大国の外務卿はボフミエ魔導国を訪問しました
そして、5日間が経った。
その間クリスのもとには怪しい報告は何も無かった。その影でジャンヌらは精力的に動いていた。敵のアジトを中心に徹底的な監視網が築かれていた。
そして、王宮はドラフォードからの賓客を迎えるのに忙しくしていた。
国都ナッツァの湖の桟橋に一機のスカイバードが到着した。
扉が開いてアーサー・アルフェスト、ドラフォード王国外務大臣が降り立つ。
「久しぶりだな外務卿」
それを自国の皇太子のオーウェンが迎え入れた。
「これはこれは殿下ご自身がお出迎えいただけるとは。外務卿はどうされたのですか」
アーサーは驚いた。外務卿ではなくて内務卿が迎えに来るとは驚いた。
「アレクか。奴は今ちょっと手が離せないらしい。我が国の外務大臣を迎えるのに、私が出迎えても問題なかろう。なペトロ」
その後ろのペトロを紹介する。
「アルフェスト外務卿、ようこそこのボフミエの地にお越しいただけました。私外務次官をしておりますペトロ・グリンゲンです」
「わざわざのお出迎えありがとうございます。ドラフォードの外務卿のアーサー・アルフェストです。そして、これは私の息子のライナーで、出来ましたらグリンゲン様の下で色々修行させて頂けたらありがたいと存じまして」
「ライナー・アルフェストです」
アーサーの後でライナーも握手する。
「ライナー、久しぶりだな」
「はい。殿下もお元気そうで」
オーウェンとライナーは再会を喜びあった。
「ライナーはペトロと年はおんなじはずだ。お互いに仲良くしてくれ。ペトロ、こいつはいずれこのアーサーの後を継ぐ。アレクのノルディンとドラフォードの二カ国に知り合いがいれば今後のボフミエのプラスになる。よろしく頼むぞ」
「はい。お任せ下さい」
ペトロは頭を下げた。
「ライナーもアレクの下でノルデインのやり方をしっかり学べ。今後のプラスに必ず成るはずだ」
「はい。十分に勉強させて頂きます」
ちょっといやらしい笑みを浮かべる二人にペトロは若干引く思いだった。
その頃当の外務卿はジャンヌの執務室に陣取っていた。
「ターゲット、アジトを出発しました」
「一の橋を通過」
ジャンヌのもとには次々に報告が上がってくる。
「で、アレク、なんで貴様がここにいる。ドラフォードの外務卿を迎えに行ったのではないのか」
不機嫌そうにジャンヌが言った。
「ふんっ、そのようなものはオーウェンに丸投げした。あいつの国のことだし、それで良かろう」
「ドラフォードの知り合いを増やしても損はないだろう」
「こんなのすぐに終わるだろう。今日の晩さんには出るさ。それよりもこれだけ組織だった捕物は久しぶりだ。こちらからも兵士を出しているのだから私がここにいても問題なかろう。何しろ対象はクリス嬢の侍女なのだし、何かあっても困る」
アレクが言い訳した。
「我が師団だけでは心配だとでも」
「そのような滅相もない。良いだろう。最近暇で暇で」
「今日は外務の仕事が入っているだろうが」
「まあまあ、せっかくの捕物だし、良いじゃないか」
「本当におふたりともこんなことが好きですな。しかし、クリス様が自分の侍女が囮に使われたと知られたらどうなることやら。知りませんぞ」
横でジャルカが薄ら笑いをして言った。
「いや、まあ」
二人というか室内のみんなは微妙な顔をする。
まあ、クリスは激怒するかもしれないが、全てはボフミエ人民のためだと強引に言い切ろうとジャンヌは思っていた。
それが通用するかどうかはまた別物だったが・・・・。
王宮に案内されたアーサーだったが、案内された客室はドラフォードに比べれば質素だった。部屋も、リビングと寝室の2室しか無かった。
「父上。我らは国王陛下の代理人として国賓としてボフミエに参ったのですぞ。この扱いはあんまりでは」
息子のライナーが食って掛かった。アルフェスト家もドラフォードでは公爵家だ。この部屋のシンプルさはあんまりだと思われた。
その時ノックがしたので、ライナーは黙った。
「外務卿。ようこそ、このボフミエの地にお越しいただきました。今回、外務卿のお世話を仰せつかったイザベラ・ナヴァールにございます」
ナタリーが侍女のお仕着せを来て挨拶する。
「同じく護衛騎士のナタリー・ウィンザーにございます」
「これはこれはわざわざ痛み入る。この度お世話になる外務卿のアーサー・アルフェストです。お二方ともご立派になられましたな。見違えるように」
当然アーサーは侯爵家のイザベラとウィンザー将軍の娘のナタリーは知っていた。
昔はもう少しおっとりした感じだったのが、ここ1年で急激に大人びてきていてしっかりしてきたという印象を持った。
「しかし、イザベラ嬢はクリス様の事務官では」
「すいません。ボフミエはまだ出来上ツタばかりの国でして侍女もほとんどおリません。
クリス様付きの二人の侍女にしても一人は学生でして、もうひとりも貴族の礼儀作法はまだ完全に習得しておりませんので、こういう時は私の出番になりますの。私も不慣れではございますが、何でもお申し付け下さい」
「そうですか。この広大な城にも侍女はほとんどいないのですか」
イザベラの話にアーサーは驚いた。
「まあ、クリス様自体がほとんどの事はご自身でされますし、侍女と申しても秘書官的なことをしております。この部屋にしても質素に見えますが、大きさ調度品と全て筆頭魔導師様と同じでございます」
「左様でございますか」
アーサーはその言葉に驚いた。筆頭魔導師と同じ部屋だと言われれば苦情を言わずに良かったと思った。しかし、ボフミエ魔導国も今や話題の国。全ての王族がそのように納得するとは思えなかったので、
「でも、王族がいらっしゃる時は困りませんか」
「たしかにそうなのですが、自国の皇太子殿下以上の部屋にまさか泊まるわけにも参りませんでしょう。当然、各国の皇太子殿下はクリス様と同じ部屋の大きさでして」
「流石にそうですね」
自国の皇太子以上の部屋に泊まったりしたらアーサー自体が気を使うのだ。
「昔皇帝の使っていた客間が空いていますので、そちらにご案内しても良かったのですが・・・・・」
「いや、それは、後で殿下に何を言われるかわかりませんからな」
そう言うとアーサーは笑った。
次回 今晩 誘拐作戦開始です。
乞うご期待
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