大国王子と筆頭魔導師は唇を何回も合わせました
その後のオーウェンは最悪だった。
シャラザールからアレクと並んで目の敵にされてサンドバック状態にされたのだ。
本来は大切にされる二大国の皇太子の二人が、戦神シャラザールの前ではボロ雑巾のように扱われた。
「シャラザール様。さすがにいきすぎです!」
訓練の最後でシャラザールに殴り飛ばされたオーウェンに駆け寄ったクリスが、むっとして睨み付けて文句を言ったほどだった。
「な、何を言うのだ……いや、まあ、そうかの……」
最初は怒鳴り返そうとしたシャラザールだが、クリスの青い瞳で睨まれると、何故か口調が弱くなり、最後はオーウェンを連れて行くクリスを止められなかった。
「クリス様の瞳はシャラザール様のお嬢様のクローディア様と同じ色でございましたな」
それを見て笑ってジャルカが指摘した。
「ふんっ、あの瞳で睨まれるとなんとも反論できん」
シャラザールが肩をすくめた。
シャラザールの娘は何人もいたが、自らの失態でクローディアを死ぬような酷い目に遭わせた負い目で、シャラザールは終生クローディアに頭が上がらなかったのだ。ミハイル家の始祖の妻となったクローディアの子孫のクリスは濃厚にその娘の特徴を引き継いでいた。
結局やる気をそがれたシャラザールはそのまま訓練を解散させた。
もう限界を迎えていたアレクはほっとした。
しかし、今までは皆が疲れ切った頃にシャラザールがクリスの中に戻って一同一息つけたのに、分離した今後はどうなるんだろう?
今日もクリスが強引に止めてくれなかったら、そのまま続けられていたはずだ。
アレクには不安しか残っていなかった。
「オウ、大丈夫?」
クリスはオーウェンに肩を貸して歩かせながら心配そうに聞いていた。
「ああ、大丈夫だ」
オーウェンは空元気を出した。
クリスに肩を貸してもらって歩くなんて、久しぶりだ。オーウェンはこのことはシャラザールに感謝したくなっていた。
「本当にシャラザール様もオウに酷すぎます」
クリスが文句を言っていた。さすがシャラザールを憑依させていたからかクリスは容赦がなかった。
オーウェンはクリスの言うことであっさりと訓練を止めたシャラザールが信じられなかった。
オーウェンらがそんなことを言おうものなら倍になって帰ってくるのに……
二人はクリスが、シャラザールの娘のクローディアにとても似ていて、シャラザールとしては後悔してもしきれない負い目があるのを知らなかった。
「まあ、でも、俺はまだまだだから」
オーウェンが首を振ると、
「だとしても赤い死に神のアレク様と同じ訓練させるなんて。シャラザール様は酷いわ。オウはどちらかというと騎士というよりも文官なのに!」
口をとがらせてクリスが主張した。
「でも、クリス。俺はクリスを守りたいんだ。しかし、今回も守れなかった」
オーウェンはクリスと反対側の肩を落とした。こんなことになるならば、もっと訓練しておけば良かったと、とても後悔していた。
「何言っているのよ。オウは私がゼウスにやられて倒れた時に、庇ってくれてくれたじゃない」
クリスがオーウェンを見上げた。その目は潤んでいた。
「結局盾にもならなかったけれど……」
オーウェンは、視線を更に下にしてクリスの視線を躱した。
「ううん、私、とても嬉しかった」
クリスが顔をオーウェンに近づけて下から見上げた。
「クリス!」
オーウェンとクリスの視線が重なった。
クリスの青い瞳は潤んでいて、とても魅力的だった。
思わず、オーウェンはその可愛いクリスの唇に自分の唇を重ねていたのだ。
クリスの瞳が驚きで目一杯大きくなる。
クリスが固まっていた。クリスが真っ赤になる。
「ごめん!」
冷静になったオーウェンは慌てて、クリスから離れようとした。
そして、よろける。
「危ないから」
赤くなったクリスは慌ててオーウェンの体を支えようとして、支えきれずに、二人はそのままもつれ合って倒れたのだ。
華奢なクリスの上に大柄なオーウェンが押し倒した形になる。
二人の顔が至近距離になって目と目が合う。
クリスの瞳はとてもきれいだった。二人の視線が絡み合った。
「オウ、助けようとしてくれてありがとう」
クリスはそう言うとオウの唇に仕返しとばかりにキスしたのだった。
オーウェンの瞳が驚きで目一杯大きくなった。
クリスはそのままさっと唇を離したけれど、今度はオーウェンがクリスの唇に自分の唇を合わせていた。
二人はひしっと抱き合っていた。
その時だ。
「オーウェン、何をしている!」
ウィルの氷のように冷たい声が響いた。
「もう、ウィルったら良いところだったのに」
ナタリーの声と
「ウィル、よせ!」
「ええい、離せ!」
ウィルは剣を抜こうとしてアルバート等に止められていた。
オーウェンとクリスは真っ赤になって慌てて立ち上がった。
クリスの立ち上がるのをオーウェンが助ける。
「ええい、オーウェン、貴様、姉様に触れるな」
ウィルが激高するが、二人は離れなかった。
「ウィル、あなたたちも疲れているでしょう。すぐに寝なさい」
振り返ってクリスがそう言うと、
「えっ、姉上!」
「じゃあ、オウ、部屋まで送っていくわ」
ウィルを無視してクリスがオーウェンを見ると、二人は仲よさそうに肩を組んでウィル達の前を去って行ったのだ。
その二人を呆然としたウィルが見守っていた。
その後アルバート達が夕方まで、ウィルの愚痴に付き合わせられる羽目に陥ったのだった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ついに後一話で、完結です。
明日の予定!
お楽しみに。
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