救出へ(1)
赤羽くんが指定したアパートの前に着く。正直、あの中学校の近くまで行くのは抵抗があったけど、今はそんなこと言っていられない。そこでは既に警察が捜査を始めていて、ドラマの撮影と思うようなものが広がっていた。
赤羽くんは……、いた! 警察の人からの質問は終わっていたみたいで、泣きそうになりながら電柱にもたれかかっていた。椿さんは、そんな赤羽くんを見て言葉を失っていた。
「赤羽くん、大丈夫? その顔どうしたの!」
「……殴られた。あの男に。ほっぺたにDNA? がついているかもしれないからって、さっき警察の人が良く分からないことしてた」
右の頬は真っ赤に腫れていた。今はもう乾いているけど、鼻血まで出ている。
≪義人! 本当に大丈夫なの? 他も何処か殴られたりしていない?≫
「椿さん、落ち着いてください。義人くんはこの通り大丈夫ですよ!」
「え? 今母さんいるの?」
「……うん」
「母さん、ごめん。僕、友達を守れなかった」
≪そんなことない! 義人はよく頑張った! 今は旗本さんの無事を祈りましょう!≫
椿さんは、勇敢な息子の姿を見て涙ぐんでいた。私はしっかりと椿さんの言葉を伝えると、無意識にスマホを見ていた。当たり前だけど、既読はついていない。
「どうしよう……」
今はただ、紫苑が無事であることを祈るしかなかった。
※※※※※
ようやく到着。町田くん、まだ部屋にいるかな? 私はこっそり現場を抜け出して、幽霊屋敷、もとい私たちの住処にいた。周囲は嫌に静かだ。町田くんの部屋に入ると、気難しそうな顔をしているのを見つける。
「おかえり。大家の様子は?」
≪様子も何も、もう実行に移したんだよ! 旗本さんが誘拐された!≫
「……マジかよ」
≪そこで提案なんだけど、警察に情報提供してくれないかな? 大家と連絡がつかないとかそれっぽいこと言って≫
「ああ。分かった。案内してくれ」
町田くんは急いで部屋から出ると、車に乗る。事実、私は町田くんに会う前に一度、大家の部屋を確認した。やっぱりもぬけの殻で、部屋にあったはずのカメラや三脚といった撮影機材が、綺麗さっぱり無くなっていた。いよいよ疑惑が確信に変わっていく。ますますあの変態野郎を呪ってやりたくなった。
現場に着くと、少しずつ警察官が撤収し始めていた。これから周辺の聞き込み捜査でも始めるのだろうか。車で走っている間、いつもよりパトカーが多い印象は受けたけど。町田くんが車から降りて、警察の人と話している。上手くいけばいいんだけど……。
「あの、すみません」
「はい。どうされました?」
「女の子が誘拐されたって本当ですか?」
「はい。酷い事件ですよね」
「……お役に立てるかどうかは分かりませんが、一つ情報を提供してもよろしいですか?」
「はい、お願いします……」
警察官が事務的に対応していると、何やら一組の夫婦? が町田くんに駆け寄ってきた。
「紫苑について、何か知っているんですか!」
「あの、お二人は……?」
「紫苑の親です。あの子が帰ってこないと思ったら、誘拐されていたなんて……。それで、情報って何ですか! どんな些細なものでも構いません! お願いします!」
なるほど。両親か。母親の方は泣き崩れていて会話できなさそう。辛うじて父親が、町田くんと話せている。警察官も、情報を待っているかのようにメモ帳を取り出した。私の言った通りに話せば、何か進展があるかもしれない。今はそれしか考えられなかった。頼む! 何か引っかかってくれ!
「あの、今日の朝から大家と連絡がつかないんです」
「大家?」
「はい。私、今有名の幽霊屋敷の住民なんです」
「参考までに、大家さんの名前は?」
「金田 敦彦です」
「……金田?」
警察官の顔が急に強ばる。なんだ? これは進展ありそう。私は少しだけ期待してしまう。隣で見ている旗本さんの父親も、祈るように手を合わせていた。直ぐに警察官が、上司と思われる男の人を呼んできた。ちょっと経歴が長そうな、立派な体格をした人だ。
「ご足労感謝します。刑事の荒巻と申します。金田 敦彦さんをお探しですか?」
「はい。連絡がつかなくて困っています」
「それは、この人ですか?」
荒巻と名乗った男の人は、一枚の紙を見せてきた。
「これは被害者と一緒にいた男の子が提供してくれた情報を元に作った似顔絵です。もしかして、この方ではないですか?」
私も確認の為に似顔絵を見る。え、マジ? めちゃくちゃそっくり。今にも死にそうな目つきとか、年齢不相応に老けた肌とか。赤羽さんの息子さん、できる子だなぁ。おっと、感心している暇はない。
≪間違いない。これ大家だよ!≫
「はい。間違いありません。この人です!」
「ありがとうございます。あいつ、またやったか……」
ん? またやった? ちょくちょく気になる言葉混ぜてくるなこの人たち。まあいいや。これで突破口が開けた。町田くんは荒巻さんと一緒に、またアパートに戻ることになった。私も町田くんの車に乗ることにしよう。その前に……。
≪真白ちゃん!≫
「緑さん! 視ないなと思ってたんです。何処行ってたんですか」
≪町田くんに情報を伝えにアパートに戻ったり色々やってた。それより、動きがあったみたいだよ? 私たちの予想通り、大家が犯人だった!≫
「本当ですか! でも、居場所が分からなきゃどうすることも……」
≪ここからは警察に任せた方が良いと思う。まあ私と町田くんも、なるべく頑張ってみるよ≫
「あの……、私も連れて行ってもらうことはできませんか?」
≪流石にこんな時間だし、一人で来るのは危ないよ。もう捕まるのは目に見えてるから、そろそろ帰った方がいいんじゃないかな。あとは大人に任せなさい! ってね≫
「……そうですか。分かりました」
そうは言っているけど、真白ちゃんは明らかに納得していない。でもこれ以上、首を突っ込んで欲しくない。ここから先は、私たち大人でさえも直視したくないものが待っているかもしれないから。私は笑顔を作って、安心させようとするので精一杯だった。
≪じゃあもう行かなきゃ。それじゃあね!≫
「……」
なんか嫌な予感しかしないけど、今は目の前の事件を解決しに行かなきゃ。俯いて泣きそうになっている真白ちゃんを置いていくのは心苦しかったけど、今はそうするしかなかった。




