クリスは戦災孤児の母に謝りに王宮に行くが皆に囲まれてお礼でもみくちゃにされました
結局、殴り疲れて地面にへたり込んだジャックをなんとか、家に連れて帰って別れるしかできなかった。
「姉ちゃん。姉ちゃんは赤い死神と友達なの」
別れ際に挑発的な目でジャックはクリスを見た。
「友達かと言われるとクラスメートと言うくくりかな」
クリスは何とかそう言った。
「判った。姉ちゃんも嫌いだ!」
そう言うと扉を思いっきりジャックは閉めた。
クリスは何一つ言えなかった。
気まずくなったのか一同はそのまま三々五々分かれて家路についた。
「ごめんなさいね。オーウェン様。こんな事になってしまって」
クリスが謝った。
「いや、マーマレードにある反ノルディン感情がよく判って良かったよ」
オーウェンが言った。
「アレク様が付いてきている可能性もあったのに、あんまり考えてなくて良くなかったですね」
「いや、あいつにはむしろ良かっただろう。
ジャンヌの入り婿に入るなんてなかなか厳しい事がよく判ったんじゃないか」
「あの子にとってはアレクは父親を殺したにっくき相手だし、私にしてもジャンヌお姉さまにしても彼は戦った相手ですし、私なんかいまだにたまに夢見るくらい怖い相手でもあるんです」
「その時に傍で君を守れずに本当につらかった。
クリスが無事だって聞いたときは本当にほっとしたよ。
今回も中央師団に襲われたって聞いて本当に肝冷やしたんだから。
それを取り込んでいるなんて想像もしなかったよ」
オーウェンは苦笑いをした。
「下手したら俺よりも強いよね。クリスは」
「オウ、それ女の子に言います?」
「そばに置いていただけるならこれからも君を守らぜていただきますけど」
オーウェンは笑って言った。
「で、なんで王宮な訳?」
連れて来られた巨大な壁を見てオーウェンが聞いた。
「あの子の母親に謝っておこうと思って」
「王妃でなくて侍女な訳ね」
「王妃様にはお会いしたくないです」
クリスははっきり断る。
その頃王宮内で王妃はくしゃみしていた。
「これはこれはクリス様。」
門番も最敬礼した。
「すいません。侍女のメリーに用なんですけど」
「少々お待ちください。中に入られますか?」
「いえ、そこの打ち合わせスペースでいいです」
中なんて案内された日にはどんなことになるか判らない。
王妃にわかったらどうなる事やら。
前回散々喚き散らした点まだ謝ってもいないし、延々怒られてしばらく帰れなくなるかもしれないし。
クリスは遠慮した。
入口の傍の打ち合わせスペースに案内される。
「へえええ、こんなところあるんですね」
簡易な小屋が区切られていて初めて入ったオーウェンは驚いた。
「普通の面会場所なんです。王城の中なんて案内されたら門限までに帰れないかもしれませんし」
「クリス様。どうされたんですか。
こんなところまで来ていただいて。
お呼びいただきましたら私からお伺いいたしましたのに」
慌ててメリーが飛んできた。
「ごめんなさんいね。メリー、お仕事中に呼び出して」
「いえ、そんなのは大丈夫なのですが。」
「それよりもごめんなさい。あなたに謝らなければいけないことがあって」
「何なのですか。いつも私の方が助けて頂いているのに」
「それがね。実は今日ジャックを訪ねたのだけれど」
「えっありがとうございます。
あなた様がわざわざジャックを見に行っていただけたのですか。」
驚いてメリーが言った。
電話してもらっていたのは知っていたが、一介の侍女の息子にわざわざ会いに行ってもらったなんて、普通ありえなかった。
「あの、それは良いんだけれど、知らないうちにノルディンの皇太子殿下も付いてきていたみたいで、ジャックと会ってしまって」
「赤い死神がですか」
「ごめんなさい。父親の仇ってジャックが怒ってしまって」
クリスは必死に謝る。
「すいません。息子は皇太子殿下に失礼な事をいたしませんでしたか?」
「いえ、それは良いのだけれど、御免なさい。あなたにとっても赤い死神は夫の仇。」
「でも、それを言ったらクリス様にとっても大叔父様の仇では無いですか。
そもそもクリス様は皇太子殿下と戦われたんですよね」
「でもそんな私が皇太子殿下とクラスメートなのが許せなかったみたいで」
「そんな事は気にしないでください。
息子には良く言って聞かせておきますから」
メリーは笑って言った。
「そんな事をお知らせいただくためにわざわざここまで足をお運び頂けたんですか」
メリーは感激していった。
「あのう、それよりもクリス様が来たことが皆に知れまして。
みんな外で待っているんですが」
メリーが言う。
「えっ」
クリスは固まった。
「今日いる侍女や内勤の者王宮警護の面々が来たみたいです。」
外に出ると城門の周りに100名ほどが勢ぞろいしていた。
「皆さんどうしたのですか?」
クリスが聞く。
「クリス様。ありがとうございました」
「クリス様のおかげで逆賊にならなくて済みました」
「夫を助けて頂いてありがとうございました」
「息子のところに無事に帰れました。」
クリスは皆に寄られてお礼を言われていた。
もみくちゃにされそうなのをクリスの率いた大隊関連者が盾になってクリスがつぶされないように必死に支えていた。
クリスはとてもうれしかった。








