大国皇太子の部下はパレルモの影であることを初めて知って立ち尽くしました。
男は逃げていた。
部屋でナイフを振りかざした男にいきなり襲われたのだ。
なんとかかいくぐって廊下に飛び出した。
しかし、出た途端に出会い頭に侍女に切りつけられたのだ。
まさか女の侍女が切りつけてくるなんて思ってもいなかった。
慌てて避けるとその女を護衛騎士が止める。
しかし、また別の兵士がその護衛騎士を長剣で貫いていた。
「お逃げ下さい」
護衛騎士は剣でその兵士に剣を刺し込んでいた。
走って息が切れたがそんな事は言っていられなかった。
そして、その先には信頼する副官がいた。
「良かった。モワイ。刺客が何人も入っているぞ」
「それは困りましたな」
男は次の瞬間に驚愕した。
そう言いながらモワイが剣を抜いたのだ。
「も、モワイ、どういう事だ」
男は驚いて聞いた。
「ふんっ、貴方様がパレルモに逆らわれるからですよ。パレルモはありとあらゆる所に影が潜んでいるのです。一度パレルモに目をつけられたものは生き残るなど不可能なのですよ」
そう言うとモワイは剣を突き出していた。
「止めろーーー」
男は絶叫して目が冷めた。
男、シュテファン・キッツィンゲンは粗い息をしていた。
時計を見るとまだ午前3時だった。
このところずうーっとこんな夢を見ていた。
パレルモに逆らって殺される男の夢だった。
何故こんな夢を見続けるのかシュテファンには判らなかった。
前世なんだろうか。
ここ1年ほど内務卿のオーウェンの下に居て忙しくて夢を見る暇もなかった。母国ボフミエのために、必至に働いてきたのだ。
外から来てくれたオーウェンらは本当にボフミエのためにやってくれていた。
元第三王子のヘルマンが今は新大陸のフロンティアに行っているし、スティーブはコレキヨについてザールにロルフは学園と士官学校の入試のために引っ張られており、シュテファンは内務次官の仕事をさせられていた。
「疲れ過ぎなのかな」
シュテファンはたしかに人がいない中でハードスケジュールだった。
そして、ふと廊下の扉の下に黒い紙が差し込まれているのを発見した。
「何だ一体」
シュテファンはその紙を拾い上げた。
黒い紙は折りたたまれていた。
そしてそれを広げると黒い卍が現れた。
悪魔の卍が。
それを見てシュテファンは頭の中がスパークした。そう、全てを思い出したのだ。
血に塗られたキッツィンゲン子爵家の歴史を。忘れていた全ての暗示が解けたのだ。
シュテファンは唖然とした。
キッツィンゲン子爵家の暗黒の歴史に、ただただ呆然とした。
ボフミエ魔導国の歴史の中でキッツィンゲン子爵家の役割を。
そして、それはパレルモの影としての役割を担っていたことも。
多くの筆頭魔導師の暗殺に関わり、ボフミエ魔導国がボフミエ魔導帝国に切り替わるのに主導的な役割をもしていた事も。
そして、開明的だった前皇太子を暗殺したのはシュテファンの祖父だった。
血に塗られたボフミエ魔導国の多くの謀殺に関わっている家がシュテファンの家だった。
また、影を抜けようとした多くの者達を一族皆殺ししていったのも、キッツィンゲン子爵家だった。
夢でも見たように、逆らって逃れればあるのは死だった。一族皆殺しだった。
健気な妹も、小うるさい母も殺されるだろう。
そして、この時にパレルモから皇太子一行が間もなく来ることをシュテファンは知っていた。シュテファンは黒い紙をただただ呆然と見つめることしか出来なかった
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
どうするシュテファン。
次話は明日の朝更新予定です。








