北の使者への対応でもめましたがクリスらで対処することにしました
「何だと、ドロビッチが使者に来ただと!」
その報告を聞いてアレクが大きな声を上げた。
「あのノルディンの陰険宰相だろう」
「あの偉そうな奴が自ら出てくるか?」
オーウェンは胡散臭そうに顔をしかめ、ジャンヌは信じられないという顔をした。
「普通はあり得んな」
アレクが断言した。
「これは何かの罠に違いない」
「自爆攻撃か?」
「しかし、あの男が自ら魔導爆弾になるか」
「普通はあり得んな」
「しかし、ゼウスに命じられたら可能性があるぞ」
「ゼウスが憑依してる可能性もある」
皆それぞれ可能性を上げだした。
「どうする?」
「とりあえず、トリポリ国王を出して探りを入れるのはどうだ?」
「それはありかもしれんな」
「ヒィィィィ、ちょっと、止めてくださいよ!」
突然自分に振られてトリポリ国王が素っ頓狂な声を上げた。
「私はまだ死にたくありません」
慌てふためいて両手を大げさに振って叫ぶが、
「クリスを殺そうとしたのだ。それくらいやっても良かろう」
「ヒィッ」
氷のようなオーウェン冷たい声に思わずトリポリ国王は飛び上がっていた。
クリスの魔力に当てられて人間に戻り、翌日には元気になったトリポリ国王だが、吸血鬼になってクリスを襲いそうになったと聞いて青くなっていた。特にオーウェンが今にも斬りかかりそうな顔で睨んでいたので平身低頭して謝ったのだが、オーウェンはまだ許していないみたいだ。
「オーウェン様、私はもう気にしておりませんから」
クリスが横からそう言うとトリポリ国王に向けて微笑んだ。
「ありがとうございます。クリス様」
クリスに喜んで近づこうとしたトリポリ国王の前にオーウェンが立ち塞がった。
「ヒィィィィ」
トリポリ国王はオーウェンに弾き飛ばされて、尻餅をついた。
「ふんっ、これもその方が女にだらしないからであろう。クリスが汚れるから近づくな」
「オウ!」
オーウェンの言葉にクリスが注意するがトリポリ国王に手を差し出そうとはしなかった。
「申し訳ありません。クリス様。でも私はあの宰相が苦手でして」
必死にトリポリ国王が言い訳する。
「どうする?」
ジャンヌが腐ったジャガイモを見るような目でトリポリ国王を見下すと
「うーん、別に淫乱トリポリ国王がドロビッチの自爆で殺されてもなんてことはないのだが、人質に取られたら事だな」
「そのまま自爆させれば問題ないだろう」
「いや、クリス様が気にされると思うが」
「そうだな。クリスはこのような変態が死んでも気に悩むからな」
ジャンヌは冷たい視線でトリポリ国王を一瞥した。
アレクとジャンヌの言葉にトリポリ国王の顔は青くなったり赤くなったりしていたが、最後のジャンヌの言葉にほっと頬を緩めた。
「何を安心しているのだ。トリポリ国王」
ぎろりとアレクがトリポリ国王を睨み付けた。
「貴様が女にだらしないから、吸血鬼につけ込まれたのだ。それも女装した男に欲情するなど貴様は変態か」
アレクの言葉に女達の視線が冷たい。
特にほとんど目も合わせてくれないクリスにトリポリ国王は国家存亡の危機を感じた。
トリポリ王国が残っているのはクリスが温情をかけてくれたからなのだ。
赤い死に神のアレクに任せておいたらとっくにトリポリ王国はボフミエ魔導国に併合されるか、魔王やノルディンの攻撃で壊滅していたかどちらかだった。赤い死に神は属国など平気で見捨てる冷酷な男なのだ。
まあ、普通はこんな小さな属国など見捨てられても全然問題ないのだ。
そんなトリポリ国王を過去にクリスはわざわざ自ら助けに来てくれたのだ。
そんなクリスに嫌われたらトリポリ王国はあっという間に滅亡してしまうだろう。
「申し訳ございません。クリスティーナ様。二度とこのようなことはいたしませんので何卒お許しください」
トリポリ国王は土下座していた。
「ふんっ、信用ならんな」
オーウェンが氷の視線で国王をねめ付けた。
国王はゴクリとつばを飲み込んだ。
「まあ、そう言うな。オーウェン。こういう男でもドロビッチの自爆攻撃の盾には出来るぞ。クリスの前に盾として置いておけば良いだろう」
「そうだな。ドロビッチが自爆しそうになればこの男をドロビッチに投げつけるか?」
ジャンヌとアレクの言葉に国王の顔はもう真っ白になっていた。
「何かあった時にドロビッチを斬るのに邪魔になってしまいますが」
クリスの護衛騎士筆頭のアルバートが指摘したが、
「なあに、その時は一緒に斬れば良いだろう」
「そうだな」
アレクとジャンヌの言葉に国王はもう卒倒しないのがおかしなほど震えていた。
「まあまあ、皆さん。トリポリ国王を虐めるのはそのくらいにして」
大魔導師のジャルカが声を掛けてくれて国王はほっとした。
「ジャルカ様。別に我々は冗談で話しておりませんが」
アレクの言葉に国王はまた真っ白になるが
「まあまあ、いざという時はクリス様が攻撃なさいますが、国王がいてはクリス様の攻撃の邪魔になりましょう」
ジャルカは指摘した。
「うーん、こんなくず殺してもなんともないのだが」
「クリスは甘すぎる」
「本当に」
最後はジャンヌが残念な者を見るようにクリスを見た。
「まあ、そこはクリスの良いところなのだが」
最後のオーウェンの言葉にアレクとジャンヌは白い目でオーウェンを見た。
冷徹なドラフォードの外交を見ている二人にはオーウェンの言葉が信じられなかった。特にアレクは今まで散々ドラフォードには苦汁を飲まされてきたのだ。こいつの甘いのはクリス限定だ。
でも、クリスが出てくると絶対に甘くなる。それに巻き込まれると大変なことになるのだ。それはノルデイン帝国にしてもだ。そして、それだけの力をクリスはシャラザールがいなくても持っていた。既に5個師団くらいがクリスのお陰で消滅していた。あまりクリスに触れたくないのはアレクも同じだった。
「まあまあ、皆さん。既に1時間以上北の使者殿を待たしておりますからな。蛇が出るか蛇が出るかは判りませんが、そろそろ顔を出してやりませんと勝手に自爆しかねませんぞ」
ジャルカの言葉に一同顔を見合わせた。
「まあ、ドロビッチなど何時間待たせて置いても良いが」
「そういう訳にもいかないでしょう」
クリスの言葉に一同謁見の間に向かうことにしたのだ。
ここまで読んで頂いて有り難うございます
続きは今夜です。
ついにゼウス対クリスの最終決戦勃発?
『婚約破棄されたので下剋上することにしました』
https://ncode.syosetu.com/n0747ju/
閑話上げました。
まだの方は是非ともお読みください。








