赤い死神の妹登場 大国皇太子は渡しません
「これはこれは、朝から騒々しい事で。
わが国ではこんなことは考えられませんが、さすが科学立国のマーマレード王立学園は違いますわね」
一人の少女が嫌味を言いながら、3人ほどの取り巻きを連れて階段を降りてきた。
「これはこれはエカテリーナ・ボロゾドフ様。
御見苦しいところをお見せ致しました。」
クリスが声をかける。
ピキッと切れたジャンヌを見て慌てて声をかけたクリスだったが、
「無礼者。侯爵令嬢風情が許されぬのに、我に声をかけるな」
殺気をのせてエカテリーナが声を出す。
アルバートとジャンヌがその言葉に一瞬にして戦闘モードに入る。
しかし、そのエカテリーナの頭を思いっきり現れたアレクがひっぱたいていた。
「愚か者」
エカテリーナの頭を押さえてアレクが言う。
その後ろに控えている取り巻きにもきっとして睨みつける。
「ひいいい」
睨まれた者たちは縮み上がった。
赤い死神は自国の者にも恐れられていた。
「クリス嬢。妹が失礼した」
アレクは頭を下げる。
「アレクの妹?」
クリスが答える前にジャンヌが聞く。
「そう、エカテリーナだ。母も同じ妹だ」
確かに二人は赤髪で顔も良く見たら良く似ていた。
「お前も謝れ」
「でもお兄様」
「デモもくそもあるか。
王立高等学園に身分差はない。留学が決まった時から言っているだろう。
それにお前、クリス嬢は魔物化したヘンリー王弟殿下を素手で張り倒して正常に戻されたのだぞ。
少なくとも我がノルディンにはそのような事が出来る者はおるまい」
アレクはクリスが触れてほしくないことをズバズバ言った。
「魔物化した方を殴り倒して正常に戻されたのですか」
信じられない者を見るようにエカテリーナはクリスを見た。
普通魔物化したら元になど戻れない。
余程高位な魔術師だとエカテリーナは見た。
もっともクリスにはおてんば娘だと認識したと聞こえたが。
「そうだ。それに周りにいらっしゃる方々はマーマレードでは無くてドラフォードの方々だぞ。
クリス嬢はドラフォードにもお知り合いが多い。
お前も負けないようにきっちりやるのだぞ」
アレクは言った。
「ふうん、アレクはえらくクリスの肩を持つんだな」
不機嫌そうにジャンヌは言うと寮を出た。
「えっちょっと待って、ジャンヌ」
そう言ってアレクは慌てて追いかける為に駆けだした。
その2人を呆然と残りの人間は見送った。
何をきっちりやるんだろう?
アルバートは素朴な疑問を持ったが。
「クリスティーナ様。失礼いたしました。
兄アレクサンドルの妹のエカテリーナです。
あなたの素晴らしさは兄よりいつもお伺いしております」
「こちらこそ、王女殿下に失礼な事をいたしました。
お恥ずかしい限りです。」
真っ赤になってクリスは言った。
ろくなことをアレクには言われていないと思った。
「でも、オーウェン様の事は諦めませんから」
「えっ」
そう言ってエカテリーナは出て行った。
クリスはエカテリーナが何を言っているか判らなかった。
オーウェンはドラフォードに帰ったはずだ。
それにクリスとオーウェンとは別に何もなかったはずだ。今のところは。
でも教室の中に一歩入って気付いた。
クリスが教室に入るとその前にいきなり跪いたオーウェンドラフォード皇太子がいたのだ。
「クリスティーナ・ミハイル嬢。先日は大変失礼な事を言って申し訳なかった。
どうか許して頂きたい」
そして手を出す。
「えっ?」
クリスはそこにオーウェンがいるのに驚いた。
なぜここに?
それとクリスは先日オーウェンに失礼な態度を取った事を恥ずかしがって真っ赤になっていた。
「はいはい、どいてくださいね。」
そのオーウェンを無理やり横にどけてアルバートが道をあけさせる。
「クリス様どうぞ先に御通り下さい」
クリスを先に行かす。
「ありがとうございます」
真っ赤になったクリスが席に向かう。
「おいアルバート」
オーウェンが文句を言う。
「オーウェン殿下。同じドラフォードの人間として恥ずかしいことやめてください。
他の王族の方々に笑われています」
周りを見るとジャンヌとアレクが笑ってこちらに手を振っていた。
「きゃっ」
その跪いていたオーウェンに教室に入ってきた令嬢が躓いた。
倒れそうな令嬢を慌ててオーウェンは抱きかかえる。
その赤髪の令嬢はそのままオーウェンに抱きついていた。
「大丈夫ですか?」
オーウェンは慌てて言う。
「すいません。良く前を見ていなくて」
抱きかかえられていた令嬢はオーウェンにしがみつきながらクリスを見た。
クリスは一瞬嫌そうな顔をするがふんっと前を見て椅子に座る。
「えっクリス嬢」
オーウェンは慌ててクリスの方に行こうとするが、
エカテリーナはオーウェンに抱きつく手を緩めないので行けなかった。
オーウェンにとって前途多難な新学期の始まりだった。








