ボフミエ魔導国の主力部隊が転移攻撃に入りました。
「オーウェン。私がこのようなことをしなくてはいけないのか」
「何卒宜しくお願いします」
魔導電話越しにブツブツ文句を言うおばでもあるオリビア・テレーゼ女王にオーウェンは頭を下げた。
オリビアの前には丸い特殊な魔道具があった。スカイバードにてアメリア皇太子に急遽持って帰ってもらったジャルカ特製の魔道具だった。
「何しろアレクは捕まっておりますし、クリスとジャルカ様、ジャンヌ、ジャスティン魔力のあるものは大半は戦場に出ているのです。何卒魔王退治のためにぜひともお力をお貸しいただきたく、よろしくお願い致します」
「判った。お前がそこまで言うなら力を貸そう。これは貸しじゃからな」
「まあ、そうおっしゃいますな。これも全てはシャラザール様のお導きです」
「本当にシャラザール様のご命令なのか?」
「当然です」
疑い深そうにみる女王にオーウェンは自信を持って頷いた。もっともシャラザールに聞いてなどいない。シャラザールが聞いたら起こるかもしれない代物なのだが。ただし、クリスらが魔力を使い切った時のためのこれは保険なのだ。
「それで、今も力を込める必要があるのか?」
「謀略戦の一貫です。ぜひともご尽力頂ければ幸いです」
「まあ良い。アメリアに聞いたが、こんなのは子供だましではないのか」
「いや、おそらく有効に働くかと思います」
「判った。では参るぞ」
オリビア女王が機器に魔力を流した。
一歩クリスらの攻撃部隊100名はトリポリ国の王都にいた。できる限り力を温存するためにここまでスカイバードで来たのだ。
最初は出撃拠点にされるのを嫌がったトリポリ国王も
「アレクを見捨てると後でどうなるかわからんぞ」
というオーウェンの脅しと
「陛下の御慈悲をお願いしたいのですが」
クリスのお願いに負けてしまったのだ。
「しかし、ここを出撃拠点にした事でそのゼウスとか申す邪神が攻撃してくることはないのでしょうな」
神経質そうにトリポリ国王が聞いてきた。大国の間にある小国の国王は神経をすり減らすのだ。でも、それは大国の皇太子には通用するはずもなく、
「トリポリ国王。いまアレクが危ないのだ。それを助けに行く我らに協力しないと言うのか」
ジャンヌがブスッと言う。
「いえ、そのようなことは。ただ、事が終わった後に我が国を見捨てることだけは無いようにお願いいたしますよ」
「その時はシャラザール様にお願いしてやるわ」
「まあ、でも、シャラザール様が来臨なさるとこの王都もクロチアのように壊滅するかもしれませんな」
ジャルカが平然と言う。
「えっ、いやまさか・・・・」
トリポリ国王は真っ青になった。怒り狂ったシャラザールが魔王を倒すためとはいえ、クロチアの王都を破壊したのは国王も聞いていた。そして、シャラザールならば当然やりかねないということも。
「しかし、今回手伝わなかったと聞かれたときのほうがやばくないか」
ジャンヌがサラリと言う。
「いや、殿下。お手伝いしないとは申しておりません。無事のご帰還お祈り申し上げております」
必死にトリポリ国王は言い募った。
「魔導ミサイル。標準着弾まであと、5分です」
魔導電話越しにオペレーターが叫ぶのが見えた。
ボフ見え本国とは直接魔導通信で結ばれており、巨大な戦力室では文官や魔術師たちが刻々と状況を報告していた。
「よし、最終カウントダウン開始」
「ジャルカ様、準備願います」
戦闘準備を終えた皆の真ん中にいきなりしゃラザールの映像が現れた。
「余はシャラザール。暗黒邪神のゼウスよ。余の部下である、アレクに良くもいろいろとしてくれたな。ここで余自らが親征することにした。余の子孫であるノルデインの民よ。今こそ、邪神ゼウスを倒すためにともに立ち上がるのじゃ。余は今まさに親征せんとす」
「ジャルカ様。転移準備よろしくお願いします」
「魔導ミサイル着弾1分前」
戦略室から声が次々に飛ぶ。
ゼウスは魔王と一緒に玉座にいた。
「なんか小賢しいことばかりしおるの」
ゼウスは馬鹿にしたように言った。
ゼウスの前には魔道具を通してテレーゼ女王が流した画像が現れていた。
拠点と思われるところ1000箇所以上にシャラザールのプロパガンダ映像を次々に流しているのだ。
「そこなボケナスゼウスよ」
そう言うシャラザールの映像をゼウスが燃やす。
しかし、テレーゼ女王の巨大な魔力をもとに投影されている映像は消えなかった。
「おのれ」
ゼウスは力を込めて障壁を築くと外からの干渉を排除した。
「わっはっはっはっ。ゼウスの力もそこまでか」
なんと今度は部屋の外から大声がこ聞こえのだ。
「おのれ」
ゼウスの怒りが爆発した。
その瞬間王宮の一角が爆発、消滅していた。
一方中央広場に魔道師団1万人が集合していた。この3年間で作られた精鋭だ。
防衛隊は各所で既に防衛体制に入っているが、出現した場所にこの主力で出撃攻撃にあたろうとしいた。
「敵がまもなく、攻撃してくるそうだ。出現次第、全部隊を持って攻撃する」
師団長が演説していた。
王宮の一角を破壊したゼウスは空を見た。
「ゼウス様。なにやら空を大軍が迫っておりますぞ」
皇帝に憑依した魔王が言った。
「おのれ、小賢しい真似を」
ゼウスは力を込めた。
魔導ミサイルが次々に爆発した。
そのゼウスの力は巨大だった。100発以上飛ばした魔導ミサイルが次々に爆発する。
しかし、一部逃れたものが塔などに命中、大音響とともに、爆発する。地上は凄まじい様相になってきた。
「5発命中しました」
「よし、転移作戦開始」
オーウェンが叫ぶ。
「最終カウントダウン5秒前3,2,1」
ジャルカが杖を振った。
トリポリからは100名が一瞬で消えた。
「ふう。やって行ってくれた」
ホッとしてトリポリ国王はため息をついた。何しろボフミエの連中の中には大国の皇太子連中や大貴族の子弟など今後世界を動かしていく人物がわんさかいるのだ。ここで嫌われると国際問題に直結しかねないのだ。1兵士といえども馬鹿に出来なかった。一度護衛騎士と馬鹿にしたらドラフォードの大公爵の息子だったりした。
国王としては大国同士仲良くしてほしいのだが中々そうはうまくいかないらしい。胃の痛い毎日が続くかと思うとあんまりいい気がしなかった・・・・
一方のジャルカらは中央広場に転移した。
それもシャラザールがムカついているイワン大帝の銅像の上に。
そして、集合していたノルディン帝国親衛騎士団の真上に転移したのだった。
ジャルカは邪魔だとばかしに杖を一閃した。
その瞬間地上は爆発した。魔道師団を巻き添えに。
「なんかありましたかな」
のんびりしたジャルカの声とともに100名は転移完了した。
爆発の後には銅像は跡形もなくなっていた。魔道師団とともに。








