エステラは脚本書く決意をしました
昼休みが終わった後にショートホームルームがあった。
今日は学祭の出し物をある程度決めるホームルームだった。
「皆さんからとったアンケートの結果を見ると演劇が多かったです」
クリスが全員を見渡して言う。
「演劇で宜しいですか。」
スティーブが聞く。
「異議なし」
ジャンヌが言った。
「では演劇なんですが、出し物については皆さんからいろんな意見いただきました。
それで皆さんからいただいた意見を元に脚本を演劇部のエステラ・ハイドさんに書いていただこうと思うのですが」
「素人にさせるのですか?」
ヘルマンが聞く。
「エステラ・ハイドさんは演劇部でも雑用係だと思いますが。」
マーマレードの生徒からも反対の意見が出る。
「彼女の中等部の演劇は見させていただいたのですが、とても素晴らしいものがありました。
自主性を重んじる王立高等学園としても生徒に脚本を書いてもらうのは問題無いと思いますが」
「でも、彼女以上の物を書けるものがいたらそちらを優先しても良いんだろ」
ヘルマンが言う。
「当然、そうですね。脚本書きたい人は書いていただいて結構です。2週間後の今日の朝までに出して頂いて検討したいと思います」
クリスは言う。
「データは同じものを皆さんにお渡しします。後でスティーブさんまで取りに来てください。
あと、皆さんご自身が何をしたいか、演技なのか衣装なのか子道具なのかあるいは音楽なのか。
剣が得意なのか魔法が得意なのか、やりたいこと書いてアンケートまた返してください」
クリスが言う。
そのクリスをハンカチの端をかみしめながらエカテリーナは見ていた。
トイレから帰ってきた時に、ガーネットとナタリーが電話しているのを聞いてしまったのだ。
ー私がいない時を見計らってオーウェン様と街に行く約束するなんて許せないー
エカテリーナはハンカチをかみしめていた。
次の授業は世界史だった。
ドラフォードの成り立ちだった。
シャラザールがマーマレードを蛮族から解放された後に連合軍で攻め込んで建てた大帝国
それが100年後に分裂してできたのがドラフォードだった。
今は最大の領土を誇る大国になっていた。
農業と商業の大国であった。
大帝国からさかのぼると建国500年をほこる国だった。
「オーウェン様。オーウェン様の国は我が新興国のノルディンに比べてとても歴史が長いのですね。
ぜひもっといろいろお教えいただきたいんですが」
ここぞとばかりエカテリーナは聞く。
「えっドラフォードに興味があるの?」
喜んでオーウェンが聞く。
「はい。ミラーとか、文化史とかにとても興味があるんです」
何かきっかけをつかもうとドラフォードの文豪で唯一知っている名前を挙げる。
「文化史ならイザベラ嬢が得意だよ。イザベラ嬢」
オーウェンはイザベラを呼ぶ。
エカテリーナは失敗したことを悟った。
「はい。オーウェン様。何ですか?」
「エカテリーナ嬢がドラフォードの文化史について興味がおありだとか。いろいろお教えしてほしいのだけど」
-えっドラフォードの文化史にエカテリーナが興味がある?
文芸に興味のなさそうなエカテリーナがまさかと思いながらイザベラが話し出す。
それを見てオーウェンはクリスと話をしようとクリスの席に向かう。
「クリス嬢。次の力学の授業なんだけど、ちょっとわからないところがあって」
教科書をオーウェンが見せる。
次は選択授業で難関の力学だ。
クリスはこの授業も物理と並んで苦手だった。
それをオーウェンが聞きに来るってどんな意地悪なんだろうと思いながら、
「オーウェン様。力学も私とても苦手なんです。
スティーブ様がお得意だったと思いますわ」
スティーブに振られて終わりだった。
空回りしたエカテリーナとオーウェンだった。
その力学の授業でクリスはエステラの隣に座った。
エステラは隣に座るクリスの顔を見てうつむいたが、授業に集中する。
終わった後に思い切って顔を上げてクリスを見る。
「なんで私が良いと思ったんですか?」
エステラはいきなり聞いた。
「ごめんなさい。本当を言うと私もよく判らないの」
クリスが言う。
「えっそうなんですか?」
「でも、あなたの中学に娘を通わせている王宮侍女がいて学祭でのその演劇が素晴らしかったって
言ってたのよ。前もらっていたのだけど王妃教育で忙しくて見られなかったの。
それこの前やっと見られたら本当に面白くて。
それ演出していたのあなただったのよ」
笑って言った。
「えっ見て頂けたんですか」
驚いてエステラは聞く。
「ごめんね。遅くなって。夢見るステラさん」
そのクリスの言葉にエステラは真っ赤になった。
「中学のあだ名なんで知っていらっしゃるんですか」
「その侍女の娘さん、オリビアに聞いたのよ」
「オリビア知っているんですか」
「彼女が演技指導がメチャクチャ厳しかったって言っていたわ」
「判りました。さすが聖女クリス様にはかないませんね」
笑ってエステラが言った。
「聖女なんていいものじゃないわ」
「何言っているんですか。人の心に入り込むのがとてもうまくていつの間にか皆の心を掴んでいるって。今回の反乱でも私のおじが第4師団にいたんですけど、助けて頂いてありがとうございました」
「私じゃなくてジャンヌお姉さまたちがわがままを聞いていただけただけよ」
クリスは謙遜する。
「まあそういう事ににしておきますね」
エステラは笑った。
クリスに感謝しているものはこのクラスにも多かった。
婚約破棄でも侍女の大半を味方にしたと聞いている。
今回の反乱にしてもそうだ。
いつの間にか人の心を魔法のように掴んでいると。
自分もそのクリスの魔法に捕まってしまった。
後は全力出すだけだとエステラは決意した。








