クリスは母に慰められる
クリスはオーウェンと別れた後そのまま部屋にこもっていた。
侍女が食事をどうするか聞いてきたが、いらないと応えた。
クリスはベッドに突っ伏していた。
まさかオーウェンに婚姻を申し込まれるなんて思ってもいなかった。
そこへノックが鳴って母が入ってきた。
「大丈夫。クリス」
「すいません。ちょっと食欲がなくて」
「気分がすぐれないの?」
母が驚いて聞いてきた。
「熱はないみたいね。」
シャーロットはクリスの横に座っておでこを触って言う。
「何か嫌な事があったの?母には言えないこと?」
「そういうわけではないんですけど」
言いづらそうにクリスは言う。
「クリスは10歳で皇太子殿下の婚約者になってしまったから母としてもそれ以降ほとんど面倒を見て上げられなくて。馬車の中でのオーウェン様への対応とか、昨日のパーティの時の行動とか、本当に驚いたわ。いつの間にこんなに立派になってしまったんだろうって。もうびっくりしてしまって。
なんか子供があっという間に立派な大人になってしまって。
でも出来たらまだ甘えてほしいなって思うんだけど」
そう言ってクリスを見ると
「お母様」
と言って胸の中にクリスは倒れ込んだ。
そこでオーウェンに好きだと言われたことを話した。
「で、クリスはどう思ったの?」
「なんか突然で驚いてしまって。
私としては婚約破棄されてしまったところだし、あんな場で婚約破棄されたから恥ずかしくてもう二度と誰も婚約してくれないだろうし、もう婚姻を結ぶのも難しいとしか思っていなくて」
「まあ、クリス、それは無いと思うわ。婚約破棄されたところだから言わなかったけれど、各国の王族をはじめ100通以上婚姻の申し込みは既に来ているのよ」
「えっ本当ですか。」
クリスはびっくりした。
「本当よ。だからあなたが結婚したいと思ったら選り取り見取りなのよ」
冗談ぽくシャーロットは言う。
「自国の皇太子にパーティ会場で婚約破棄された娘なんて本当に欲しがる人がいるんですか?」
クリスには信じられなかった。そんなもの好きな人がいるなんて。
「まあ、あなたの場合は本当にみんなに愛されているもの。それだけいろいろやってきたからよ。あなたが認められて母としても鼻が高い娘なのよ」
「そんな、私なんてまだまだです。」
「その謙虚なところも好かれているのよ」
シャーロットはクリスの頭をなでながら言った。
「オーウェン様から申し込まれて嫌だった?」
クリスは首を振る。
「オーウェン様は私が本当につらい時に私をかばって頂いたしそんなことはありません。ただ、私がドラフォードの皇太子妃にふさわしいかというとあんなことされたしそうは思わなくって」
クリスはゆっくりと考えて応える。
「まあ、今はまだ婚約破棄されたところだしね。これからじっくり考えて見なさい」
シャーロットは娘にアドバイスした。
「ただ、私が驚いたのは周りの皆さんが期待していただいている事ね」
「えっどんなことを」
「うーん、言いづらいけど、今日のお茶会に参加された方々とか、あなたがお会いした将軍閣下とかは、あなたがお妃になって欲しいって思っていらっしゃるわ」
「うそ、そんなことあるわけないわ。」
「母があなたに嘘ついても仕方がないでしょ」
クリスを抱きしめながらシャーロットは言う。
「でも、1国の妃なんて大変なことだらけ、母としては出来たら国内の同じような貴族と結婚してもらった方が気は楽なんだけど」
そして、クリスの目を見る。
「お母様。もう少しだけこうしていてもいい?」
母の胸の中でクリスはつぶやいた。
「ええ、好きなだけ甘えて良いわ。」
クリスはゆっくりと母の腕の中で目をつむった。
そう、いろんなことは明日以降にまた考えようと。








