傲慢なパレルモ皇太子はボフミエの怒りの洗礼を受けました(ワインを頭から被りました)
この話読んで頂いてありがとうございます。
「疲れたぞ」
ザールへの馬車の中でパレルモ皇太子ヘイモは宰相マイヤネンに文句を愚痴た。
ここまで3日間馬車の中で揺れっぱなしだ。
「イエーナに行くならまだしも、何故後進国のナッツァなんかに行かねばならないのだ」
ヘイモは不満だった。1000年超の歴史のあるパレルモ王国からしたらボフミエ魔導国などポットでの後進国。わざわざ行く意味が判らなかった。
「殿下。言動にはお気をつけ下さいませ。何しろボフミエ魔導国にはあの赤い死神がおりますからな」
マイヤネンは気が気ではなかった。赤い死神が怒れば一瞬で消される可能性があった。
「ふんっ。判っておるわ。しかし、このパレルモの皇太子が何故野蛮国家のノルディンの小僧に頭を下げねばならないのか。こんなことなら、王都に居て女と戯れている方が余程ましじゃな」
「殿下!」
「まあ、そう怒るな。マイヤネン。きちんとやる時はやる。しかし、ノルディンにもパラウェイは輸出しているのだろう。影共もたくさんおろう。赤い死神くらい始末すれば良いのに」
「殿下。影はサクサ公爵の手のものでございます。我らは関係のないこと」
「そう言うな。マイヤネン。サクサが影でうごめいてくれるおかけで我らは大きな顔が出来るのじゃ。我らのために動いてくれているようなものじゃ」
あくびをしながらヘイモは言った。
「まあ、ボフミエの小娘はきれいだそうではないか。出来れば予の妾に出来ぬか」
「殿下。ボフミエの小娘は敵の親玉ですぞ」
「良いではないか。影共に側近や侍女全て殺させて、美しい顔が恐怖に歪んだその小娘を抱くのも一興だ」
ヘイモは酷薄そうな顔で気味の悪い笑いをして言った。
オーウェンらが聞けば一瞬で抹殺されそうなことを平然と言い放っていた。
その馬車がやっと復興の始まったザールの街並みに入り、郊外のスカイバード発射場に着いた。
開けられたた馬車の前にはジャスティン騎士団長が待っていた。
「これはようこそ参られた。騎士団長のジャスティンだ」
皇太子を平然とジャスティンは出迎えた。
頭を下げられると思っていたヘイモは驚いた。ボフミエの騎士団長風情が対等の礼で済まそうなどとどういう思い上がりだ。
「ゴホンゴホン」
ヘイモは咳払いでマイヤネンに合図する。
「ジャスティン殿」
ジャスティンの態度に流石に驚いていたマイヤネンも慌てて言う。
「どうされたのだ。筆頭魔導師様に対する謝罪の使者殿は挨拶ですら出来ないのか」
呆れてジャスティンが言った。
「な、何だと」
あまりに馬鹿にされように思わずヘイモは罵声を発しそうになった。
「そんな事で筆頭魔導師様のお許しが得られるのか」
「ジャスティン殿。我々は謝罪使ではない」
「何をふざけたことを言っている」
馬鹿にしたようにジャスティンは言った。そして、横の男を紹介する。男は今にも剣を抜きそうに殺気立っていた。
「ドラフォード東方第2師団第二大隊長のエーゴン・アルフェスト殿だ。貴殿らに殺された外務卿の実弟であられる」
今にも切りかかりそうなエーゴンを見て流石に二人も黙った。
「いや、ジャスティン殿。我々がアルフェスト卿を殺したわけでは・・・・」
「ふざけるな」
エーゴンは剣を抜き放った。
「ヒィィィィィィィィィ」
二人は思わず後ずさる。ヘイモなど思わず腰砕けで地面に手をついていた。
「兄上が、パレルモのゴキブリ共に殺されたのは明白。陛下の後1日待ての言葉がなければ即座に貴様らをここで抹殺して兄上への手向けにするところであったわ」
剣を二人の目の前にかざしてエーゴンが言った。
その後ろの兵士たちも剣を抜いていた。
ヘイモらの後ろにいた護衛達も全く動けなかった。
「ふんっ、貴様らがいくら言い訳した所で我らが許すわけはない。明日にはパレルモのゴキブリ共も全て制圧されているであろう」
言うやエーゴンは剣をしまった。後ろの兵士たちも倣う。
「さっ、こちらでござる」
ジャスティンは腰を抜かした2人をスカイバードの方へ誘う。
その一堂の横に一列、囚人たちが吊るされていた。
「この者達は」
「ザールに潜伏していたあなた方のゴキブリ共ですよ」
マイヤネンの質問にジャスティンが答えた。
全員目が死んでいた。
「死の旅に立たれるあなた方をお見送りしたいだろうと思って、ここにわざわざ並べたまででだ」
平然とジャスティンは言い放った。
単に挨拶に行ってザールの影に怯えるボフミエ王宮の連中を見学に行こうとしていたヘイモも、これはただでは済みそうにないのではと心配しだした。
スカイバードの中に入って二人はホッとした。
パレルモ関係者のみの特別機だ。
「おのれ、あの騎士め。後で見ていろよ」
ヘイモは怒りを吐き出していた。
「あのう、ジャルカ様、本当に衝撃緩和装置切るんですか」
その頃管制と連絡していたパイロットが心配して聞いていた。
「当然じゃ。パレルモのクズどもには思い知らせてやらねばならん」
ジャルカは頷いた。
「それもいつもの2倍のGをかけて飛び立て」
「あのう、私も乗っているんですけど」
「貴様はさんざん訓練して慣れているたろうが」
パイロットの悲鳴をジャルカは無視する。確かに2倍3倍のGで失心するまで何度も死の訓練をさせられた。でも、それをまた体験するのは嫌だ。
「後、今丁度、ザールとボフミエの間にハリケーンがおろう。その中に突入しろ」
「えっ、いつもは避けろって言っているじゃないですか」
パイロットは慌てた。いくら頑丈なスカイバードと言えども風速何十メートルの風が吹きすさぶ中に突入すればどうなるか判らなかった。
「儂が見ているから大丈夫じゃ。いざとなれば外から操縦してやる」
「えっ、しかし・・・・」
パイロットは遺書をしたためたくなった。
「では、頑張るのじゃぞ。貴様の活躍はしっかりと皆に閣議で報告しておくからの」
「えっ、ジャルカ様」
パイロットは叫ぶが画面は切れていた。
「本当にやるのかよ」
パイロットは心の準備を始めた。
スカイバードの機内では、女性たちが特別にワインとつまみを配っていた。
「ほう、至れりつくせりじゃの」
ヘイモは美女の手を握って助兵な顔をしていた。
「その方、どうじゃ今日の夜にでも」
「あなたが無事に帰ってこれたらね」
女はウィンクして出て行った。
「ふんっ、少し優しくしてやるとつけあがりよって」
文句を言いつつ、ワインを一口、口に含む。
「当機は間もなく、発射します。なお、当機は衝撃吸収装置が故障しておりますので、くれぐれもシートベルトの着用宜しくお願いします」
パイロットの言葉をきちんと理解出来た者は誰ひとりいなかった。
次の瞬間凄まじい加速がヘイモらを襲った。
ヘイモは勢いのあまりグラスを顔にぶつけ、ワインを一瞬で頭からかぶってシートに叩き付けられていた。
パレルモ皇太子は無事にボフミエに着けるのか・・・・
明日朝更新です。








