クリスの涙
2回目です
湯船の中で泣いていたクリスの目の前に突然ウィリアムが転移してきた。
そしてそのままクリスに向けて落ちる
「姉様?!」
「ウィル!」
胸に飛び込んで来ようとしたウィルの頬っぺたを思いっきり張って湯船の外に弾き飛ばす。
「姉様。胸大きい」
ぼそっとウィルはつぶやいた。
「何人の裸みてるのよ」
胸を隠して傍にあったシャンプーの瓶をウィルに向けて投げつける
ウィリアムはほうほうの体でバスルームを逃げ出した。
ウィリアム・ミハイル ミハイル侯爵家の長男で跡取り
18歳のクリスティーナの唯一の兄弟。
15歳だが現在北方ノルディン帝国国境を警備している魔導第一師団・独立魔導中隊、別名死神部隊、暴風部隊等々二つ名はたくさんあるがに見習いとして所属している。
魔法騎士。3年前に侵攻してきたノルディン軍をジャンヌ王女が撃退した時に巻き込まれて12歳で従軍。
この4月から籍だけは王立士官学校に所属しているが研修の名目の元、王女の元で研修というか実戦配備されている。
「うーん、ここ何処?
部屋はピンクの壁紙、ベッドが一つ 屋敷ではないというと寮。えっ女子寮・・・・」
「クリス様!」
その時ドンという音共に入口の扉がカギごと壊されて女性騎士が飛び込んできた。
「メイ」
「ウィリアム様?」
侯爵家の女性騎士は慌てて剣を下ろす。
「どうしたの?」
「どうもこうもありません。クリス様の部屋で魔導反応があったので慌てて来てみれば、あなた様がいらっしゃって。いくら弟君とは言え姉上の部屋それも女子寮に押し入るなんて言語道断です」
「本当よ。それも風呂場の中へなんて」
バスタオルを巻いただけの姿でクリスが出てきた。
「いや、私も来たくて来たわけでは。訓練中にいきなり転移させられて気付いたら姉様が泣いておられて」
「泣いてなんていないわよ」
クリスが叫ぶ。
そのクリスの様子を真っ赤になってウィルが見る
「どうしたの。ウィル赤くなって」
「クリス様。いくらウィル様が弟とはいえ、その恰好ははしたないです」
「仕方がないでしょう。風呂に入っていたらいきなりウィルが転移してきたんだから」
「ウィル様。いきなり夜這いですか。いくら姉君が好きでも」
「違う。これは何かの陰謀だ。俺は転移したくて転移してきたわけではない。いくら俺でも姉の風呂場に転移したりしない。」
真っ赤になってウィルは言った。
「何事ですか。男の声がしたようにも思いましたが。」
寮監が顔を出した。
その一瞬でクローゼットの陰にウィルは隠れる。
「あら、ごめんなさい。虫がいたみたいに感じたから悲鳴上げたら、メイがびっくりして飛び込んできたんです。」
「申し訳ありません。」
合わせてメイが謝る。
「本当ですか。男の声が聞こえたように思ったのですが」
部屋の中を眺めるように寮監が見る。
ウィルがびくっと震える。確かここの寮監は厳しくて有名だったはずだ。
「気分悪くなられたクリスの事を心配して、殿下がお忍びで訪ねて来られたのかなと思ったのですが。」
「いや、そんなことを殿下がされる訳ないじゃないですか。」
先ほどの事を思い出して少し落ち込んでクリスが答える。
「そうですかね。体は大丈夫ですか。なんならお医者様呼びますが」
「大丈夫です。寝れば治ると思います」
「そうですか。何かあればすぐに呼んでね」
騎士に言うと寮監は出て行った。
「助かった」
ほっとして息を吐きだすと立ち上がろうとした。
「ウィルちょっと待って今寝巻着るから」
その言葉にもう一度座り込む。
「で、姉上どうされたのですか。」
メイがいるので、泣いていた理由をオブラートに包んで聞く。
「ううん。ちょっと疲れちゃって。それよりもウィル。明日ひま?」
着替え終わったクリスがウィルの横に立つ。
白のバスローブだ。
所々白い肌が見えて服を着ていてもウィルには目の毒だったが。
「えええ、暇ってそんなことは」
「そうよね。あなたも忙しいわよね。」
途端にしおらしくクリスが言う。
「痛てて。大丈夫ですよ」
メイに足踏まれて慌てて応える。
「本当に無理しなくて良いのよ」
元気なさそうな声でクリスが言う。
「何言っているんですか。僕は姉上が涙を見せないために騎士になったんです。姉上が喜ばれる事なら他の事なんて大したことは無いですよ」
例え王女をほったらかしにしても…・
怒っているだろうなあの王女。
でも飛ばされたのは王女のせいだし。
後で連絡しようとウィルは思った。
まあ、王女も気にしているクリスの願いだし、本来自分はまだ士官学校の生徒のはずだから軍規もくそもないし…・
と勝手なことを思う。
そもそも軍規違反の常習者がトップなので部下の軍規違反もあんまり気にされはしなかったが。
「じゃあ明日のサマーパーティの私のエスコートウィルがやって」
「えっ。でも3年生のサマーパーティーのエスコートって皇太子でなくても良いんですか」
「良いの良いの。あんなむかつく皇太子じゃなくてかわいい弟で。」
「えええ?、喧嘩でもしたんですか。」
「まあいいじゃない。それよりも少し疲れちゃった。」
クリスはベッドに横になった。
「ウィル。昔よく寝る前にお手手つないであげたじゃない。寝るまででいいから繋いでくれない?」
「えっ姉上」
驚いてウィルは言う。あの気丈夫な姉がこんなこと言うなんて。
「まあいいですけど。」
良く手をつないでもらっていたっけ。確かノルディンが攻めてきた時も。
ベッドの横に椅子を持ってくると姉の布団から出た手をつなぐ。
「いつもと逆ね」
クリスがほほ笑んだ。
「ごめんね。ウィル心配させて」
目をつぶったまま言うとしばらくしてクリスは寝息を立てだした。
姉はいつも強かった。ノルデン帝国と対峙した時もウィルを守ろうとしてくれた。
その姉がか弱くなるなんて信じられなかった。
「姉上。姉上を悲しがらせる奴は僕が成敗しますから」
やさしく姉を見守るウィルの瞳は暗い炎を燃え滾らせていた。
今日もう一度更新します