大国皇太子は恋敵の母親の王妃の前でクリスに婚約を申し込みました
-なんでこうなった。
クリスはそう叫びたくなった。
避けていたエリザベス王妃殿下が、クリスの前に優雅に座っていたのだ。
放課後ジャルカに呼び出されて来てみればそこに王妃がいた。
王弟反逆の時は本当に好き勝手に悪口を言ったとクリスも思っていたため王妃とは絶対に会いたくはなかった。
「お久しぶりね。クリス。元気にしていた?」
王妃が声をかけてきた。
「はい。あの…」
クリスは言いよどむ。
「そうよね。うちのバカ息子にパーティーの時、皆の前で婚約破棄なんてされたら普通は機嫌が麗しいわけないわよね。
御免なさいね、クリス。
ひどい目にあわせて。謝ります」
王妃は頭を下げた。
「いえ、王妃様。王妃様が悪いわけではありませんし、私がエドの心に寄り添えなかったのが、原因でもありますので」
「そんな事は無いわ。すべて悪いのはエドだし。
それに私の王妃教育もとてもひどいものだったのでしょ」
王妃はニコッと笑った。
来た…王妃がこの笑いをするときは碌なことがないのだ。
クリスは絶体絶命のピンチを迎えていた。
その時まさに王妃が何事か禄でもない事を言おうとしたその時にオーウェンが扉を開けて現れたのだ。
「クリス、大丈夫?」
「オウ?」
いきなり現れたオーウェンにクリスは戸惑った。
でもナイスタイミングだと少し喜んだ。
後でなんで来てたのかと恨んだクリスだったが、この時は喜んだ。
「これはこれはエリザベス叔母様。お久しぶりです」
オーウェンはにこにこ笑った。
でも目が笑っていなかった。
「あなたをお呼びした覚えは無いんですが」
エリザベスは言う。
「またつれないお話ですね。叔母様」
オーウェンはそのまま不吉な笑みを続ける。
「私はお話ししたいことが山のようにあるのですが」
オーウェンはの目は笑っていない…いやいや怒りに溢れていた。
「えっオーウェン。どうしたのですか。そのように怖い顔をして」
「お判りですよね。叔母様。
そもそもクリスの婚約を私が申し込んだのに、先に無理やりエドとの婚約成立させましたよね。
幼い心にメチャクチャショックを受けたんですけど私」
えっ何そんな事聞いていない。
エドの婚約申し込む前にオーウェンが婚約申し込んだってどういうこと?
クリスには初めて聞く内容だった。
「えっいやオーウェン…」
「そんな傷ついた私がクリスの想いに区切りをつけるために、最後に過ごそうとこの王立学園に留学して来た時にあなたなんて言われました?」
「えっ。いやオーウェンちょっと待って」
エリザベスはグイっと顔を近付けてきたオーウェンを避けようとした。
「僕がクリスが好きなの知っていてエドとの婚約無理やり早めましたよね」
「いや、オーウェン。国を治めていくにはいろいろあって」
オーウェンは身を戻して椅子にもたれて
「そう、甥の想いなんてどうでも良いんですよね。
でも、最後の別れを言いに来た甥になんていいました?
もう婚約していて、結婚も視野に入っていて、どうしようもないのに。
留学は認めるけれどクリスはエドワードの婚約者だ。
他の男が例え幼馴染だと言えども異性の者が話すのはやめてほしいと。
私は叔母様の冷たい仕打ちに日々泣いて暮らしました。
クリスが公爵令嬢らにいじめられている時も、勉強で苦しんでいる時も、
話しかけたらドラフォードに送り返すの言葉に我慢していたんです」
オーウェンはそこで再度身をグイっと乗り出した。
「でも、あのエドの態度は何だったんですか!
もともとクリスに興味が無いんなら、私の邪魔しなければよかったじゃないですか!
違うんですか!叔母様!」
オーウェンは机を叩いていた。
「いや、あのオーウェン。それは違うのよ。
エドの幸せを考えて、クリスも生まれた国にいた方が幸せだと。」
「その結果が学園のサマーパーティーでの婚約破棄ですか!」
「そんなことするなんて思ってもいなかったのよ」
「思っていなかった?
