大国王妃の怒りで南国皇太子側近は恐慌を来し平伏しました
チャドウィックの護衛騎士たちが慌ててチャドウィックの方に駆けて行った後に、呆然と側近のオコトが残っていた。
補佐官のオコトはクリスの魔力の多さに驚いていた。というか驚愕していた。
そして、自国の皇太子がボフミエ筆頭魔導師の怒りに触れたことに恐れを抱いていた。これは下手したら消されるかも・・・・・
オコトは恐怖に震えた。
後ろから見たクリスはそれだけ恐ろしかった。あの怒りがサウス王国に迎えば、勇猛果敢なサウスの戦士たちとはいえ、下手したら一瞬で殲滅させられる。
クリスの力はそれだけの恐怖を生むのに、十二分なものだった。
しかし、クリスはオコトの方を見るわけもなく、慌ててオーウェンの方へ飛んで行った。
直ちに謝らなければと思ったが、足がすくんでオコトは前に出れなかった。
そのオコトが後ろから殺気を感じた。
そして、そう言えばオーウェンの母のドラフォードの王妃がいたのを思い出した。
ドラフォードと言えばサウスの北の大国。その王妃の機嫌を損ねることはサウスの国益には決してプラスにはならない。
「も、申し訳ありません」
取り敢えず、オコトは振り向きざま頭を下げた。機先を制して謝るにこしたことはない。
「これはこれは、あなた様はサウス王国の皇太子殿下の側近でいらっしゃいますな」
キャロラインは薄ら笑いをして言った。
「申し訳ありません。何しろ皇太子はまだまだ若造でして」
必至にオコトは謝る。
「いえいえ、貴方様が謝られる必要はございません。我が皇太子が弱かっただけですから。本当にあの子ったらみっともない。サウスの皇太子殿下に完敗するなんて」
そう言うキャロラインの目は笑っていなかった。
「ミューラー」
キャロラインはボフミエに駐留しているドラフォード最強の東方第一師団長を呼んだ。
「はっ。御用ですか」
「ボフミエ駐留軍の中で皇太子以上の使い手は誰がいますか」
「はいっ?」
いきなり聞かれてミューラーは詰まった。
「世界最強を謳う我軍の東方第一師団ならば皇太子以上の使い手はたくさんおりましょう」
「そうはおっしゃられても皇太子殿下も結構お強いのですよ。サウスの皇太子とやりあえるのはクリス様の騎士のアルバートとナタリーですが、基本はクリス様の騎士ですから・・・我軍の中では第一大隊長のドーブネルくらいですが、呼んでも来るかどうか」
ミューラーは言葉を濁す。基本的に剣技と大軍の戦闘は別で、師団に個人技の優れた人間は少なかった。優れた使い手はその各々の父の思惑で勝手にクリスの騎士になっているし、ドーブネルは自分でも言うことを利かすのは難しいのだ。王妃の言葉を聞くとは到底思えなかった。
それを聞いてオコトはホッとした。まあ、自国の皇太子がどれだけボコボコにされようがどうでも良かったが、これ以上大国の怒りを買うのは避けたかった。
「そう判ったわ。セナ、お願いがあるのだけれど」
王妃は方針を変えることにした。
「はい。王妃様どうされましたか」
セナ・アルフェスト外務卿夫人だ。
オコトは王妃が何故外務卿夫人を呼んだのか、とても嫌な予感がした。
「サウス国は我が国に対して良いイメージをお持ちじゃないようなの。外務卿に確認いただきたいのだけれど、サウスからの小麦の関税を50%上げようと思うのだけれど何か問題あるかどうか」
この王妃の発言はオコトにとって青天の霹靂だった。
サウス王国の最大の産業は小麦の輸出で、その大半はドラフォードに輸出されていた。それに50%も関税がかけられたら売れなくなる。今は自国の食糧問題で輸出量は減らしているが、この問題が解決した後にまた輸出は回復させたい。
そもそも大国ドラフォードに小麦が不足しているということはなく、備蓄用にと言うか隣国の好で買ってもらっているだけだった。
そう、ドラフォードの王妃を怒らせて良いことでは決して無かったのだ。
「王妃様。それは何卒お許し頂きますよう、平に平にお願いいたします」
オコトは恥も外聞もなく平伏していた。ここは絶對に思いとどまってもらわないとサウスの産業が崩壊する。
「まあ、サウスの皇太子殿下の側近の方が平伏されるなど宜しいことではないのでは」
キャロラインが言うが、セナもミューラーも白い目でキャロラインを見ている。
その目は子供の喧嘩にそこまで酷いことをするなと言っているようだった。
二人の反応がもう一つだったので、キャロラインは自分の行いを引っ込めることにした。
「まあ、考えておきますわ」
キャロラインはそう答えるとその場を後にした。
「ははあ、ありがたき幸せ」
オコトは平伏しながら絶對にチャドウィックをしばこうと心に誓った。








