王妃は息子に裏切られ、魔王に憑依されました
その頃、エドワードは王妃を訪ねていた。
「どうしたのですか。あなたから私を訪ねてくれるなんて」
王妃は驚いた。
青年期に入ってから今までエドワードは必死にエリザベスを避けていたのだ。
「何をおっしゃっていらっしゃるのですか。母上。私もいつまでも子供ではありませんよ」
エドワードの言葉に王妃は瞠目した。
思わず王妃の目から一滴の涙が流れ出していた。
「母上、どうされたのですか」
涙を見てエドは驚いた。
「あなたがそんな事を言ってくれるなんて思ってもいなくて」
王妃は涙を拭って言った。
「北の大地で苦労したのですか」
「ええ、私も色々と思うことがありました。今までいかに自分勝手で皆に迷惑をかけていたか、よく判りました」
殊勝にエドが言う。
「あなたがそのような反省してくれるなんて」
また、王妃が目を押さえた。
エドはその母の様子を見て、自分のこれからしようとすることに若干の躊躇が生じた。
しかし、ここまで来たのだ。今更やめるわけにいはいかない。ここで止めることは、最愛のクリスをオーウェンに取られることにつながるのだから。
「実は母上に折り入って頼みがあって参りました」
姿勢を正してエドは話しだした。
子供の頃からクリスが好きだったこと。母がオーウェンからクリスをかっさらって婚約させてくれたことに対してとても感謝していたこと。そして、クリスがいかにマーマレードにとって大切な存在なのか。
再び、出来ればクリスと婚約を結び直したいことを。
「しかし、エドワード。あなたの言いたいことは判りますが、今更結び直すのはとても難しいのよ」
王妃は出来れば素直になったエドの気持ちを汲んでやりたいが、それはとても難しいことだった。
「私があのようなことをしたからですよね」
「ええ、何であなたはあのような公の場でクリスに婚約破棄したの」
王妃は非難するようにエドに言った。
「それは私に非があります。でも、その時クリスは邪神に憑依されていたのです」
エドはシャラザールのことを邪神と言い切った。エドにとってはシャラザールは確かに邪神だった。
「はっ。邪神に?」
驚いて王妃は目を見張った。
「そうです。私は4年前のサマーパーティーでその邪神にボコボコにされたのです。でないとあんな可憐なクリスが私に暴力を振るうわけ無いでしょう」
「それは私もおかしいとは思ったけれど、あれはクリスが酔ったよった勢いで魔力を暴発させたのではなくて」
「婚約破棄の時の私の全治2ヶ月の怪我も全て邪神にやられたのです」
「そんな事信じられないわ」
王妃は否定する。
「じゃあクリスがあんな事できたとお思いなのですか」
逆にエドは聞いた。
「あれはジャンヌがやったのではなくて」
「姉上はいくらガサツとは言え、弟に対してあそこまでやりませんよ」
エドは言い切った。もっともジャンヌならやりかねないとは思っていたが………
「で、今回はその邪神をクリスから切り離すことに成功したのです。これで何の障害もなくクリスと一緒になれるんです」
エドは心底安心したように言った。
「でも、エド・・・・」
「私はこの4年間クリスから邪神を切り離すのに必死に努力してきたんです。婚約破棄もその一環でした。うまく行かずあんな事になってしまいましたが。でも、やっとそれがやっとかなったのです」
エドは全て自分に良いように言い換えた。
「せっかく邪神からクリスを切り離せたのに、母上はそれに反対されるのですか」
「でも、エド、あんな事やってしまって、たとえあなたが言うことが本当だとしても、今からやり直すのは難しいのよ」
「ほう、じゃあ母上は、また、キャロラインおば上に負けて良いとおっしゃられるのですか」
「姉上に負ける?」
王妃は厳しい目でエドを見た。
「そうです。ピーター王を二人して取り合っていましたよね」
「ど、どうしてそれを」
いつもは冷静なエリザベスが思わず慌てた。
ピーター王子に気があったのは元々エリザベスの方で、キャロラインは全く気にしていなかったのだ。でも、アプローチするエリザベスの方は全くピーターは相手にされなかったのだ。それでエリザベスは諦めた経緯があったのだ。いつも目立つ所はキャロラインが持っていって、真面目で地味なエリザベスはいつもそれを指を咥えて見ているだけだった。
「今回も可愛いクリスがおば上の息子に取られても良いと思うのですか」
エドの目がランランと光っていた。
「これはおば上に一泡吹かせるチャンスなんです」
「でも、」
エリザベスは抵抗しようとした。
しかし、体は何か繰られるように言うことを聞かなくなっていた。
「エド、あなた何かしたの?」
キャロラインは思わず立ち上がろうとした。
「御免なさい。母上。てもこれが国のためなんです」
言うや、エドは黒い石を王妃の胸に突き出していた。
一瞬で黒い禍々しい煙が王妃を覆った。
王妃はゆっくりと倒れた。その体を倒れる前に抱き止める。
母の体温を感じるのは久しぶりだった。前世の記憶を取り戻したとは言え、コンセの記憶もエドにはあった。母は厳しかったが、それでも母は母だった。
そんな母を利用することがエドにも若干堪えた。
と王妃はかっと目を開いた。
「うーん、なかなかの体じゃな」
王妃に憑依した魔王が言った。
「そうだろう。母上は魔力も多い」
「それよりも良かったのか。自分の母を魔王の依代に差し出して」
「目的のためには仕方あるまい」
ニタニタ笑う魔王にエドは言い切った。
「余はクリスのほうが良かったのだが」
「クリスに指一本でも触れてみろ。貴様を封印し直す」
きっとしてエドは言い切った。
「まあ、良かろう。余を足蹴にしたシャラザールは地獄に送ってやったし、クリスの小娘も嫌いな貴様の妻になるのだからな」
「クリスの心はいずれこちらに向かすさ」
「ふんっ。そう上手くいくかな」
王妃となった魔王はニヤリと笑った。
「誠心誠意かければなんとかなるさ」
「ふんっ、貴様に似合わぬ言葉じゃな」
魔王はつまらなそうに言った。
「まあ、良い。明日からが楽しみじゃな」
魔王は高笑いした。
またまた魔王の登場です。
今回魔王は前世神だったエドではなくて、魔力の多い王妃に憑依しました。
クリスはエドのものになってしまうのか。
シャラザールの運命やいかに。
まだまだ更新していきます。








