閑話 エドの憂鬱と黒い石
閑話と言いつつ次章の始まりの部分です。
北の大地はまだ寒い。
エドは毎朝布団から出るのが億劫だった。それも毎朝6時起床なんてやってらんない。
王宮にいる時は学園に間に合うギリギリに起きていた。
今は北方師団の一小隊長として日々鍛錬の日々だった。
クリスとの婚約破棄から左遷まで怒涛の日々だった。クリスに張リ飛ばされた傷が治るのに、2ヶ月かかったが、その前から北方に居たので、王弟反逆時も特には関係なかった。ノルディンの動きが少しきな臭くなって北方戦線は少し緊張したが、反逆が鎮圧されると静かになった。何故か王弟もほとんどお咎め無しで戦いが終わり、それ以降は平和な状態が続いている。
姉と違って兵役をしたことがなかったエドには訓練は大変だったが、半年経てば流石に慣れてきた。
「あああ、たまには王都に帰りたい」
朝の訓練が終わった後にジェームス・ギルティが言った。
「本当だよな。いつまでここにいるんだか」
エドの取り巻きの一人だったマーク・フリップも言う。
そう彼らもエドに付き合わされてこの北方につれてこられたのだ。
ノルディンの戦いの後3年間、ジャンヌがこの地に滞在して北の備えとなっていた。
もっともその間北の皇太子の赤い死神と楽しくやっていたようだが。
誰か王族がいる必要があるということとクリスの婚約破棄の責任を取らされてジャンヌと交代した形になっていた。しかし、この12月からジャンヌもいつの間にかボフミエの地に転出しており、王都には誰も国王の子供が居ないという異常な事態が続いていた。エドを王都に呼び戻すという案もあるみたいだが、1年間は北方で修行するということで閣議決定がされたらしい。
その婚約破棄したクリスは何故かボフミエ魔導国の筆頭魔道士として今は大国の皇太子達を部下に従えて君臨していた。クリスを好いている大国ドラフォードの皇太子オーウェンやジャンヌと仲良くやっているのは知っているが、あの赤い死神を傘下に堂々としているクリスというのも考えられなかったが。ジャンヌと違ってクリスは個人技の戦いは得意ではないはずだ。まあ、人たらしのクリスであるが、それでも何故傍若無人の赤い死神を配下に従えられているのかはよく判っていなかった。
「はっ」
エドも溜息をついた。
何で婚約破棄なんてしてしまったのだろう。
決して部下の前では言えないが、エドは後悔していた。たしかにクリスは口うるさかったが、決してエドをないがしろにしたこともないし、王妃に言われていたのか、他の男子生徒達と仲良く話していることもなかった。エドをきちんと立ててくれていた。
たまたま、エドが反抗期でクリスに反発している所に公爵令嬢で人当たりの良いというか貴族らしくないマティルダが寄ってきて、それと意気投合してしまったのだった。彼女はエドはもう十分に努力しているのだから、そんなに頑張らなくて良いと甘いささやきを告げてきた。
それに乗ってしまったのだ。
エドが悪かった。
今からしたら何でクリスを振ってしまったんだろうと思う。
クリスは容姿端麗で儚げで見た目は弱々しい。
しかし芯が強くて負けず嫌いだった。でも、人に対する気遣いも抜群で、しかもエドを立ててくれていた。
いつも言う事は正論で、面白くないと思っていたが、それは仕方がないことだった。
何しろ本来の王女王妃王子教育をジャンヌとエドは逃げていてクリス一人で耐えていたのだ。
「本来あなたが守ってあげないといけなかっんじゃない」
とジャンヌに言われて、お前が言うなと反発したが、確かにそのとおりだった。
母の王妃はシャラザール3国の一つテレーゼ王国の王女だった人で気位が高く、礼儀作法に異常にうるさかった。エドから見ればクリスは完璧で、1ミリ違うとか王妃の言う事はよく判らなかった。
そうだ、王妃に反発していたのなら、その時にクリスも一緒に守ってやらないといけなかったんだ。自分なら出来たはずだ。
それにも関わらず、クリスをほったらかしにして、マティルダらと遊んでいたのだ。後悔先に立たずと言うが本当に1年前に戻りたかった。
折角ドラフォードの陰険皇太子から母が横取りして皇太子の婚約者にしてくれたのに。
3っつ上の陰険皇太子とは年齢上から言っても、何一つ勝てなかったが、クリスの件だけは勝てて本当に喜んだことを覚えている。
なのに、3年前のノルディン戦の前後から何かがおかしくなったのだった。
何故おかしくなったか判らなかったが、猛烈にクリスに会いたくなくなったのだ。
「何故なんだろう」
エドは首を振って部屋に戻ろうと歩き出した。
そして、その途中で森の先で光るものを見つけた。
「んっ?」
エドは気になってそちらの方に歩き出した。
それは森のハズレに落ちいた。黒光りする石だった。
禍々しい不吉な色をしていた。
でも、何故かエドにはそれがとても良いものに思えた。
エドがそれを拾い上げた時だ。
エドの記憶が全て蘇った。
「そうか、そうだったのか」
エドは何故クリスに嫌悪感を抱くようになったか判った。そして、どうしたらそれが無くなるかも。
「はっはっはっは。何だそんなことだったのか」
エドは高笑いをするとどうやってクリスを取り返したら良いか急激に悪巧みをし始めた。
皆さん、いつも読んで頂いてありがとうございます。
次章、この土曜日から怒涛の執筆に入ります。
今回はオーウェン対エドワード
クリスを巡って取り合いです。
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