ホーエンガウ攻城戦1 驚く暴風王女
ホーエンガウ城、別名白鳥城とも呼ばれた名城である。
平野の最奥部、山沿いにあるその城は遠くからも眺められた。
戦神シャラザールが築いたともいわれるその城は難攻不落の名城としても有名であった。
かつて、蛮族に責められた時も、今は亡き大帝国に責められた時も1年間は守り通した。
後方の2方は切り立った山に囲まれて前方は小高い丘と平野部だが、高さ20メートルはある分厚い城壁に囲まれていた。
そして、その城壁の一部も兼ねている高さが50メートルはある塔が角に聳え建っていた。
王弟はこの領地では1000名の兵士を養っており、そのうちの半分500名を率いて王都に行ったが、残りの半数500名でこの城を守っていた。
対するクリスは途中で地元の領主たちの兵を糾合しつつ迫ったが、その兵力は1500名を超えたところしかなかった。
少し距離を置いて全軍を止める。
「クリス様。いかがなされますか?
普通は城攻めは10倍の兵力で成す、と言われておりますが、このホーエンガウ城は難攻不落、いまだかつて落とせた人間はおりませんが」
ヨークが指示を仰ぐ。
司令官が貴族の馬車で乗り付けるという攻城戦では、ありえないスタイルを取ってはいるが、主力は中央師団の1個大隊、攻城戦の訓練も当然行っていた。
しかし、普通は3倍の兵力では城を落とすのは不可能だった。
その時ウィルの魔導電話が鳴った。
「げっ、姫様」
嫌そうな顔をしながらウィルが魔導電話をつなぐ。
「よう、ウィルそちらはどうだ。」
「こちらは全員無事です。姫様も想定通りご無事で」
ウィルが言う。
「想定通りってどういう意味だ?」
ジャンヌは突っ込むが、返事がないので
「第二中隊ではまだまだだな。うちの訓練よりも弱かった。
瞬殺した。そちらは1個大隊が行ったんだろう?」
「姉様が一瞬で降伏させました。
現在それを率いて王弟のホーエンガウ城を攻めようとしています。
代わりますね」
ウィルはクリスに代わった。
「お姉さま。大丈夫ですか?」
クリスが心配そうに言う。
「クリス。1個大隊に襲われたのに、無事なのか?」
ジャンヌは驚いていた。
「ええ、まあ、お母様もいらっしゃいましたし、ライオネルは拘束しましたが、残りの方々は味方になって頂きました。
今はウィルが報告させて頂いたように、ホーエンガウ城目前です」
画面にホーエンガウ城を写す。
「クリスが指揮しているの?」
それも信じられない者を見るようにジャンヌが言う。
クリスは軍を率いたことなんて無いはずだ。
シャラザールなのだろうか?
でも、電話からはあの絶対的な力は感じられない。
「お母様は領地に帰られましたし、皆様のお命も私がお預かりしたので。
まあ、各指揮官の方々は優秀ですし、他に1個師団を指揮できる人材もいますから」
クリスが言う。
「お姉さま。このホーエンガウの城落としますから、大隊の方々は助けてあげてくださいね」
クリスがニコッと笑って言う。
この笑いが怖いんだが…とジャンヌは思う。
「まあ、クリスが言うならそれでいいが、ホーエンガウなど落とす価値があるのか。
固くて有名だけど、王宮さえ落とせばそれで終わると思うが」
「まあ、でも本拠地を落とせば王宮は孤立しますし、戦略的にも良いかなと思いますが」
「・・・・・」
「流石クリス様。姫様の単細胞とは違いきちんと押さえるところは押えていらっしゃいますな」
ジャンヌの横からジャルカがしゃしゃり出る。
「ジャルカ様。
すいません。
力を使うなと言われていたのに、使ってしまって山を一つ消滅させてしまいました」
「・・・・」
画面の向こう側では沈黙が支配した。
「ジャルカ、クリスは何を言っている?」
ジャンヌが聞く。
「クリス様って魔導士でしたっけ?」
とライラ。
「まあ、ウィルの姉上だからある程度の魔力はあるだろう」
ザン。
「山って砂場の小山ですか?」
とライラ。
いや、そんなことは無いだろうと
「いやいや、庭園の山くらいの事では。」
ヨハンが言う。
「私も演習場の巨大な岩を破壊した事はありますぞ」
部下たちは好きな事を言う。
「そう言えば2日前巨大な魔導反応を感じましたが、やはりクリス様が」
ジャルカがぼそりという。
「はいっ。母がデモンストレートで良いから力を見せろと言われまして」
クリスが答えた。
「姫様、あの魔力の量ではそんなちっぽけなものではありませんぞ。
クリス様の山と言われると、確かあのあたりにはシャラザール山がありますが」
クリスの応えをとりあえず無視してジャルカがジャンヌに言う。
「あっ姫様。その時の映像取ったんで、流します。」
ウィルは電話の画面に遠くの山に向かって構えるクリスを後ろからとっている画像を流し出した。
すさまじい光で画面がホワイトアウト。
そして、砂煙が無くなった後には何も無かった。
「・・・・・」
「うそっ!」
「あれは確かシャラザール山では」
「地上から山が一つなくなりました…」
「うそ、クリスってシャラザールにならなくても世界最強だったんだ…」
ジャンヌも呆然としていた。
「まあ、クリス様。事故はどこでも起こるものです」
ジャルカがショックから立ち直って画面に話し出した。
「そんなに気に召さるな。
人的被害は無いようですし、そうですな姫様!」
ジャルカは最後はジャンヌに振った。
「そうそう、気にする必要は無い。
その調子で抵抗するようなら、最悪ホーエンガウ城もぶっ潰しても良いから、出来るだけ早く、王宮へ来てくれ。
我々も出来る限り早く、王宮の前に布陣する。」
と言うとさっさとジャンヌは電話を切った。
「ジャルカ。お前、クリスの魔力がここまでと知っていたのか?」
小さい声でジャンヌは聞く。
「いやあ、山を一つ弾き飛ばすほどとは存じ上げませんでした。
まあ、シャラザール様が憑依されるくらいですから、こんなものかと」
こちらも小さい声でジャルカが答えた。
「クリスがいればノルディン帝国相手でも勝てるな」
ジャンヌが良からぬ皮算用を始める。
「まあ、クリス様がそれを良しとされるかという問題はありますが、
基本は勝てるでしょうな」
ジャルカは断言した。
はっきり言ってシャラザールは2個師団をほとんど一瞬で殲滅したのだ。
クリスがある程度力を調整できるなら、というか、敵の居場所さえわかれば
10個師団といえども瞬殺できるだろう。
「うーん、クリスは何とか国内にとどまって欲しい」
何としてもオーウェンとの仲を裂きたいと考え出すジャンヌだった。
オーウェン更なる危機???








