クリスの怒り炸裂 パレルモの影は許しません
クリスの目には背中から凄まじい血しぶきを上げてスローモーションのように倒れるオーウェンが映っていた。
「オウ!」
クリスは倒れようとするオーウェンを抱き止めた。
クリスは信じられなかった。
オーウェンが刺されて倒れている。
こんなに大量の血しぶきを上げているんだ。
もう助からないのではないか。
「いやあああ、オウ、オウ、オウ」
クリスは血まみれになりながら、オーウェンを抱きしめて呼びかけた。
「申し訳ありません。クリス様。そこの皇太子に妹を殺されると脅されてやりました」
その後ろで平伏してシュテファンが泣き叫んでいた。
その声に初めてクリスはパレルモのクズどもを謁見していたことを思い出した。
ちらりと見るとパレルモのクズどもは皆必至にこちらを攻撃しようとしてビアンカのミラー障壁に遮られているのが見えた。
「許せない」
一瞬で無詠唱でクリスの爆裂魔術が炸裂した。
「やばい」
障壁を張っていたビアンカは慌てて止めて横に飛んで避ける。
射線上にいた兵士たちも横に飛びこむ。
扉の向こうにいた衛兵たちも慌てて飛びすさった。
その後ろを爆裂魔術が襲う。
パレルモの魔導師たちは1人がビアンカの張ったミラーを知らずにクリスに爆裂魔術を放ち反射で自らが吹き飛んでいた。
それを見て、次々に魔導攻撃しようとしていた魔導師たちとヘイモ、マイヤネンは次の一瞬で地上から消滅した。廊下に控えていたお付き達も同時に。
ヘイモらは虎のしっぽを思いっきり踏んでしまったのだ。ヘイモらはそれすらほとんど知る間も考える間も無かった。
凄まじい爆風が宮殿内を走る。
爆発が収まった後、巨大な穴が入り口まで続いていた。
続いてクリスはオーウェンを地面に置いて立ち上がった。
裏を1000年に渡って支配しているかなんかどうでも良かった。
自分の大切なオーウェンを襲った。それがクリスには許せなかった。そして、娘を人質にて究極の選択を迫られたバルトルトの悩み、そして、逆らったら一族を皆殺しにされる恐怖故に悪魔に手を貸したシュテファンの想い。更に、いつ誰から殺されるか判らぬ恐怖に苦しみながら、最後に殺された人々の想い。全てがクリスに流れ込む。
クリスは決心した。シャラザールが手を下さなかったこれらの暗部を今自分の手で始末する事に。
両手を組んで目をつぶり祈る。
「我、ボフミエ魔導国筆頭魔導師にしてシャラザール教教皇クリスティーナ・ミハイル。世界に悪事を働きしパレルモのゴキブリども。1000年にわたる貴様らの悪行の数々、もう許しません。戦神シャラザールに成り代わって処断します」
そして、目を開けると両手を空に向けた。
その手に光が集まり出す。巨大な光が周りを照らし、どんどん大きくなる。凄まじい光を放ちながら、それは渦巻いて収束していく。
今までザールの影に殺された人々の恨みつらみ、暗殺者にされた人々の葛藤や心の悪意が全てクリスに集まってくる。
小さな太陽が地上に出現した。
「パレルモの悪よ、失せよ」
クリスが叫ぶと同時に光の塊が宮廷の天井を突き破って飛んで行った。
それは中空でいくつもに分解して空を突き進んだ。
一方サクサ公爵達はボフミエの小娘談義に盛上っていた。
「あの高慢な小娘が助けてくれと泣いて頼んで来るところが頭に浮かぶわ」
「そうですな。周りの大切な人間を2、3人、小娘の前で殺してやるのも効果的かもしれません」
いやらしい笑いをする公爵にこれまたニタリと不気味な笑いをしてシッランバーが言った。
この二人は絶対に手を出してはいけないものに手を出していることをまだ理解していなかった。
ゾワっ。
次の瞬間いやらしく笑い合う二人を怖気が襲った。そして、体が急激に寒気が襲う。
「な、何だ」
公爵は恐怖のあまり思わず声を出した。
その二人の頭に冷え切った声が響いた。
「我、ボフミエ魔導国筆頭魔導師にしてシャラザール教教皇クリスティーナ・ミハイル。世界に悪事を働きしパレルモのゴキブリども。1000年にわたる貴様らの悪行の数々、もう許しません。戦神シャラザールに成り代わって処断します」
二人はその声に驚いた。
「シッランパー。やばいぞ」
「お任せ下さい」
次の瞬間シッランバーはサクサ公爵と転移する。
二人はサクサ公爵邸から5キロ離れた丘の上に転移した。
「だ、大丈夫か」
さすがの傲慢なサクサ公爵も慌てていた。
「大丈夫でしょう。本来何千キロも離れた雷撃攻撃などあり得ないのです」
シッランバーは自分に言い聞かせるように言った。
「念には念をいれて転移しただけですから」
絶對に大丈夫だと言いながら、あの冷え冷えとした声に恐怖を感じているのを隠しながら。
「皇太子達は暗殺に失敗したみたいですな。本当にパレルモ王族は役に立ちませんな」
「まあ、表の顔だからな。仕方があるまい。それよりもあの生意気な小娘。どうしてくれようか」
「今のうちだけですよ。大きな口が開けられているのは。何度も襲われたら泣きついてまいります。今度こそは徹底的にいたぶってやらねば」
強がってみせた。
そうだ。どんなに強い王でも、パレルモの影に何回も狙われたら、泣きついてきたのだ。
シャラザールですら、パレルモを避けたのだ。ボフミエのぽっと出の小娘など、何のことがあろう。今は強がっているだけだ。
シッランバーはそう思おうとした。
彼は知らなかった。シャラザールが面倒くさいからやらないとお目溢しをしていただけなのを。シャラザールは目立つことは大好きだったが、どこにいるか判らない影を見つけ出して処分するのが面倒だと思っただけだった。パレルモの方も判っていて、決してシャラザールには逆らわなかったのだということを。
そのシャラザール並みの力を持つクリスに逆らうということはどうなるか。彼らは判っていなかった。
攻撃がなくてほっとしていた二人の目の前で天が裂けた。
そして、光の塊が公爵邸を直撃した。
一瞬にして公爵邸が黒焦げになって崩れ落ちる。
「邸が邸が」
サクサ公爵は腰を抜かして倒れ込んだ。
シッランバーもその威力に驚き恐れた。
自分らはとんでもない者に逆らったことが初めて判った。
公爵邸は1000年の間いかなるものの攻撃にも屈したことはなかったのだ。
防御用の障壁も完璧に張られていたはずだった。
その障壁がなにもないように一瞬で弾き飛ばされていたのだ。
そして、城のような巨大な公爵邸が一瞬で黒焦げになって崩れ落ちたのだ。
何千キロも離れたところからの長距離魔導攻撃など普通は絶対に出来ないのだ。
それをやってしまう化け物に彼らは逆らってしまったのだ。
それがこれだけで済むとは到底シッランバーには思えなかった。
「公爵様。逃げましょう」
シッランバーは叫んだ。
絶対にこのままではやられる。
その時、光の塊が公爵邸のあったところからこちらに向かって飛んでくるのが二人の目に見えた。
「ヒェぇぇぇ」
シッランバーは転移しようとしたが、その前に光の塊が二人に襲いかかっていた。
二人は一瞬で消滅した。
世界の恐怖と恐れられていたパレルモの影の親玉は、聖女クリスによってここに処断された。
クリスの然り炸裂しました。
コロナでうつうつと過ごしていらっしゃる皆様に捧げる1話いかがだったでしょうか。
コロナもクリスの浄化魔術で浄化してほしいと思うのは私だけでしょうか・・・・・・
次話は明日の朝更新予定です。
これからも応援宜しくお願いします。
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