ジャルカの物理の授業は命懸け
翌朝アレクにたたき起こされたオーウェンは痛い頭をかかえながら足を引きずって女子寮に連れて行かれた。
アレクも頭を抱えている。
完全に二日酔いだった。
そして女子寮のホールでジャンヌとクリスを待つ。
朝の忙しい時に学校が始まって一週間がたって、さすがに朝から女子寮に迎えに来るものはほとんどいなかった。
そこに美形の二人がいるのだ。
キャピキャピ言ってみんな集まってくる。
その女の子の高い声が頭に響いた。
「ドラフォード様。今日はどうされたんですか」
同じクラスのメーソン子爵令嬢が声をかけてきた。
「いやあ、ちょっとね」
オーウェンは誤魔化す。
「ボロゾドフ皇太子殿下とおそろいなんてマーマレード皇太子様とお約束ですか」
アレクもオーウェンも二日酔いで頭がガンガンしているし話したくは無かったが、ここであまりひどい事を言うわけにもいくまいと無視することにした。
「あれ、お兄様」
食堂から出てきたガーネットとエカテリーナの声が重なる。
その後ろからぼうっとしたジャンヌが出てきた。
慌ててアレクはジャンヌの前に跪く。
「ジャンヌ姫。お迎えに上がりました」
しかし、アレクはいつもの元気もない。
ぼそぼそという声を全く無視して夢遊病者のようにジャンヌは目の前を通過していく。
「おい、ジャンヌ」
声をかけるが頭のぼうっとしているジャンヌはそのまま外に出た。
「おいっ待てってば」
慌ててアレクは追いかけていく。
「朝からジャンヌお姉さまに声かけても半分寝ているから無理なのに」
ガーネットが言う。
「オーウェン様。わざわざ私を迎えに来て頂けたのですか。」
エカテリーナはオーウェンの手に縋り付いていた。
後ろから来たクリスの元に行こうとしてものの見事にエカテリーナに捕まったオーウェンは慌てた。
ふんっとそのオーウェンの前で顔をそむけるクリスが歩いていく。
「ちょっとクリス。待って」
エカテリーナの手を振りほどいて慌ててオーウェンはクリスを追いかける。
「オーウェン様」
それをエカテリーナが追いかける。
「だからジャンヌ」
「マーマレードの敵のくせに気安く話すな」
教室の席に着いたジャンヌに必死に話しかけるアレクだったが、朝の寝起きで機嫌の悪いジャンヌは全く相手にしない。
そのアレクの肩を誰かが叩く。
「ちょっと今忙しいから」
アレクは無視する。
「ウフォン!ウフォン!」
後ろで咳払いをする。
「ああ、ジャルカ爺」
後ろを見てジャンヌが言う。
げっという顔をアレクはする。
「ノルディン皇太子殿下。イチャイチャするのは休み時間にしてほしいものですな」
ジャルカの嫌味がさく裂した。
「はい」
慌ててみんな席に着く。
「では今日は自由落下運動についてです。
前回姫様始め一同様で校庭にクレーターを作って頂きましたが、あれは自由落下ではありません。
鉛の玉を加速させましたからな。皆さんの魔力で。
自由落下とはこういう運動です」
ジャルカはそう言いながら早速寝だしたジャンヌとアレクを魔法で転移させる。
校舎の外に。
「えっ」
「うっそう」
慌てた二人は叫んだ。
しかし、寝ぼけているのでそのまま落ちる。
自由落下で。
二人とも慌てて受け身を取って着陸すると飛んで帰ってきた。
「ジャルカ何をする」
「酷いじゃないですか」
二人して食って掛かる。
「何を言っておられるんですか。
私の修業は厳しいのです。
国王陛下からは何をしても全て不問にするとお言葉を賜っておりますぞ。」
ニコッと笑うとジャルカは言った。
二人は言葉も無かった。
「で、姫様。自由落下運動の公式を先ほどお話ししましたが、なんでしたかの?」
「…」
ジャンヌは寝ていて聞いていなかった。
一瞬で外に転移させられる。
そして当然自由落下で落ちる。
「ではアレク殿下?」
「…」
アレクも当然答えられない。
アレクも外に放り出される。
公式を覚えられるまで何回も外に放り出される二人であった。
授業が終わるころにはけが人が続出していた…








