閑話 大国近衛騎士の嘆き
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ドラフォード王国近衛騎士のトマソンは今日も憂鬱だった。
いま隣国ボンゴル王国からリヤ王女が王都イエーナを訪問していてトマソンはその護衛の一人に抜擢されたのだ。
しかし、昨日王都への玄関口ハイリンゲンについてからの王女はわがまま三昧だった。
まず、暑いとのたまって、氷を買いに行かされた。
そして、1時間も走ると腹が減ったとおっしゃって近くのレストランへ無理やりつけさせられて今度はそのレストランが汚いとか古いとか自分の格式に合わないとか言い出す始末だ。
お付きの女官のエバがそれを抑えるかと思いきや、一緒になって騒ぐ始末。
やれ、ボンゴル王国の王女様をこんな所に案内するとは王女を侮辱する行為だとか、近衛の姫様を大切に思う心が足りないだ。対応が遅いだ散々だった。
本来はそんな事は外務がやるべきではないかと思うのだが、外務からついてきたやつは一緒になって騒ぐ始末だった。
侯爵令息だか、なんだか知らないが、前のセルフェスト外務卿の息子のライナーはもっとちゃんとやってくれた。王女をうまくなだめたりしてくれたし。
そして、この王女がドラフォード皇太子殿下の妃殿下を目指して来ているとか止めてほしい。絶対に無理だ。
「きゃーーーー」
今日も王女の悲鳴が響いた。
「どうなさったのですか」
慌てて飛び込むと、着替え途中の姫は逆ギレした。
「キャーーー。痴漢」
「いや、いま悲鳴が」
しかし、王女に側の食器を投げつけられてほうほうの体で外に出た。
全く訳が判らなかった。
後で聞くと部屋の中にバッタがいたらしい。バッタで悲鳴を上げるなよ。
思ったが、王宮の女官長と近衛師団長が呼ばれて叱責されていた。
その後トマソンと同僚は近衛師団長に呼ばれた。
「エリクソン。貴様は1ヶ月の謹慎処分とする」
「はいっ、ありがとうございます」
エリクソンは嬉々として言った。
「何故喜ぶ」
近衛師団長は不機嫌そうな声で言った。
「だってあんなワガママ王女のお守りは嫌です」
「エリクソン不敬だぞ」
近衛師団長は注意をしたが、半ば投げやりだ。
「トマソン。お前は厳重注意だ」
「えっ、師団長。それはないですよ」
トマソンは食って掛かった。
「いや、ちょっと待て、トマソン。エリクソンよりも処分は厳しくないのだぞ」
「何おっしゃっていらっしゃるんですか。私も見たくもない王女の下着姿見ましたし、エリクソンと同じ謹慎が該当するかと」
「トマソン。口は災いの元だぞ」
「はいっ、それで謹慎処分に」
トマソンは必死に頼み込む。
「これ以上謹慎処分に出来るか」
近衛師団長も切れかけた。
「そんな、どんな罰ゲームですか。エリクソンだけこの苦行から逃れられるなんて許せないです」
「良いな。トマソン。これは命令だ」
トマソンは同僚のエリクソンが嬉々として下がって行くのを呆然と見ていた。
これが下手したらドラフォードの未来の王妃になるだ。それだけは許せなかった。
それに対して皇太子が今必死にアプローチしているクリス筆頭魔導師は本当に天使だ。
これまで3度ばかり訪問された時も、わがままはほとんど言わず、護衛の近衛にまで気にしてくれた。名前も覚えてくれたし、わがままで他の所に寄るというのも、今日は暑いから馬が疲れるだろうと休憩の水場による数を増やしてくれたりしたくらいだ。
お忍びで街へ出た時も本当にこちらに被害はなく、後でお土産のお菓子もくれたくらいだ。
その筆頭魔導師の護衛騎士になったアルバートは彼女に婚約者まで紹介してもらったそうだ。あの朴念仁のアルバートが今は目も当てられないほどデレデレだと言う。
ナタリーも本当に自由にやらせてもらっていてやりやすいと言っているし、事務官になったイザベラは彼氏ができないと文句を言いつつ、周りはほとんど男だらけで選ぼうと思えば選り取り見取りだと皇太子の護衛隊長のジェキンスからは聞いていた。
それに筆頭魔導師は戦いとなれば後ろで守られているだけでなくて、最前線に出てくれるし、護衛が傷つけばその雷撃で仕返しまでしてくれるというスーパー君主だ。果てはアルバートの彼女の危機には自ら転移して助けてくれたっていう君主にしてみればこれほど頼りになる君主はいなかった。
ボフミエにいる東方第一師団もそのクリス様には心酔しており、皇太子がクリス様に振り返られなかったら皇太子を見捨てかねなかった。
彼奴等は最前線で実戦力も磨けて、仕える相手に逆に気を使ってもらっているのに、本国にいる近衛がこんな苦難の連続ってどういうことだと、師団長に転属願いを出したくなったトマソンだった。
そもそも、国王陛下も皇太子殿下もガーネット殿下もそんなに我儘な方ではない。王妃殿下がたまに我儘を言われるが、この王女に比べれば本当に些細なものだった。
自分の権力強化のためにこんな王女を呼んでいる侯爵に対してむちゃくちゃ不満を覚えるトマソンたちであった。
これによって侯爵の影響力は地に落ちて、クリス王子妃待望論がもはや臣民の間で公然の事になるのに時間はかからなかった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
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今回はシンデレラ物語です。
平民の薬屋の娘リアが王立学園で繰り広げるドタバタ劇
好きなのは幼馴染のカートなのに、何故か王子様に好かれてしまい・・・・
ぜひともお読みください。








