのを抑えて、私はインタビューのような何かに答え続けた。答えていっても、無事で済まないのは分かっているけど。


※※※※※


 結構走った。息が切れて、汗はびっしょり。ようやく小学校に着いた頃には、警察車両が何台かいる程度だった。そこでは、さっき見た警察の人たちが話している。

「しかしこんなことがあり得るのか? スマホのGPSが勝手に起動するなんて。最初は逆探知しようとしても、全く反応が無かったんだろう?」

「そうなんですけど、小学校に着いた時に、突然スマホの電源が起動したみたいなんです。お陰でここに来れたわけですけど」

 スマホの電源が勝手につく? あ、私も何回か経験あるかも。フリースクールの授業中、あの子にされたこともあったっけ。私が叱りつけたら、もうやらなくなったけど。もしかして、あの小学校には本当に幽霊が住み憑いているのかな。去年入った時は、そんなの視なかったけど。

 警察の人と一緒にいるのは、紫苑の両親? 私なんかとは比べ物にならないほど疲れているからきっとそうだ。ここで声をかけるのもちょっと気が引ける。学校の方に目線を移す。今、あの中に、紫苑がいる。周りからちらほら、「警察を誘導するための罠だ」なんて聞こえてくるけど、あの子はスマホを肌身離さず持っているから、それはないと言い切れる。

 少し経つと、ようやく赤羽くんが到着した。私と同じく、最低限の装備しか持ち歩いていない。痛々しい傷は、ガーゼで覆われていた。

「もう痛くない? その傷」

「まだ少し痛い。それよりも、旗本さんは?」

「まだあの中みたい。警察の人たち、これからどうするんだろう」

「早く助けてほしいけど……」

「仕方ないよ。誘拐事件だよ? 下手に動いたらどうなるか分からないよ」

「うん……」

 赤羽くんも、私と同じくらいそわそわしている。こうして立っているだけで何もできないことにもどかしさを感じる。一般人だから仕方ないかもしれないけど、それでも悔しい。

 警察車両の台数が増えていく。それでもサイレンは鳴らさない。その中の一台から、町田さんも降りてきた。そして、緑さんも。

≪お待たせ! 町田くんの連絡見た?≫

「……ごめん、赤羽くん。ちょっとごめん」

「え? 何処行くの?」

「幽霊に呼ばれた!」

 きっと赤羽くんなら信じてくれるだろう。私は足早に、体育館裏に姿を隠した。

「緑さん、いきなりどうしたんですか。連絡なら、赤羽くん経由で読みましたけど」

≪そっか。ところで、ちょっと提案があるんだけど≫

「何ですか?」

≪二人で、あの中に潜入しましょう!≫

「……は?」

≪私、さっき学校の中を一通り捜索してみたんだけど、旗本さんはずばり、この体育館の中にいることが分かったの!≫

「は!?」

≪声が大きい。それで問題があるんだけど、旗本さんは今、ナイフで脅されている状態。犯人は二人組で、大家と、チンピラみたいな見た目の人。細かいこと言うともっとあるけど、中学生には刺激が強すぎるから……≫

「どうやって救出するんですか?」

≪お、この誘い、乗った?≫

「……当たり前です。目の前に絶体絶命の友達がいて、助けに行かない方がおかしいですよ」

 私はなんだか、言葉では言い表せない気持ちが湧いていた。緑さんはニッコリと微笑んで、ゆっくりと腰を下ろす。

≪段取りは簡単。私が先に入って二人を金縛りにかける。その隙に、真白ちゃんは旗本さんを救出して。一人を金縛りにするんだったら造作もないんだけど、二人になると倍のエネルギーを使うから、短期決戦になります。そのことに注意してね!≫

「分かりました。何処から入ればいいんですか?」

≪体育館の入り口の鍵が壊されていたから、そこから入って。私は自由に出入りできるから、なるべく犯人に近い場所から入る。距離が近くないと、効力が強くならないから≫

 無言でゆっくりと頷く。早速、体育館の出入り口に移動すると、警察官数人が張っていた。ああ、こんなことしていたらいつまでたっても助けられない! そんな私の顔色を察してくれたのか、緑さんは溜め息を吐いて、警察官に近づいていく。

≪無駄な力は使いたくなかったんだけど……≫

 緑さんが警察官たちの首元に手をかざす。直後、彼らは続々と身体が縮こまるようにうずくまってしまった。どうやら、一時的ではあるけど寒気を起こしたらしい。

≪ぼーっとしてないで! 早く入る!≫

「あ、はい!」

 慌てて体育館へと入る。廊下を少し進むと、鉄の扉で閉ざされている。あとは緑さんが金縛りをして、私が助ければ良いだけだ。でも、少しだけ不安なことがある。

「緑さん、一ついいですか?」

≪どうしたの?≫

「……緑さん、力を使い過ぎるような感じがして不安なんです。犯人は、くれぐれも生かして下さいね。二人には相応の罰を受けて欲しいので」

≪そっか。真白ちゃんは優しいんだね。分かった。死なない程度にしておく≫

 口元は笑っていたけど、眼は幽霊のそれだった。一体中で、どんな酷いことが行われているのだろうか。その時だった。

「やだ! やめて! お願いします! 警察には言わないから!」

 紫苑の悲鳴だ。これが合図であるかのように、先に緑さんが通り抜ける。鉄の扉を押し、私は走った。今助けるからね! 本当に、あと少しだからね! 紫苑!



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