演劇の演出は雑用係のエステラ
翌朝クリスはガーネットらと朝食を取っていた。
「クリス様。何を見ておいでですの?」
ナタリーが聞く。
「昨日学祭で何がしたいかアンケート取ったでしょう。その結果をスティーブ様が送ってくれたので
それを見ているんです」
画面をクリスが動かす。
「ああ、12月にある学園祭の出しものね。」
ガーネットが聞く。
「ガーネット様のクラスは学園祭は何をされるのですか。」
イザベラが尋ねる。
「うちはなんか喫茶店みたい。コスプレしてやるみたいだけど。」
ガーネットが答える。
「クリス姉様のところは?」
「3年生ですからね。やはり演劇希望が多いですね」
「へえええ、出し物は何するんですか」
「それはこれから決めますけど、歴史ものと恋愛ものが拮抗しているって感じですね」
クリスが言う。
「へええ、演劇か面白そうですね。」
「恋愛ものね」
3人は画面を見ているクリスをほっておいて3人で顔を付き合わす。
「これはチャンスでは無いですか」
「お二人をくっつけるには」
「何としてもお兄様とクリス姉様をくっつく配役にして」
「何また3人で悪だくみしているんですか」
また後ろからエカテリーナが入ってくる。
「あらエカテリーナ様。昨日の数学理解できました?」
「そうね。まあまあよ」
「ですよね。あのスミスと言う子、判りやすかったですよね」
「王女に対して生意気でしたけどまあ、何とかわかりましたわ」
エカテリーナがそう言う事は判りやすかったという事だろう。
そこへ死んだ顔でジャンヌが降りてくる。
「おはようございます」
皆挨拶する。
「おはよう」
そう言う言葉も死んでいた。
「ジャンヌお姉さま。今日は昨日に比べて早いですね」
クリスが言う。
「今日から遅刻1回につき1時間補習入れるって陰険ジャルカに言われたから」
ぶつぶつ言いながら、クロワッサンのパンを口に放り込んで牛乳で流し込みながら
ジャンヌは言う。
そのジャンヌを遠くからエステラ・ハイドはあこがれの目をもって見ていた。
ジャンヌ王女は暴風王女としてノルディン戦の英雄だ。
その姿はりりしく、今回の王弟反逆においても敵を一刀両断に次々と倒していったらしい。
エステラは何回頭の中でジャンヌの戦う様を想像しただろう。
あのりりしい姿を自分の思うように演出してみたい。
夢見る演劇少女だった。
そのジャンヌが食べ終わったので、みんなで出る。
ジャンヌは千鳥足だ。
クリスはスミスが送ってくれたみんなの意見を頭に入れつつ、考えていた。
エステラの演劇を取ったデータをルーファスに無理言って見せてもらった。
内容は中等部なのに結構しっかりとしており、皆の演技も良かった。
せっかく演劇やるなら、みんなに楽しんで欲しい。
その中の演出は要だった。
平民出身だから、王族に遠慮があるかもしれないが、王立学園は身分平等を謳っている。
ジャンヌはそんなこと気にしないだろう。
後は何処で捕まえるかだけど…・
「おはようございます」
と言いながら、まさにその子が足の遅いクリスらを頭を下げて抜いて行こうとしていた。
「あっエステラ・ハイドさん」
クリスが思わず声を上げる。
「えっ」
エステラ・ハイドは驚いた。まさか侯爵令嬢クリスに声をかけられるとは思ってもいなかった。そもそもクリスが自分の名前を知っているのに驚いた。
確かに今年はクラスが一緒だったが、クリスは王妃教育に忙しくてエステラと話したことは無かったはずだった。
そしてその横にはあこがれのジャンヌ王女もいるのだ。
エステラは固まった。
「あなた同じクラスで演劇部のエステラさんよね」
「はい。クリスティーナ様。そうですけど」
「そんな様なんてつけないで。クリスでいいわ」
「じゃあクリス様。」
「学園だから呼び捨てで良いわよ」
「そんな滅相も無い。」
平民のエステラには難しかった。
「まあいいわ。それはおいおい。
スティーブさんがあなたの中学の時の演出が素晴らしかったっておっしゃていらっしゃったんだけど」
「褒めて頂いてありがとうございます。昔の話で恥ずかしいです。
でも、今はもっと素晴らしい方が一杯いらっしゃって演劇部では雑用係なんです」
「じゃあ学園祭の時も演劇部はそんなに忙しくない?」
「それはまあ」
「じゃあクラスで演劇するなら演出できるわよね」
クリスは詰める。
「そんな、王族方が一杯いらっしゃるのに私のような者が演出するなんて恐れ多いです」
エステラは首をブンブン振った。
「ジャンヌお姉さま」
半分寝ているジャンヌをエステラの方に引っ張る。
「彼女が演出してくれたらお姉さまの輝きが2倍になりますわ」
クリスは強引にエステラを勧める。
「えっそんなにすごいのか」
驚いてジャンヌが言う。
「スミスさんが褒めていらっしゃいましたから」
「ふーん。ならよろしく頼む」
半信半疑でジャンヌが言う。
「えっいや、ジャンヌ様!」
エステラはジャンヌから話しかけられて感動した。
「良かったです。これで演出が決まりましたわ」
クリスが喜んで言う。
「いや、クリス様。そんなの無理ですって」
慌てて我に返ったエステラは否定する。
「演劇部にはお姉さまの方から断ってもらいますから。
宜しくお願いします。」
クリスは強引に話を勧めた。
エステラは口をパクパクするしかなかった。








