戦神は檻ごと地獄から脱獄しました
一方その頃地獄ではシャラザールをどうしたものか、皆悩んでいた。
鬼たちでは殺せない。
恨みつらみ1千年の重みも何故かシャラザールの逆鱗に触れて一瞬に返り討ち。
それ以上となると、最後は閻魔がいるが、閻魔でも対処できないと地獄の威信が崩れてしまう。
閻魔としてはそれだけはなんとしても避けたかった。
これは完全に魔王に嵌められたのではないか。
地獄で対処しきれなくなるのを見越して、シャラザールを寄越したのではないか、という疑念も閻魔の中には生まれ始めた。
そして無限地獄では、この日も狭い檻に閉じ込められているシャラザールは暇だった。
周りには遠巻きに鬼どもが二重三重に取り巻いているが、一度近づいてきた鬼に息を吹きかけただけで、百メートルは遠ざけられていた。
クリスの中にいる時も暇だったのだが、最悪の王妃の礼儀作法講座にしても、昔の事が脳裏に蘇ってシャラザールには懐かしかった。
しかし、ここにはそのクリスもいず、本当に暇だった。
クリスの周りには魔王がいたようだが、おそらく今の力はクリスの方が上。まさか負けることは無いとは思うが、一緒にいたのがあのオーウェンではいまいちシャラザールの信頼がない。
しかし、脱獄して様子を見ようにも、この檻はシャラザールの意思ではどうしようもなかった。
しかし、
「んっ?」
シャラザールは少し気分がよくなった。
「何だこれは」
心が浮き立つ。
酒を飲んだ気分だ。シャラザールは気分が更に良くなった。
そして、それと同時に檻が少し動いた。
「な、何じゃ」
シャラザールも驚く。
「おい、檻が動いたようじゃが」
「まさか、あの檻はそんじょそこらの力では動かんぞ。いくらシャラザールの力が強いとはいえ、動かすのは無理だ」
「いや、しかし、見ろ、動いているぞ」
確かに檻は徐々にスピードを上げていく。
鬼たちは驚いた。
「やばい」
「檻を止めろ」
鬼たちがわらわらと檻に群がって止めようとしたが、檻はその鬼たちを弾き飛ばして進む。
「ようし、行け、行くのじゃ」
シャラザールが喜んで言う。
しかし、檻はただひたすら真っすぐに動いた。
「おい、待て、先には針山が」
バキン
「ぎゃっ」
もろ針千本が檻の中に突き刺さる。
さすがのシャラザールも悲鳴を上げた。
「おいっ、ちょっと待て」
しかし、シャラザールの悲鳴をものともせずに、檻は次は火の山の中に飛び込んでいく。
「ギャーーー」
さすがのシャラザールも1万度の温度には参った。
そして、次は氷の地獄、零下200度強の絶対零度の世界だ。
檻はただただ真っ直ぐに進む。そして、さらに加速する。
そして、その先には無限地獄の門が。
ドカーン・・・・・・・・・
凄まじい衝撃をシャラザールに与えながら、檻はシャラザールの意思とは関係なく、二度目の無限地獄の門破りを敢行した。
「え、閻魔様、大変です。シャラザールが檻ごと無限地獄の門を破ったと報告が」
「な、何じゃと。檻を壊して逃亡ではなくて檻ごと逃げているというのか」
「はい。何故そうしているかはわかりませんが、各地で鬼が止めようとしておりますが、全く相手にはなりません」
副官が報告する。
「閻魔様。焦熱地獄の門が突破されました。檻のスピードが早くて鬼どもでは対処が出来ません」
「すいません。叫喚地獄ですが、檻のスピードが早すぎて目視に失敗。気づいた時は破られておりました」
「な、何なのじゃ。シャラザールは浮遊術を使っておるのか」
「判りません。しかし、檻の速度は光速に近付いているかと」
「な、何じゃと。それじゃとすぐにここまで来るぞ」
閻魔は立上った。
エクスカリバーと地獄の剣という二本の宝剣を掴んで構える。
「おのれ。シャラザールめ。どんな小癪な手を使おうが今回は行かせん」
閻魔は剣を構えた。
とっておきの宝剣、それも二本もあるのだ。今回は阻止できるはずだ。
いや、絶対に阻止せねばなるまい。
閻魔は決意も新たに構える。
しかし、次の瞬間
ズコーン
という大音響の後、実際は音がしたのははるか後なのだが、等活地獄の門が突き破られた。
そして、その勢いのまま檻ごとシャラザールが閻魔に激突した。
閻魔は斬りつけるまもなく剣を構えたまま、弾き飛ばされる。
そして、檻は閻魔諸共、地獄の門に激突。
「ギャーーーー」
何人もの悲鳴を残してそのまま飛んで行った。
跡には閻魔の影も形も残っていなかった・・・・・・
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
この章もまもなく終わります。
ここまでいかがでしたか。
今回のこの2話。自信をもって書いたのですが……
評価まだの方は宜しくお願いします。








