プロローグ ゼウスは魔神になりました
「これはこれはオオクニヌシ様、このようなあばら屋にどうされたのですか」
ボフミエ魔導国、大魔導師のジャルカはへりくだって、今の天界の主のオオクニヌシを自分の部屋に招き入れた。
部屋は珍しくきれいに片付けられていた。
「それがのう、ジャルカよ。大変なことになったのだ」
オオクニヌシが深刻な顔をして言った。
「大変なこととは、オオクニヌシ様がおっしゃるとは余程のことですな」
「さよう、ゼウス様が邪神になられて地獄から復帰したのは知っておろう」
「そうでしたな。また閻魔が負けてしまったとか。閻魔も落ちぶれたものですな」
「そういうことをいうな。貴様らがそういうことを言うから閻魔がゼウス様に寝返ってしまったのだ」
「なんと、閻魔がゼウスの手下になったというのですか」
「元々ゼウス様は全能神で、閻魔のじょうしだったからの。シャラザール様に二度も脱獄され、更にゼウス様にまで負けてしまって完全に折れてしまったのだ。そこをゼウス様に言葉巧みに口説かれたらしい」
「なんとも邪神ゼウスのやりそうなことですな」
にやりとジャルカは笑った。
「ジャルカ、笑い事では無いのだぞ。シャラザール様等がせっかく倒したゼウス様の部下が、あっさりとまた地上に戻ってしまったのだ」
オオクニヌシの言葉にジャルカは絶句した。
「なんと、では倒しても倒して敵は復活するでは無いですか」
「そうなのじゃ。このままでは本当にまずい。いくらシャラザール様が無敵でも、戦力は限りがあるからの。敵はいくら死んでも地獄から生き返れるのだ。圧倒的に敵が優位に立ったのだ」
「それは早急に何らかの手を打たねばなりませんな」
「そうなのじゃ。それにもまして、ゼウス様は今度は魔神になろうとなさっているそうだ」
「魔神でございますか」
「そうじゃ。魔王の上で天界の神よりも上になる全能の魔神になると公言なさっているのだとか」
オオクニヌシが憔悴しきっていた。
「そうなって、もし、シャラザール様が負けてみろ。天界も全てゼウス様の支配下に落ちてこの世は真っ暗闇になってしまうわ」
「判りました。早急にシャラザール様と面会の場を設けましょう」
ジャルカは慌てて二、三指示を出して動き出したのだ。
一方、こちらはノルディン帝国の帝都モズ、
先の大戦の傷跡がまだ明確に残っていた。
宮殿の多くは焼失し、帝宮はほとんど焼け野原の体をなしていた。
しかし、その焼け野原にゼウスは巨大な祭壇を作り、地獄から呼び戻した多くの神や元国王、騎士や戦士達を集めていたのだ。
「父上、地獄から蘇らせた全員10万名揃いましたぞ」
「うん、よく戻ったなマルスよ」
ゼウスは息子のマルスに声をかけた。
「前回の地上ではアレクサンドルに負けてしまいましたが、此度は絶対に負けません」
「そうじゃな。マルス、しかし、仕返しは少し待ってはくれまいか」
「はあ? 父上何をおっしゃるのです。やられたらすぐにやり返せと地獄に落ちてからは散々おっしゃられてた記憶がありますが」
「実はのう、その方らに頼みがあるのだ」
「何なのです。父上、改まって?」
マルスは不振に思って聞いていた。今までゼウスが改まって頼むと人に頼んだことなどほとんど無かったのだ。
「実はのう、我は魔神になろうと思うのだ」
「邪神よりも上の魔神にですか?」
「さようじゃ。さすればいくらシャラザールとはいえ、予には勝てまい」
ゼウスは負けた屈辱を思い出したのか、顔を少ししかめていた。
「なるほど、してどうすれば魔神になれるのです?」
「予は既に邪神じゃからの。調べたところ、あと、もう10万人ほど殺せば魔神になれるそうじゃ」
「10万人でございますか」
マルスはその数字をどこかで聞いたことがあるような気がした。
「そうじゃ。そこでその方らに死んでほしいのじゃ」
「何ですって、父上。我らは生き返れるとは言え、死ぬ時はとても痛いものなのです。それをまた死ねと申されますか」
色をなしてマルスがゼウスに詰め寄った。
「すまん。我らが勝つためだ」
「そんな事は許されませんぞ」
「素養でございます。ゼウス様、お考え直しを」
「父上お考えをお直しください」
マルス達はゼウスに再考を促したが、
「すまんな」
そう言うとゼウスはにやりと笑った。
「「「ぜ、ゼウス様」」」
皆必死にあらがおうとした。
しかし、その瞬間ゼウスから闇の魔力がほとばしって
「闇のスーパーエリア攻撃発動!」
ゼウスが叫ぶと同時に一斉に闇の魔術が10万人に襲いかかったのだ。
それは真っ黒なおどろおどろしい魔術が凄まじい勢いで全員を押し包んだ。
「「「「ギャーーーー」」」」
凄まじい悲鳴が周りに響き渡り、血しぶきが飛び交った。蘇った人々はあっという間に闇の魔力に飲み込まれて吸収されたのだ。
その闇の煙があっという間に周りの視界を覆い、それが徐々にゼウスに吸収されていく。
ゼウスを覆っていた黒いおどろおどろしい闇魔術の奔流が消え去った時だ。
その中央に真っ黒な人の形をした魔神が仁王立ちしていた。
「あは、あは、はっはっはっは!」
魔神は笑い出した。
「ついに予は魔神になったぞ。これでもうシャラザールなどと言う小童に負けることもないわ」
魔神ゼウスは高笑いをし続けたのだった。
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これより第14章 最終章開始します
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