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私は走る

 私は、町田くんに一切を話した。あと2日で、あの大家は危険な行動に出る。たとえ自分たちで手を下すことができなくても、これだけは真実として伝えたかった。

「……そうか。そんなことが」

≪やっぱり私たちの見立ては間違っていなかったんだよ! でも、やっぱり悔しい≫

「実行に移さなきゃ、警察は動いてくれないからな。俺が仕事でいない間、見張りを頼む。その気になったら、金縛りなりなんなりして大家を止めてくれ」

≪うん。分かった≫

 先ず町田くんには話した。次はあの子だ。疑惑が確信に変わった今、私は一目散にあの子の家へと動き出していた。近隣の幽霊から情報を聞いて、真白ちゃんの家を探す。さっき一緒に話した公園に向かって、幽霊仲間から話を聞くことにした。

≪あの髪の白い娘? 流石に場所までは分からないな……≫

≪私も。この公園からそこまで離れていないってことは分かってるんだけど≫

≪そうだよね。あー、何処にいるんだろう≫

≪ごめんね、力になれなくて≫

≪ううん、いいの。ありがとう!≫

 結果は空振り。そりゃそうだ。私の仲間は真白ちゃんの存在こそ知っているけど、関わったことが無いから、居場所なんて知るわけがない。何か知っていると思ったんだけど、私の当ては外れたってわけだ。

 また明日、出直そうかな。でもいつ大家が行動に出るか分からないし、もしかしたら真白ちゃんが標的にされる可能性だってある。一刻も早く知らせたい。そんな時、一人の女性の幽霊がベンチに座っているのを見つけた。そういえば、この人、結構ここにいて長いと聞く。一か八か、聞いてみることにした。

≪あの、すみません≫

≪こんばんは。どうかしました?≫

≪この辺りに、井坂 真白の家はありませんか? 私たちが視えるっていう≫

≪あら、井坂さんのお知り合い? 私、知ってるよ≫

≪本当ですか! あ、申し遅れました。私、篠田 緑と言います!≫

≪篠田さんね。私、赤羽 椿と言います。それで、井坂さんのお家に行きたいの?≫

≪そうなんです。どうしても伝えたいことがあって……≫

≪じゃあ行きましょう。井坂さん、私だったら家に入れてくれるから≫

≪ありがとうございます!≫

 本当に助かった。しかし口ぶりから、この人も過去に真白ちゃんと何かあったんだろうな。些細なことを考えながら、私は赤羽さんの後ろをついて行った。

 移動して5分、ごく普通な一軒家の前で、赤羽さんが立ち止まる。表札にはしっかりと、『井坂』と記されている。ここだったのか。案外、公園から近かった。

≪ちょっと井坂さんがいるかどうか確認してくるね≫

≪お願いします。一刻を争うんです!≫

 赤羽さんが二階へ消える。そわそわしているのが自分でも分かる。時間が長く感じる。早く来ないかな。こんなに焦るなんて、他人のことを思うなんて私らしくない。でも今は、そうなるほど緊急事態なんだ。そこに、赤羽さんが降りてきた。

≪部屋にいたよ。入ってもいいって≫

≪ありがとうございます!≫

 私は急いで二階へ上がった。


※※※※※


 久しぶりに椿さんが顔を出してくれたと思ったら、つい何時間か前に話していた緑さんがついてきた。一体、何事だろうか。私は狭い部屋に幽霊二人を招いて、話を聞くことにした。

「もう少しで母が帰ってくるので、手短にお願いします。何かあったんですか?」

≪今日別れる直前に、幽霊屋敷には近づかないでって警告したよね?≫

「はい。しっかりと。一応、紫苑にも警告はしました」

≪紫苑って、義人が気になってる子だよね?≫

「そんなところです。本人は真っ向から否定していましたけど。何か他に警告することがあるんですか?」

≪結論から話すけど、あの盗撮事件、盗撮犯を捕まえて終わりじゃなかった。大家も関わっていたんだよ!≫

「え?」

 いきなり過ぎることに、私はそういう反応しかできなかった。まだ、あの事件は終わっていなかったって言うことになる。身体が震える。あの時を思い出す。呼吸が速くなる。

「どういう、ことですか」

≪大家の話を盗み聞きしたんだよ。そしたら怪しい男と電話で話していて、2日以内にブツを用意しなきゃ、お前は終わりだって≫

「ブツって、私がされたことみたいな……」

≪それもあるし、もっと危ないことかもしれない。兎に角、2日以内に真白ちゃんと同じくらいの年齢の女の子が危ないめに遭う!≫

 この力説は、嘘ではなさそう。というかそもそも、嘘だったらわざわざ椿さん経由で私の家になんて上がってこない。私は慌てて、紫苑へ連絡しようとスマホを取り出す。緑のSNSを開いたけど、そこには見たくないものが映っていた。


 本来ならば秒で、遅くても3分以内には既読がつく紫苑だったけど、この日は一切、既読がついていなかったからだ。勿論、私が緑さんと別れた直後にした警告にも。震えそうになるのを必死に堪えて、電話機能を使って確認を取る。でも、何回コールしても、繋がることは無かった。汗だくになった手で通話を終了する。

≪……出ないの?≫

「はい。一切」

≪きっと、偶々電源切ってるとかそんなんだよ。きっと。大丈夫大丈夫!≫

 緑さんが必死に何かを言っている気がしたけど、それっぽいことしか聞こえない。声が震えているのが自分でもよく分かった。ちょっと待ってよ。なんで既読つかないの? 既読無視はダメだってテレビで言ってたんだよ? どうして?

 そんな時、着信が入った。でも、紫苑じゃない。え? 赤羽くん? 震えを抑えながら、慎重に電話に出る。

「もしもし、どうしたの?」

『ごめん、ごめん……』

「ちょっと、どうしたの! 何かあったの?」

『旗本さんが、誘拐された……。僕の目の前で』

 言葉も出なかった。まさか、警告したその日に、こんなことが起こるなんて。発狂しそうになる。紫苑のことが心配で、胸が張り裂けそうになる。でも落ち着け、私。今は最善の道を通ることに集中するんだ。

「警察には連絡した?」

『した。帽子被ってたけど、人相は見えた。しっかり覚えてる』

「そう。良かった。今から、赤羽くんのところに行っていい?」

『うん……』

 赤羽くんの声に元気がない。ショックを受けているのが伝わってきた。でも、それは皆同じだ。電話は繋いだまま、急いで準備をする。

≪義人の所に行くの? じゃあ私もついて行く!≫

≪私も行く。あの変態親父め。とっちめてやる!≫

「赤羽くん、今どこにいるのか教えて!」

『……学校の近くの、人気のない道。赤茶色のアパートの近く』

「分かった、ありがとう。直ぐ向かう!」

 私は走った。初めて、他人の為に走った。どうか無事でいて、紫苑!



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