閑話 近寄れないクリスとオウ (クリス視線)
オウの事は昔はいいお兄さんだと思っていた。
ジャンヌ殿下は気前のいいお姉さん。
でも、3っつの年の違いは大きくて剣なんかでは到底太刀打ちできない。
魔力はクリスの方が大きかったけど制御ができなくて、見つかると怒られるから使えないし……城が壊れるかもしれないし・・・・大きな廃屋なんて小指でちょっとやっただけで消し飛んでいた。
でもお姉さまにはカエルは掴まされるし、ミミズを釣り針に挿して釣りもさせられるしで、全然侯爵令嬢らしくない生活をさせられていた。
もっともお姉さまもお姫様らしい生活をしていたわわけではなくて王妃様にいつも怒られていた。
エドはいつも必死にお姉さまから逃げていたし、お母様はまだ小さいウィルの面倒見るのに忙しくて大変だった。
そんな時に年に1回夏にオウが来てくれた。
オウは気さくで本当に小さな紳士だった。
ジャンヌお姉さまが騎士らと稽古している時も、私の面倒をよく見てくれていた。
私をお嬢様扱いしてくれるオウが好きでよくくっついて回っていた。
昔は自分も積極的で厚かましかった。
そんな時だ。オウが助けてくれた時に、キスして将来お嫁さんになってあげる
なんて言ったのは。
本当に思い返すだけで恥ずかしい。
南の超大国ドラフォードの皇太子殿下にそんな事を言えたのだから。
こちらは小さくはないけれど中堅国家の高々侯爵令嬢に過ぎないのに。
今だったら絶対に恥ずかしくて言えない私の黒歴史だ。
それを王妃様に見られていたのかもしれない。
その夏オウらが帰ったあとに王宮に呼ばれて、国王様と王妃様から直々に頼まれたのだ。
「エドの婚約者になってほしい」と
それは青天の霹靂だった。
エドのことは嫌いではないけれど、いつもいじめられていたし、そう言う関係になるとは思ってもいなかった。
でも、元々我が家ミハイル侯爵家は何代かに一度王家に嫁を出す家柄。
現国王様の母上が我が家から出ていた。
お父様はとても厳しい顔をしていたが、お母様は諦めの表情が伺えた。
その後エドと二人になった時に、今までの事を謝られて、好きだったと告白された。
ここまで言われたらもうどうしようもなかった。
私はオウへの想いを封印して、未来の王妃になるために己の心も律するようになった。
本当に王妃様の礼儀作法教育は厳しくて、何度も泣きそうになったけど、必死に耐えた。
でも、1年前に婚約破棄された。
エドとはしばらく仲良かったが、何故か4年前から距離を置かれるようになっていた。
今回も謝られたが、詳しくは何故そんな事をしたか教えてもらえなかった。
お姉さまがそのエドを叩きのめして、あんな奴は二度と王宮の敷居を跨がせないと豪語していたが。
王妃様と対峙した時のことはよく覚えていないのだけれど、お酒を飲まされてまたとんでもないことをしたらしい。魔王も私が退治したとのことだったが、怖くて何をしたか未だに聞けないでいる。
というか、目を覚ました時にオウに抱きつかれそうになって、今までのことが全てフラッシュバックで蘇って思わず恥ずかしさで、障壁ではじき飛ばしてしまった。
頭がパニックで、恥ずかしさで死にそうだった。
そして、それから3日間オウを避け続けている。良くないことだと思うし、話もしなければと思うのだけど、恥ずかしくて心が受け付けないのだ。
何故か他の人は近寄れるのに、無意識でオウだけ遠ざけているらしい。オウはどんなに頑張っても障壁で近寄ってこれなかった。
筆頭魔導師と内務卿でこれはいけないと思うのだけど・・・・
ミアからは残念なものをみるように見られるし、王宮の侍女たちからは生暖かい視線を感じるのだけれど、これだけはどうしようもなかった。
オウのことを考えると体が熱くなってどうしよも無くなるのだ。
頭に血が上って何もできなくなる。
まともに見ることすら出来ない。
でも、そこに悪魔のお姉さまがやってきた。
「クリス、あなた、よくも私に酷いことをしたわね」
お姉さまは最初から喧嘩腰だった。
「えっ、そんな事言われても、賛成されたのはお姉さまではないですか」
確かに酔って王妃様の礼儀作法講座に参加させると書いたのは私だけど、それにお姉さまも喜んで署名したのだから、言われる筋合いはないはず。
「それは、私は単純だから、クリスの浄化魔術に一番反応してしまったのだ………」
「お姉さま。そんなの言い訳に過ぎません。確かに、おエネ様は単純かもしれないけれど、サインしたのはお姉さま自身です」
「ええい、単純って言うな」
「言ったのお姉さまでは」
「自分で言うのは許せても、他人に言われるのはうのはなんか違うぞ」
お姉さまはあいも変わらずだ。
そんな事言われても・・・・・
「だからクリス。お前も罰を受けるべきだ」
「ええええ、それなんか違うと思うんですけど……」
そうは言いつつも、まあ、礼儀作法講座なら受けても別にそんなに問題はないって私は思ったのよ。お姉さまは強引だし。
「だから罰として今から2時間オーウェンの横に座っているように」
「えっ、そんな」
私は固まってしまった。
「だってクリス。オーウェンの隣に座れないと何かと不都合だろう。そもそもお前らは筆頭魔導師と内務卿なんだから」
お姉さまが、至極真っ当なことを言われるのを聞いて、私は唖然とした。
いつもは駄々をこねるお姉さまに常識論を言う私という構図なのに、全く逆になっている。
お姉さまが言うのはまともなことだ。私よりも。
でも、オウが横にいると思うと………
「そもそも、今のままだとスカイバードに乗って帰れないじゃないか」
確かに、お姉さまの言うとおりだ。
今の障壁の範囲はスカイバードの機内の幅を超えていた。
たしかに今のままでは一緒に帰れない。
これは早急に治す必要がある。ボフミエ魔導国のヘルマン様やコレキヨ様からはできるだけ早く帰ってきて欲しいと言われている。
「判ったな、クリス」
こう言われれば仕方が無かった。
「はいっ、努力します」
「クリス、別に無理しなくても」
心配そうにオウが言うのが聞こえるけど、ここは皆のためにも耐えなければいけないわ。
オウがゆっくりと近寄って来る。
私は障壁をなくすように必死に努力した。
心臓がドキドキする。
顔も真っ赤だ。
でも我慢しないと。
オウがやっと横に座った。
でも、体が少し触れたの。少しだけ。
それが駄目だった。
「ぎゃっ」
一瞬にて障壁が出来てオウは王宮の壁に向かって弾き飛ばされて激突していた。
私もパニックで気がとおくなっていた…………
皆さん、ここまで読んで頂いてありがとうございました。
取り敢えず、これにて完結です。
また少し立ってから続き書いていこうと思います。
評価まだの方、ブックマークまだの方は宜しくお願いします。
現在新作考えています。
少しお待ち下さい。
今後とも宜しくお願いします。








