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幽霊って、怖い

※※※※※


 あの事件から2日後、私はあの幽霊屋敷を目指して歩いていた。でも、いつも隣にいるはずのあいつはいなかった。

 最近、赤羽くんが一緒に帰ってくれない。どうしちゃったんだろう、あいつ。朝は一緒に登校するけど、なんか態度がよそよそしい感じがする。今日は国語の授業で調べ物があったけど、私とあまり目を合わさないで話してたし。昼休みも机に突っ伏して寝ている。なんからしくない。疲れてるのかな? 調子狂っちゃう。まあ、こういう時は身軽に動けて良いんだけどさ。あいつが一緒についてくると、根も葉もない噂が立っちゃうし。

 制服のスカートの中には、体育の授業で使った短パンを履いている。私はあの時、デニムパンツを履いていたから被害には遭っていなかったけど、ああいうことが起こってしまってから、少し敏感になっている。真白なんか尚更だ。ただでさえ人とあまり接してこなかったあの子があんなことをされちゃ、人間不信が加速する。いや、男にされたから、男性不信? とにかく人と接することが怖くなってしまわないか、私は不安だ。

 チャットはしている。『大丈夫』とは言っているけど、本当はどうなのか分からない。きっと相当傷ついたはずだし、あの人のアパートへ行った時も、かなり苦労したと思う。どうしてあの子ばかりが不幸になるのか。理不尽だけど簡単には変えられない事実に、私は少しイライラしていた。


 駅に着くと、一息つく。なんか疲れちゃったな。スマホを開いても、真白や赤羽くんからメッセージは来ていない。2日前に買ったものと同じコーヒーを飲む。凄く暑いから、一気に飲んでしまう。思わずため息が出た。真白と一緒にいないと、美味しさが半減するような感じだ。

 なんとか重い腰をあげて、幽霊屋敷まで歩いていく。コーヒーは片手に持ったままだ。今日は興味本位であそこに行くわけではない。あの男の人、確か町田さんに、お礼を言いに行くのだ。少し気を引き締めていかなければ。汗が流れるけど、そんなことは構わず、前だけを見つめて歩き続けた。


 到着。観光客はゼロ。駐車場には車も停まっていない。しまった。これはやらかした。私、今が平日の真昼間だってことをすっかり忘れていた! なんたる不覚! もう少し遅い時間に訪れれば良かった。これは、あの人もいないんだろうな……。全身の力が抜けていくのを堪えて、諦めて帰ろうとする。

「馬鹿だな、私……」

 ついつい出てしまった。私、考えるより先に身体が動くタイプだってことを理解していなかった。みんなから、「もっと考えて行動しろ」なんて言われる。真白にも笑われたことがあったっけな。これで何度目だろう。同じ間違いを繰り返したのは。そう思った時だった。

 突然、私の背中を涼しい風が通った。あれ? この感覚、前も覚えがあるような……。足が止まると、誰かが階段から降りてくる。少しだらしない私服を着た、背の高い男性。間違いない。2日前に会った町田さんだ!

「あ、君は確か……」

「髪の白い女の子と一緒に、ここの写真を撮っていました! 旗本という者です!」

 感謝の気持ちを込めて、深々と礼をする。あのまま犯人が捕まっていなかったらと思うと、ぞっとする。

「いやいや、そんなにかしこまらなくても良いよ! 本当にありがとう。昨日も君の友達がお礼を言いに来てくれていたんだよ」

「真白ちゃんからは聞いています。あの子をここに誘ったのは私ですから」

「そうだったんだ。君は大丈夫だった?」

「はい。どうにか。あ、そうだ。これ、召し上がって下さい!」

 私は鞄から、手作りのクッキーを差し出す。真白がお礼に言ったことを知ってから、慌てて材料を買って、その日のうちに作った。だから形は少々どころじゃないくらい不格好だけど、味見してみたらなんとか大丈夫だった。町田さんはとても驚いていた。

「これ、君が?」

「はい。お口に合うか分からないですけど……」

「本当にありがとう! 元はと言えば僕の管理がなっていなかったから起こったことなのに」

 申し訳なさそうに頭を下げている町田さん。頭を下げたいのはこっちなのに。なんか変な感じ。だけど、これで肩の力が抜けたような気がした。それにしてもこの人、本当に幽霊が視えるのだろうか。少しだけ探りを入れてみることにする。

「あの、差し支えなければお聞きしたいんですけど……」

「ん? 何?」

「ここって幽霊屋敷だって騒がれているじゃないですか。本当に、幽霊っているんですか?」

「うーん、どうなんだろう。電気が勝手に点いたり、金縛りが起こったりすることでしょ?」

「はい。昨日の事件も、犯人が何の前触れもなく倒れたから逮捕できたって感じで見ました」

 笑顔が段々引きつってくるのが分かる。ん? 昨日は幽霊の存在を全否定していたのに、少しだけど、否定しなくなってきたぞ? 金縛りの件で誤魔化せなくなったのかな? 私は勢いづいて、更に突っ込む。

「それに私、さっき不思議な体験をしたんです」

「何かな?」

「ここに着いた時、誰もいなかったから、自宅に帰って出直そうとしました。そしたら、背中にいきなり冷たい風が来たんです」

「冷たい風……」

「そうです! そしたら、そのすぐ後に町田さんが降りてきたんです! これはきっと幽霊の仕業です! もうすぐ町田さんが来るよって!」

「……偶然じゃないの?」

「前も背中に冷たい風が入ってきた時があったんですけど、それも後々調べてみたら、幽霊がいたってことが分かったんです! ほんの一部の友人しか信じてくれませんでしたけど、今なら確証を持って言えます! 私の仮説は、間違っていなかったって!」

 私は、周りに人がいないのを良いことに、持論を話し続けた。町田さんはどうしていいか分からないような顔になっていたが、一昨日のように突っぱねるようなことはしなかった。私は気付いたら汗だくになっていた。しまった。少し喋り過ぎちゃった。急に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「あ、すみません! 私、つい……」

「大丈夫。俺も時々、そう感じることがあるんだ」

「え……?」

「これは誰にも言わないでよ? 俺も週に何回か、君と似たようなことが起こるんだ。金縛りの被害が報告された日なんて特に」

「……嘘。マジですか!」

「うん。君とはちょっと違うけど。なんか寒さがまとわりつくような感じ。あ、今も……」

「あれ? 町田さん? ちょっと!」

「大丈夫、俺は大丈夫だから……」

「どう見ても大丈夫じゃないですよ!」

「たまにこうなるんだよ。やばい、ちょっとやりすぎだって……」

 町田さんはその場に倒れると、ガタガタと震え始めた。こんなに暑いのに鳥肌立ってるし、身体も震えている。ここには絶対幽霊がいる。びっくりして何もできない自分もいる。幽霊がいることがほぼ確実になっている事実を突き付けられた私は、真白の気持ちが少しだけ分かった気がした。

 そうだよね。怖いよね。当たり前だけど、幽霊って、本当は怖いものなんだ。自分でも心のどこかで、幽霊なんて本当は実在しないものだって思っていたのかもしれない。だからあんなにはしゃげたし、色々興味を持って調べられた。でも今は違う。もう幽霊の情報を聞いたら、前みたいにはしゃげないかもしれない。


 町田さんの震えが止まったのは、それから数分経ってからだった。私は成り行きで町田さんの部屋にいて、お皿にクッキーを盛り付けていた。昨日まで他人だった男の人の家にいる。クラスのみんなが聞いたらびっくりすることなんだろうけど、私は何も気にならなかった。

「本当にごめん。わざわざ介抱までしてくれて」

「いいんです。これくらいはしないと。ある意味、真白の命の恩人ですから」

 クッキーと一緒に持ってきた紅茶パックをカップに入れて、お湯を注ぐ。いつもうちでやっている方法だから、果たして町田さんの口に合うかどうか。少し濃い目に淹れて、町田さんに渡す。こんな暑いのにタオルを被って、熱い紅茶を飲もうとしている町田さん。こんなことを赤羽くんがやっていたら笑い飛ばしていたかもしれないけど、今は状況が状況だけに笑えなかった。あれ? なんで私、あいつのことなんか思い出したんだろう。

「砂糖と牛乳は要りますか?」

「そのままで大丈夫だよ」

 息を吹きかけて、紅茶を飲む。私は町田さんの表情が緩むのを見逃さなかった。

「美味しい……」

「ありがとうございます。良かった……」

「旗本さん? だっけ。俺はもう大丈夫だから、もう家に帰りなさい。暫くしていれば治るから」

「……はい。今日は本当にありがとうございました。また機会があれば、幽霊のお話とか、聞かせてください!」

「俺なんかで良ければ」

 私はお辞儀をして、部屋を出た。お礼のクッキーを手渡すだけだったのに、こんなに長居してしまった。夕焼けが眩しい。このこと、真白に言ったらどんな反応するだろう。今から楽しみになってきた。でも、幽霊と遭遇するのは暫くいいかな? 思い出したら、今でも背中がぞわぞわする。

 階段を降りていると、1台の車が停まっていた。その横では、大人たちが深刻な顔で話をしている。こういうのに首を突っ込むとろくなことにならない。私は素知らぬふりをして、家路についた。



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