ウィルは姉様と踊れて幸せです!
夕刻になって着飾った男女が女子寮から学園の広場まで各地で見られるようになった。
「ウィル君。元気?」
「ウィル久しぶり」
「王女殿下はどう」
姉を控室で待つ間に、貴族の子女や軍の士官学校関係者に次々に声かけられる。
「今日は誰のエスコートなの?」
女性たちはウィルの相手をとても気にしていた。
「今日は姉上のエスコートなんだ。」
「えっそうなの」
皆一様に少し驚いた感じになった。
ウィルの姉が皇太子の婚約者だという事は周知の事実だったから。
ウィルがどちらかというとシスコンなのはみんな知っていたが、3年生のサマーパーティーのエスコートが女子にとってどれだけ大切かはみんな知っているはずだった。
なのに弟がエスコートってどういうことだろう。
あのむかつく皇太子に姉をやるのは嫌だ。
でも、姉が嫌な思いをするのも嫌だ。
騎士の正装しているウィルは思わず剣に手をかけていた。
「姉様を泣かす奴は例え王子でも成敗してやる」
ぼそりとつぶやく。
「ウィル待った?」
そこへ水色のサマードレスを纏った天女が舞い降りた。
とウィルには思えた。
「どうしたの。ウィル」
呆けたように立ち尽くすウィルを見てクリスが聞いた。
「姉様。水の女神様みたいです。」
ウィルは絶賛した。
「まあ、ウィルもお上手を言えるようになったのね。」
クリスが笑って言った。
「そんな事無いですよ。今日の姉様を見たらみんなそう思いますよ」
そして姿勢を改める。
「僕の女神様、お手をどうぞ」
ウィルが一礼して手を差し出す。
「私の王子様。よろしくお願いします。」
その手にクリスが手を預ける。
ウィルはその瞬間とても幸せだった。
もう皇太子はどうでもいい。
姉は一生涯自分が守る。
ウィルはそう決断していた。
二人は寮を出たのが最後の方だったが、会場に到着すると皆の注目を一身に集めていた。
特にクリスが。
その水色のドレスとクリスの金髪と白い肌がお互いに引き出しあってウィルの言ったように本当に女神のようだった。
クリスは男共の欲情のこもった視線と女どもの嫉妬と羨望の視線を一身に浴びていた。
そしてダンスの音楽が始まった。
「姉様。私と踊って頂けますか」
「喜んで。」
二人が躍り出すと世間の注目は二人に集中した。
皇太子とピンクの髪の令嬢など誰も見ていなかった。
この二人が躍っているのを見て、男共は色めき立った。
今までクリスは皇太子としか踊っていなかったのだ。
その皇太子は別の女連れだ。
完全な婚約者それも皇太子がいては盤石だと。到底かなわないと。
男子生徒は諦めていた。
その高嶺の花。マーマレードの金の妖精、いや女神が今回は弟と踊っている。
ひょっとしてチャンスが回ってきたのではないかと。