トリポリ国王は罠に填って吸血鬼にされてしまいました
ゼウスの怒りの雷撃によって謁見の間は悲惨な状況になっていた。
天井や壁は焼けただれ、中にいた兵士達の多くは怪我をしたのだ。
その中でゼウスはこめかみに青筋を立てていた。
「しかし、ゼウスよ、シャラザールは地獄の門を守っているのだろう。我が方は兵のほとんどを地獄に幽閉されたままだ。今の戦力で地界から攻め上がるのは中々至難の業では無いのか」
ゼウスの怒りの攻撃が収まったところでポセイドンが指摘した。
「しかし、ならばどうするのじゃ」
ゼウスは表情を険しくして問うていた。
「シャラザールは分離したとはいえ、クリスとか言う小娘を溺愛しているそうじゃ。その小娘を人質にとれば必ず、シャラザールは地獄から飛んでくるのではないか?」
「しかし、そううまく事が運ぶのか?」
ゼウスはポセイドンの提案に懐疑的だった。
ポセイドンの言う所のクリスの小娘に前回はあと一歩の所まで追い詰められたのだ。ゼウスが魔神になったとはいえクリスの力は侮りがたかった。
「直接クリスを攫おうとするから難しくなるのじゃ。クリスの小娘はトリポリをまた拠点にするのだろう。トリポリ王は少し頭の足りないところがあるのではないか? トリポリ国王を嵌めれば良いのじゃ」
「トリポリ国王か。確かにトリポリ国王は単細胞だとは聞いているが、それをだましたとて、クリスには繋がらないのでは無いか」
「お主の部下に吸血鬼のドラクエがいるでは無いか」
「なるほど。ボフミエ国王を吸血鬼にして、クリスを襲わせるか」
ゼウスはぽんと手を打った。
「そうじゃ。クリスもその配下もトリポリ国王を疑いはしまい。その油断しているところを後ろから吸血鬼になったトリポリ国王が襲いかかれば、いくらクリスといえども一溜まりもあるまいて」
「そうじゃの。さすればシャラザールを呼び寄せるのも容易か」
「そうじゃ。うまくいけばボフミエの者達も大半を仕留められよう。そうなれば敵のまっただ中にのこのことやってきたシャラザールを仕留めるのも容易になるわ」
打ち合わせを終えるとゼウスとポセイドンは大きな口を開けて笑い合ったのだった。
その後直ちにドラクエ伯爵が呼ばれ、トリポリ王国に派遣されたのだ。
ドラクエ伯爵はトリポリ国王に拝謁するのにも、一応、念のために策を練った。
ノルディン帝国から逃げ出した女官ドーラとして女装して拝謁したのだ。
元々ドラクエは見目麗しい男だったので、女装してもよく見ても男とは判らなかった。肩まで伸びる艶やかな黒髪の女性女官が出来上がったのだ。
ドーラはその姿でトリポリ王国の王宮に亡命を希望したのだ。
黒髪の美女が亡命を申請してきたと聞いて、女にだらしないトリポリ国王は直ちに会ってくれた。
「その方が、このトリポリに亡命を希望してきたドーラか?」
「はい、さようでございます」
頭上からの声を聞いてもドラクエは頭を下げたままだった。
顔が見えずに国王はじれた。思わず前のめりになる。
「表をあげよ」
「そのような。私は命からがらノルディンから逃げてきてものでございます。陛下の前で表をあげられるような身分のものではございません」
うつむき加減でドラクエは答えた。声も甲高い女の声に変えていた。
「そうは申しても、ノルディン帝国で女官を務めていたのならば、貴族の娘であろう」
「しかし、父も母もゼウスに殺されましてございます。今は平民扱いかと」
ドラクエは涙声で答えた。
「そうか、それは難儀であったの?」
国王はドラクエに同情した。
「はい。私もここまで逃げてくる途中で何度も兵士達に襲われそうになり、やっとの思いでここまでこれた次第です。途中風呂にも入れず、到底陛下にお見せできるような顔ではございません」
そう言うが、取り次ぎの兵士はとても美人だったと国王に報告していたのだ。
だから王妃らには内密にこうして会うことにしたのだ。
でも、顔も見られないでは意味が無かった。
しかし、焦らすためか、中々ドラクエは顔を上げなかった。
「そのようなこと、気にせずとも良い。是非とも顔を上げてその方の元気な姿を見せてほしいものじゃ」
「さようでございますか? それではお言葉に甘えまして」
その降肩的な瞬間を待っていたのだろう。上目遣いに見上げたドラクエの顔を見て国王は言葉を失っていた。それほどの美女に見えたのだ。
ドラクエはここぞとばかりに赤い目を光らせていた。
その赤い目に見据えられて国王は完全に魅了されていたのだ。
その夜、トリポリ国王の寝室にドラクエは呼ばれた。
部屋に入ったドラクエの姿は目が赤く輝いてとても妖艶だった。
目をギラギラと光らせた鼻息も荒い国王はそのままドラクエを抱きしめた。
そして、ドラクエが身に纏っている薄衣を剥ぎ取って、あられもない姿にしようとした時だ。
首筋にチクリと痛みを感じた。
「えっ」
ドラクエを慌てて振りほどこうとしたが、首筋に突き刺さった牙は抜けずに、ドンドン血を吸い取られた。トリポリ国王は声を上げる間もなく、そのまま意識を失ってしまったのだった。
ここまで読んで頂いて有り難うございます。
ゼウスの罠の張られたトリポリに次回クリスが登場です。
クリスらの運命や如何に?
明朝更新予定です。
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