クリスにあんな酷い目にあわせて。
私との婚約認めて頂けていたらそんな苦労クリスに背負わせなかったのに。
僕の純情な心をもてあそんで、クリスも翻弄して、聞くところによると礼儀作法において1ミリでもおかしかったらクリスを注意したとか。
エドはほったらかしにして!
酷く無いですか。」
「誰からそんなこと聞いたの。そこまでひどく無いわよね。クリス!」
「…」
王妃はクリスに問いかけたが、クリスは視線を反らして答えなかった。
「えっクリス…」
そこまでの態度を取られるとは思っていなかったので、王妃は絶句した。
「ほうら。そこまで嫌われているじゃないですか」
「えっいや、そこまで嫌っては」
クリスが言い訳するが、
「叔母様。クリスはもう私の婚約者です。
今後は話すのは私の許可得てからにしてもらいましょうか」
意地悪い笑顔でオーウェンは仕返しとばかりに言い切った。
「オウ、私あなたの婚約者じゃないから」
慌ててクリスが否定する。
「酷い。エドの時はすぐに許可したじゃないか」
エドが悲しんで言う。
「だって、あれはお父様がさっさと了解したから」
「じゃあ侯爵さえ納得すれば良いのか?」
「そんな。オウは皇太子だし、正式な申し込みとか大変でしょ」
クリスが逃げるように言う。
「正式な申し込みしたら受けてくれるの?」
オーウェンが畳みかける。
「オーウェン。それはもう」
「叔母様は黙っていてください。」
エリザベスが話そうとするのをオーウェンは止める。
「えっいやそれは…」
あまりの意気込みに実際やりかねないと危惧してクリスは口を濁した。
「何か君に伝わっていないようだから言うけど、君が婚約破棄された時から即座にうちの父親には言って、正式な婚約の申し込みをマーマレードの国王と君の父親には出させているんだけど…」
「えっ、嘘?」
クリスは信じられなかった。
「届いていますよね。叔母様!」
オーウェンが乗り出してエリザベスに詰め寄る。
「さあ、クリスへの申し込みは何十か国からも来ていて全ては覚えていないわ」
エリザベスはしらを切る。
「あああ!そんなに来ているのかよ。
叔母様。今度余計なことしたら私は絶対に許しませんからね!」
憤怒の形相でオーウェンが言う。
「あああ、もうそんなにライバルが多いなら、こんなことをしてはいられない」
言うやいきなりクリスの前に跪いていた。
「ちょっとオーウェン」
クリスが慌てて王妃は絶句した。
「クリス嬢。あなたの笑顔がずうっと好きでした。
どうか私を一生ご指導ください」
いきなり婚姻の申し込みを始めた。
「ああん、こんなところでやるなんて信じられない!」
クリスが怒る。
「だっていつまでも認めてくれないじゃないか。
この前みたいに横からトンビに攫われるような事はしたくない。
認めてくれるまでは何度でもやる」
「ちょっとあなたたち。元婚約者の母親の前で痴話げんかするの止めて」
涙目でエリザベスが言う。
「元はと言えば叔母様がクリスを横取りするのが悪いんでしょ」
「オウ、デリカシー無さすぎ」
言い争う二人の前でクリスは真っ赤になって言った。
元婚約者の母親の前で婚約の申し仕込みをするなんて絶対におかしい。
「もうちょっと待ってよ。ちょっと、お酒をちょうだい。素面ではやってられないわ」
後ろに控えていて侍女にエリザベスは言う。
「えっしかし学園ですし」
「何言っているのよ。私の言う事が聞けないわけ!」
「ひいい」
止めようとした学園の侍従は慌てて下がる。
「まあいいわ。とりあえず飲みなさい。」
エリザベスは何処から取り出したのか赤いワインの瓶を開けた。
そして、それを棚から取り出した3っつのグラスに入れて二人にも渡した。
3年前に気づけ薬でボリスがクリスにアルコールを飲ませて…
そして今、クリスにアルコールを飲ませてしまう王妃。
次回はシャラザール来臨???








