戦い足りない戦神の前に夜通し特訓させられました
「わっはっはっはっは」
ゼウスを地獄のへらの元に送り込んだ後、シャラザールの笑い声が平原に響き渡った。
「者ども、見たか! 正義は必ず勝つのじゃ」
そして、シャラザールは高らかに宣言したのだ。
ただ、ほとんどの者は倒れていて、聞いているものはシャラザールが避けたお陰で何回もゼウスの闇の直撃を喰らってのたうち回っていた魔王くらいだったが…………
魔王は絶対にいつかシャラザールに思い知らせてやると心に誓ったのだが、傍若無人で無敵のシャラザールの前では愛想笑いしか出来なかった……
一人で喜んでいるシャラザールを残して、他のものは死んでいるか、怪我で重傷を負って苦しんでいるかどちらかだった。
そんな中アレクは攻撃でやられたふりをしていた。
確かにゼウスの攻撃は受けたが、アレクにとって大した傷ではなかった。
なんとかシャラザールが来るまで時間稼ぎをしようと絶対に効くわけはない遠距離攻撃という中途半端な攻撃でお茶を濁していたのだ。
シャラザールが来た後は高見の見物をしていたのだが、無事にシャラザールがゼウスを倒してくれた。
後はシャラザールがクリスの中に戻ってくれるのを待つだけだった。
いや、待てよ。シャラザールってクリスから分離したんだっけ?
アレクはとんでもないことに気づいてしまった。
シャラザールがクリスの中に帰らなかったらどうなるんだろう?
アレクの目の前に暗雲が垂れ込めた。
「さて、魔王相手にしゃべるのも飽きた。それにまだやり足りんな」
シャラザールが不吉な言葉をもらした。
やばい! ここは死んだふりで……
アレクがそう考えて目を瞑った時だ。
「これ、アレク、いつまで寝たふりをしているのだ」
「ギャッ」
アレクはシャラザールにいきなり蹴飛ばされたのだ。
「な、何をなさるのですか?」
アレクは目を剥いて抗議した。
「ふんっ、いつまでも寝たふりをしておるからじゃ。それにアレク、あのゼウスに対するやる気のない攻撃は何じゃ?」
シャラザールが険しい目つきでアレクを睨んだ。
「いえ、私はシャラザール様がお戻りになるまで時間稼ぎをするつもりでして……」
アレクは必死に言い訳消しようとしたが、
「なっとらん。何が時間稼ぎじゃ。せめて、オーウェンぐらい活躍してからそういう事は言え!」
「お言葉ですが、シャラザール。私はオーウェン以上のダメージをゼウスに与えましたが」
アレクは思わず余計な事をポロリと言ってしまった。
「はああああ! 何を言っておる。オーウェンは能力ない分を命をかけたではないか。愛するクリスを守るためにあのゼウスの前に立ち塞がったのじゃ。余はいたく感動したぞ。それに比べて、貴様のあのへなちょこ魔術はなんじゃ! あんなのは余は許さん! 今からその腐った根性をたたき直してやるわ! ええい、全力でかかってこい!」
「えっ、今からですか?」
アレクはシャラザールの剣幕に青くなった。
「当たり前じゃ」
「でも、怪我人を治さないと」
「つべこべ言うな!」
パシーン!
「ギャッ」
アレクは思いっきりシャラザールに張り飛ばされていた。
地面に叩きつけられる。
結局いつものパターンか?
アレクは絶望した。それに今日は終わりがあるんだろうか?
いつもは適当なところでシャラザールはクリスに戻るのに、今日は戻る予定がない。
アレクはもう死んだ振りをしようとした。
「ヒール!」
そんな時だ。シャラザールは戦場全体に癒やし魔術をかけたのだ。
さすが戦神、戦場に傷ついていた皆があっという間に傷口が塞がり、腕を失ったものは元に戻った。
全員、驚いて起き上がった。
こうなればアレクも起き上がるしかなかった。
そして、周りを見ると、なんと魔人も魅了をかけられていた兵士達もたくさんいるんだけど……
どうなるんだ? これは?
アレクらは戸惑った。
一方オーウェンはクリスの胸に抱かれている夢を見ていた。
クリスの可愛い胸に顔を挟まれているのだ。こんな幸せなことはなかった。
「オウ!」
クリスが何か泣きながら話しているんだけど……
「えへへへへ」
オーウェンはにやけた笑いをしていた。
「おい、小僧! オーウェン! いつまでにやけた笑いをしているのじゃ!」
しかし、そこで地獄の閻魔の声がしたのだ。
「え、閻魔様」
「誰が閻魔じゃ!」
オーウェンがはっと目を覚ました時には
パシーン!
シャラザールに張り倒されていた。
「ギャッ」
そのまま、柔らかい胸で顔を受け止められる。
「シャラザール様!」
クリスの怒った声がすぐ上から聞こえた。
えっ、ということはこの前にある柔らかいのはクリスの胸だ。
オーウェンは張り倒してくれたシャラザールに感謝しそうになった。
「ふんっ、いつまでもにやけた笑みを浮かべていやらしい夢を見ておるからじゃ」
シャラザールは斬り捨てた。
「今もクリスの胸に抱かれて喜んでおるわ」
「えっ」
クリスは慌てて胸元のオーウェンを見るとにやけた笑みを浮かべたオーウェンと目が合った。
「きゃっ」
「ギャッ」
オーウェンは驚いたクリスに手を離されて顔から地面に激突していた。
「痛ててて」
オーウェンが顔を押さえて起き上がると、
「ふんっ、クリスを守った貴様は良かったが、後がまだ全然じゃの!」
不機嫌なシャラザールがそこにいた。
理不尽なシャラザールにオーウェンは何か言いたかったが、利口にも黙っていることにしたのだ。
「まあ、よい。日はまだ高い。十分に訓練する時間はある。まだまだの貴様らに余自ら訓練を付けてやるわ」
喜々として話すシャラザールにオーウェンは唖然とした。
「これって果たして今日中に終わるのか?」
アレクがぼそりと呟いた。
アレクが危惧した通り、死の特訓は魔人やノルディンの兵士達も巻き込んで翌朝の日の出前まで続けられたのだった。
ここまで読んで頂いて有り難うございました。
すみません。この話で完結しませんでした。
後少し完結までかかります。
明日には完結予定です……








