エピローグ 筆頭魔導師と大国王子が結婚しました
亜熱帯に属するボフミエ魔導国の春の日差しは強かった。
帝都ナッツアも例外ではなかったが、今日は祝いの日で全世界から国の要人を迎え入れて、更に熱気にあふれかえっていた。街道の要所要所に祝いの旗が立てられて、もはや祭りの様相を醸し出していた。
戦いの後、シャラザールを先頭に連合軍はノルディン帝国に進撃して、帝国内に一部残っていた邪神達を成敗した。
シャラザールがやる気を出したので超強行軍となった連合軍の行軍は大変で、連れて行かれたアレクやジャンヌはたまったものではなかった。
クリスとオーウェンは何故かお留守番で、さっさとボフミエ魔導国の帝都に帰っていった。
アレクは唯一シャラザールを牽制できるクリスにいてほしかったのに、クリスはオーウェンとあっさり仲良く帰ってしまった。
シャラザールの相手をするのにアレクやジャンヌやジャスティンは本当に大変だった。
そんな中、ノルディン帝国は皇帝が魔王と同時に消滅していたので、ノルディン帝国の皇太子であったアレクの皇帝就任が決まった。
それを見届けた戦神シャラザールは、その後、北の帝国で散々兵士達を訓練三昧してアレク達を付き合わせて楽しんでいたが、、オオクニヌシが現れて強引に天に連れて行かれてしまった。
アレクはほっと一息ついた。
戦神シャラザール自身は魔神ゼウスの討伐に功があったので、オオクニヌシらの度重なる要請に仕方なしに天の全能神になったのだ。すなわち最高神に!
神になって1000年、シャラザールは戦神として天界や地界、果ては地獄で好き勝手にしていたが、ついに年貢の納め時となり、全能神になったのだった。
こんな自分勝手なシャラザールが全能神になって良かったのかと不安に思う者もいたのだが、前の全能神が魔神となって世界に迷惑をかけまくったので、それよりはましかと皆納得したのだった。尤も曲がった事の大嫌いなシャラザールは、早速天界で不正を働いた者、不義、不倫をしていた者を地獄や地界に叩き落として、天界の不埒な神々に恐慌を来していたが、普通の神々にはそれは拍手喝采で迎えられた。
カランカランカランカラン!
ボフミエ魔導国のシャラザール教総本山の巨大な大聖堂の鐘が鳴った。
今日はそのボフミエ魔導国の筆頭魔導師でありシャラザール教の教皇であるクリスティーナ・ミハイルと内務卿でドラフォード王国の皇太子でもあるオーウェン・ドラフォードとの結婚式だった。
ここ大聖堂にはボフミエ魔導国の重臣のみならず、シャラザール3国の王族と家臣、ノルディン帝国、陳王国、その他多くの国々から国王クラスとその重臣が勢揃いしていた。
あの戦いの後、しばらくして、クリスとオーウェンは婚約したのだ。
元々ミハイル侯爵家は紋章がシャラザールの紋章である事からも判るように、シャラザール三国では特別な家柄で、なおかつ、クリスは世界最強のボフミエ魔導国の筆頭魔導師であり、ドラフォード王国の皇太子であるオーウェンとの婚姻は全く問題はなかった。
それに中々ゴーサインが出なかったのは、戦神シャラザールが了承しなかったからだ。
今回の戦いで、オーウェンが命がけでクリスを守ろうとした事で、シャラザールが折れたのだ。
牧師役をシャラザールの強い推薦で、天の宰相のオオクニヌシがすることになっていて、臨席したシャラザール三国の国王やノルディン帝国皇帝夫妻、すなわちクリスらよりも1ヶ月早く婚姻したアレクとジャンヌも驚いていたし、恐縮していた。
「我が娘のクリスが結婚するのじゃ。当然のことじゃ」
シャラザールはとてもご満悦だった。
神聖なる大聖堂でその最高神シャラザールが直々に二人を見つめる中、オオクニヌシが二人に誓いの言葉を述べだした。
「新郎オーウェン、 あなたはここにいる神の御子のクリスティーナを
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
オーウェンは頷いた。
目の前の白いウェディングドレスを着たクリスはとてもきれいで、長年クリスを追い求めていたオーウェンはやっと自分の想いが報われる時が来たと感無量だった。
「うむ。もしクリスを泣かすことあればその時はどうなるか判っておろうな」
「泣かすことはありません」
シャラザールはぎろりと睨んだが、オーウェンははっきりと首を振ったのだ。
「新婦クリスティーナ、あなたはここにいるオーウェンを
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「はい。誓います」
クリスは心持ち緊張していたが、顔は少し赤くほてっていた。
クリスにしてもエドから婚約破棄された後ずっと自分を守り見守ってくれたオーウェンと一緒になることに喜びを感じていた。
「クリスよ。嫌になればいつでも余に言うが良い」
シャラザールは慈愛の視線をクリスに向けた。
「大丈夫です」
クリスはちょこんと頷いた。その仕草がとても可愛かった。
そして皆の見守る中で
「それでは二人の誓いのキスを」
オオクニヌシの声とともにオーウェンがクリスのベールをかき上げてクリスと目を合わせた。クリスの青い瞳が心持ち潤んでいた。そして可愛い唇がオーウェンを誘うように少し開かれていた。オーウェンはそのクリスの唇に自らの唇を合わせた。
ヒューヒュー
騎士達が口笛を吹き、騒ぎ立てた。
「シャラザール様。祝福を」
オオクニヌシの言葉に
「うむ」
シャラザールは頷いた。
「まあ、オーウェンは剣術も魔術もクリスに釣り合いが取れるかというとまだまだじゃが、魔神ゼウスとの戦いにおいてクリスを命がけで守ろうとした功により、ここに、我が愛しの娘クローディアの子孫のクリスティーナとの婚姻を認めよう」
厳かに戦神シャラザールが宣言した。
「「「「「おおおお」」」」」
一同どよめいた。
「最高神の祝福のある婚姻など初めてではありませんか」
「これはめでたいことですな」
群臣一同喜んでいた。
結婚式に神が婚姻を宣言するなど未だかつてなかったことだった。
「戦神シャラザール万歳」
「「「「戦神シャラザール万歳」」」」
「「「「クリスティーナ様万歳」」」」
シャラザールを称える声と筆頭魔導師を祝う声が群臣から湧き出た。
その大きな三唱の声はボフミエ魔導国の帝都中に響き渡り、いつまでも止むことはなかった。
ここにクリスティーナとオーウェンの婚姻が成立したのだった。
お互いに肩を寄せ合う幸せそうな二人を皆が祝福した。
大きく開けられた扉から吹き込む春の風は皆の熱気が乗り移ったように暖かい風だった。
おしまい
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
振り返れば2020年5月に最初にこのお話書きかけてから5年弱で100万字超書きました。
ここまで書き続けられたのは応援頂いた皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
感謝の言葉もありません。
ここで完結しますが、また閑話等はちょくちょくあげていきたいと思います。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
まだの方は最後にブックマーク、広告の下の評価☆☆☆☆☆を★★★★★して頂けたら嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾








