大国皇太子はクリスをお忍びデートに誘います
皆は教室に向かった。ジャンヌらは先に行っていて、エカテリーナとスティーブは途中でトイレに向かった。
教室に入る前にクリスはオーウェンと二人だけになっていた。
昨日から二人になる機会に恵まれなかったクリスだったが、これを逃すとまた機会がない。
「オウ…・」
小さい声でオーウェンを呼ぶがオーウェンには聞こえない。
「オーウェン様」
やっと声が届いた。
「何ですか」
オーウェンは入ろうとした扉から喜んで振り返る。
そして、珍しく二人きりなのに気づいた。
これはチャンスでは。
「この前はハンカチ貸して頂いてありがとうございました。」
クリスがお礼を言う。
「遅くなりましたけどこれ洗濯させてもらったハンカチとクッキーです」
紙袋に入れたクッキーと一緒にハンカチを返す。
「ありがとう。これ手作り?」
「すいません。お口に合わないかもしれませんけど」
「いや、クリス嬢の手作りむちゃくちゃ嬉しいよ」
喜んでオーウェンは言う。
そして、
「良ければ次の休みにマーレの街に出てみない?」
オーウェンはこの機会を逃してなるものかと強引にアプローチする。
「えっでも、そんなご迷惑では」
クリスが遠慮する。
「前に、街なんて歩いたことないって言っていただろう。一度自分の国の街も歩いてみても良いと思うんだけど」
負けずにオーウェンが言う。
クリスは少し逡巡した。
確かにマーレの街をお忍びで歩いたことは無かった。
オーウェンと一緒ならどこでも連れて行ってくれそうだ。
「じゃあ、行ってみたいところあるので一緒に行って頂けますか?」
聞いてみる。
「判った僕も連れて行きたいところがあるから付き合って欲しい」
オーウェンは良しやったと心の中でガッツポーズを決める。
「判りました。よろしくお願いします」
「詳しい事はまた連絡する。」
そう言うとオーウェンは教室に入る。
そのあとにクリスが続く。
「見ました?やっとあのヘタレの皇太子が誘うのに成功しましたわ」
物陰から偶然見たイザベラがとなりのナタリーに言う。
「本当にやっとですわね。これはきちんとガーネット様にも報告しなければ」
ナタリーが言う。
「えっそうなの。やっと誘ったの。次のお休みの時ね。判ったありがとう。
また細かい事判ったら連絡して」
ガーネットは電話を切った。
「やったわお兄様」
そう言うと隣の席のウイルに向いた。
「ウィル。次のお休みの時に付き合って欲しいの」
「やだ。何で休みまで付き合わないといけない」
ブスっとしてウィルが言う。
ウイルも訓練とかいろいろあるのだ。
「へえええ、そう。あなたのお姉さまがどうなっても良いというの」
「えっ姉様がどうかしたの?」
慌ててウイルが聞く。
「ふんっ。一緒に行きたくないんでしょ?」
「判った。付き合う」
仕方なしにウイルが言う。
「本当にウィルはシスコンなんだから」
ブスっとしてガーネットが言う。
これが他の奴なら喜んでガーネットについてくるのに、ウイルはつれなさすぎた。
ドラフォードの学園では引く手あまただったのに。
もっとも付き合ったことなど無かったが。
「君たちね。デートの約束はもっとひそやかにしてよね」
同じクラスのボリスが文句を言う。
「デートじゃない」
二人して否定する。
「男と女が二人で行くのがデートでなくて何なの?」
ボリスが言う。
「ウィルとは幼馴染なの」
「そう、腐れ縁」
「えっ」
ウイルが言うが腐れ縁と言われるとまたムカつくガーネットであった。








