宰相は魔導爆弾を腹に埋められて降伏勧告の使者にされてしまいました
イヴァン・ドロビッチはノルディン帝国の誰もが恐れ奉る宰相のはずだった。諸外国の国王といえども、ドロビッチにの前ではみんななりを潜め、頭を下げてくれたのだ。ドロビッチはそれだけ周辺諸国にも恐れられていた。
そう、ついこの間までは……
おかしくなったのは、皇帝がボフミエの筆頭魔導師のクリスの行いに対して怒り狂い、闇堕ちしてからだった。
皇帝はクリスに王宮を何回も破壊されて怒り狂い完全に常軌を逸していた。そして、闇の力を頼り、おかしくなったのだ。
どうやら、闇堕ちした皇帝は魔王に憑依されたようだった。
そして、いつの間にか怪しげな姿の者達が宮殿に出入りするようになったのだ。その中には10年前のマーマレード侵攻戦にて亡くなった皇子マクシムや王妃アフロディアも含まれていた。ドロビッチには死んだ者達が復活したという超常現象に頭が追いつかなかった。驚愕している間に、宮殿の主は皇帝から邪神ゼウスに成り代わったのだった。
その間、ドロビッチは抵抗しなかった。というか何も出来なかったといった方が正しかった。
どこに元全能神に対して反抗できる人間がいるというのだ?
全能神に呼ばれたら平伏するしかないではないか!
いつの間にか、ドロビッチも元全能神に顎で使われるようになっていた。
そんな彼らが、ボフミエの代表として訪れていたアレクサンドル皇太子を拘束した時も、ただ見ている事しか出来なかった。
その捕まったアレクサンドル皇太子を助けるためにボフミエの連中が大挙して現れたのには目を見開いた。元全能神に楯突いても大丈夫なのか? ドロビッチには判らなかった。
しかし、戦いの中、ゼウスといえどもシャラザールには適わないということが判り、ドロビッチはその状況が理解できなかった。
何しろゼウスは元全能神なのだ。それが高々一戦神に負けそうになったというのが信じられなかった。
まあ、10年前のマーマレード侵攻戦でもそうだったが……
その戦いの中、闇堕ちして魔王となった皇帝はビアンカという小娘に魔王もろとも消滅させられた。
名実共にゼウスがこのノルディン帝国の支配者になったのだ。
その上、ゼウスは邪神ではもの足りずに魔神となっていた。
最強の闇の神様だ。
そのゼウスに久しぶりにドロビッチは呼び出されたのだ。
兵士が呼びに来た時、ドロビッチは浮かない表情になった。
今頃呼び出しとは何だろう? ドロビッチは重いため息をついた。
「ドロビッチ、御前に参りました」
手足が震えそうになるのを必死に我慢して、ドロビッチはゼウスの前に跪いた。
魔神になったゼウスの威圧感は半端ではなかった。
ドロビッチでは立っているのが精一杯だった。
「うん、よくきたな、ドロビッチ」
ゼウスは何故か機嫌よさげだった。
「はっ」
取りあえずゼウスの機嫌が良いことにドロビッチはほっと胸をなで下ろした。
「実はの、ドロビッチ。その方に頼みたいことがあるのじゃ」
ゼウスが珍しく下手に出た。
「なんでございましょう? ドロビッチで出来ることでしたら何でも承りますが」
「さようか、それを聞いて安心したぞ」
ゼウスは笑顔を見せていた。
「実はその方にトリポリにいるボフミエの筆頭魔導師に使者になってもらいたいのだ」
「使者にございますか? どのようなことをすれば宜しいのでしょうか?」
「なあに、簡単な事じゃ。ボフミエの小娘に我々に全面降伏するように伝えてほしいのじゃ」
「全面降伏でございますか」
ドロビッチはゼウスの言葉に途方に暮れていた。絶対にボフミエが降伏する訳はないと判っていたのだ。それは火を見るより明らかなことだった。
「そうじゃ。その方ならなんとか出来るであろう」
ゼウスはドロビッチを玉座から見下ろしてくれた。その顔は笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。ドロビッチの背中がぞくりとした。
ここは断ってはいけないとドロビッチの本能が警報を鳴らしていた。
「ははあ、臣は全力を尽くす所存です」
ドロビッチは必死に頭を下げたのだ。
「ドロビッチよ」
「はい」
呼ばれてドロビッチは頭を地面に叩きつけるように下げていた。
「今回は失敗は許されんぞ」
「ははあ」
頭を地面に押しつける。
「この身に代えましても必ずや成功してご覧に入れます」
「さようか、それを聞いて安心したぞ」
ゼウスは更に上機嫌になった。
「こちらに来よ」
「はっ」
ドロビッチは少しだけ前に進んだ。
「もっとじゃ」
「ははあ」
ゼウスの言葉にドロビッチはもう少し前に進む。
「もう少しじゃというのに」
ゼウスの言葉が頭の上から降ってきた。
更に前にドロビッチが進もうとした時だ。
ズブリ
と何かが腹に突き刺さったのをドロビッチは感じた。
「えっ」
それがゼウスの手だとドロビッチが知り得たかどうか……
ドロビッチはバタリと倒れたのだ。
「ふん、その方には人間爆弾になってクリスの前に出てもらうのじゃ。その身に代えて頑張って自爆すれば良いぞ」
ゼウスはドロビッチの腹に魔導爆弾を埋め込むと高らかに笑ったのだった。
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