戦災孤児の涙
「あっオーウェン様。ここです」
下町のアパートの一室の前でクリスは止まった。
古びた石畳の一角にその2階建ての石畳の建物は建っていた。
外で子供らが遊んでいた。
「姉ちゃん!」
その一人がクリスを見て驚いて駆けてきた。
「ジャック。元気だった」
クリスは腰を下ろしてジャックに視線を合わせる。
「うん、隣の人は彼氏?」
「そう」
喜んでオーウェンが頷く。
「違うわ。学園の友達よ」
クリスが否定する。
「そうなんだ。道理でダサい格好しているなと思ったんだ。」
「ダサい????」
言われてオーウェンはショックを受けた。
6歳の餓鬼にクリスの為に一応お忍びモードで完璧だと思った恰好を否定されるなんて。
「最新の流行の服をダサい?」
「ふんっ姉ちゃん10年待ってね。
その時には俺頑張って姉ちゃんの騎士になるから。
だから絶対に待っていてね」
ジャックは言う。
オーウェンはクリスのしがらみの一つを見た思いがした。
元々皇太子の婚約者。
騎士の誓いを受ける権利があった。
既に戦災孤児らに何人も約束しているんだろう。
それがドラフォードに来たら子供たちの約束を破ることになる。
子供たちの夢を破ることはできないというクリスの重い重い想い。
オーウェンの越えなければいけない大きなハードルだった。
「あ、赤い死神!」
そのジャックがクリスの後ろを見て叫んだ。
声は震えていた。
しまったとクリスは思った。
アレクが付いてきているのは想定外だった。
「父ちゃんの仇!」
ジャックは一目散にアレクに向かって駆けだしていた。
慌てて護衛がアレクの前に出ようとしたがアレクが止める。
「ウォー――」
ジャックは雄たけびを上げてアレクに向けて走った。
そしてめちゃめちゃにそのお腹を殴っていた。
「人殺し、俺の父ちゃんを返せ!!!!」
殴りながら、ジャックはただひたすら泣き続けた。
それを見てジャンヌは固まっていた。
エカテリーナも子供の涙を見ていた。
アレクはただひたすら殴られるだけだった。
誰一人ジャックを止められる者は無かった。








