テレーゼの皇太子は大国の外務卿の前で爆弾発言をしました
クリスは病室でアデリナの寝顔を見ながらやっと落ち着いていた。。
それを後ろに控えながらメイとナタリーはホッとしていた。
あれからが大変だった。慌てて王城から駆けつけたメイらは半狂乱になっているクリスをなんとかなだめて、アデリナを抱えているクリスを王宮の病室に案内した。
クリスは、医者にアデリナは単に薬をかがされて気絶しているだけで体には何の問題もないと保証されて、やっと落ち着いたのだ。
二人はジャンヌらに対して切れていた。アデリナを囮に使えば、こうなることは目に見えていた。クリスが下手に狂乱すると国都ナッツァの死活問題なのだ。そんな危険なことをやると聞いてメイらは反対したのだ。
しかし、一介の騎士達が反対しても皇太子連中には叶うわけはなかった。
それでなくても今はクリスの筆頭騎士のジャスティンはザールに、保守派で慎重派のアメリアはフロンティアにいて、役には立たなかった。唯一の頼みの綱のオーウェンも自分が言い訳する場に邪魔なジャンヌとアレクがいなくなるという一点で賛成したのだ。クリスにもみじマークをつけられて落ち込んでいたが、二人にしてみれば自業自得だった。
クリスの凄まじい雷撃攻撃だったが、結局、被害が出たのは反乱分子のみということで改めてクリスの魔力量の多さと正確さに驚嘆した二人だった。しかし、クリスが落ち着いた後に自分のやってしまったことを知って落ち込むのは必然だった。落ち込む主を見るのは二人も嫌でその点でもジャンヌらに怒りを感じていた。
「いやあ、全て丸く収まって良かった」
と笑って言ったジャンヌに二人は殺意さえ覚えた。
ジャンヌとしては囮作戦はクリスが出て来たことが完全に誤算だった。クリスが怒りのあまり力を暴走させると国都も危うかったが、幸いなことに雷撃は叛徒共にしか命中しておらず、魔導師団員はただただ、その後始末をするだけですんで、これほど楽な捕物は無かった。
もっとも戦えなくてジャントしては物足りなかったが・・・・・・
そのジャンヌの様子を見て、絶対に今回の件をエリザベス王妃に話して、ジャンヌに注意してもらいしっかりとお灸を据えてもらおうと決意した二人だった。
ジャンヌの被害などクリスの落ち込みに比べたら大したことではあるまいと切り捨てている二人だった。
一方クリスのやらかした無差別雷撃攻撃の後始末に全兵士は駆り出されていた。
雷撃攻撃を浴びたと抗議してきた人間に当たると、他国の工作員だったり麻薬の密売人だったり、次々と都合の悪いことが明るみに出て、その処理で更に兵士たちは忙殺された。
ジャンヌらも人手が足りずに現場に駆り出されたのだが、当然自業自得だった。
その夜はアルフェスト卿を歓迎してのパーティーが開かれた。
「いやあ、ようこそ来られた。アルフェスト卿。歓迎するよ」
体中傷だらけにして疲れ切って帰ってきたアレクが挨拶する。
「これはこれは外務卿におかれましてもお久しぶりでございますな。でも、その体の傷はいかがなされたのですか」
「いやあ、ちょっと大掛かりな捕物がありまして、出迎えに行けずに申し訳ありませんでしたな」
アレクは笑って言った。怒り狂ったクリスの雷撃を避けるために伏せた傷だとは流石に言えなかった。
「外務卿。久しぶりだな」
その横で、これもまた傷だらけのジャンヌも笑って手を差し出した。
そして、そう言えばこのアーサーの口から母のエリザベスに話しが伝わる可能性に思い至っていた。
絶対にここはあったことを誤魔化して母に伝わらないようにしようと決意するジャンヌだった。
「少しは国都を楽しまれたか」
「いや、まだ今日参った所でして」
「そうですか。もし宜しければ明日でも国都を案内しましょうか」
その間に釘を差そうとジャンヌが珍しく社交辞令を話しだした。暴風王女にしてはえらく愛想が良い。
それを胡散臭そうにライナーは見ていた。
「ありがとうございます」
ジャンヌらしからぬ言葉に驚いたが、アーサーも適当に頷く。そして、後ろにいた息子を振り向いた。
「外務卿。息子のライナーです。ぜひとも外務卿の下で勉強させて頂ければと連れてまいりました」
「宜しくお願いいたします。ライナーでございます」
うやうやしくライナーは挨拶した。
「外務卿のアレクサンドル・ボロゾドフだ。私の下でなど、勉強なされることはないと思いますが、それでも宜しければ」
アレクが謙遜していった。
「いえいえ、ぜひとも閣下のもとで色々勉強させて下さい」
ライナーは礼儀正しく挨拶する。
「ところで筆頭魔導師様はどうされたのですか」
ライナーがいぶかしそうに聞いた。それに二人は固まる。勝手に侍女を囮に使ったことを知ったクリスは激怒しているのだ。ここで爆発されたら絶対にマーマレードの母に伝わる。それだけはジャンヌは避けたかったので、今回の件で疲れられたろうから、相手は皇太子連中が責任をもってやるからと護衛騎士らに誤魔化させて部屋で休ませたのだ。
「いやあ、ちょっと体調を崩されて」
ジャンヌがアレクをつついて、アレクが誤魔化す。
そこへ、教育卿で今新大陸のフロンティアの総督でもあるアメリア・テレーゼ王国皇太子の顔が画面にアップで移った。
「これはアメリア皇太子殿下」
慌ててアーサーが跪いた。
「何しているのよ。アーサー、今は私もボフミエ魔導国の教育卿よ。ひざまずく必要はないわ」
「これは失礼致しました。教育卿。お久しぶりですな」
「本当に。で、ジャンヌ。あなた達またクリスに酷いことしたんですって」
アメリアは爆弾発言をした。








