戦神の振り上げた怒りの気の済むまで戦神の死の特訓は続けられました
「アレクサンドル!何なのだ。あれは」
「アードルフ・ナッティネン教皇でしたが」
シャラザールの氷のような声にアレクは何とか答えた。アレクサンドル呼びがシャラザールの怒りを如実に現ししていた。
「そんな事はわかっておるわ。貴様が言うから呼んだものの余の脚が穢らわしい者に触られだけではないか」
「いや、それは、今回の首謀者をシャラザール様自ら足蹴にされて退治されたということで、我ら一同感服した次第です」
アレクの言葉にノルディンの部下共が目を見開いた。皇帝相手にもびくともしないのに、さすがの傍若無人の赤い死神でもシャラザール相手にはおべっかを使うんだと。
「何を申しておる。首謀者ならば魔人の薬でも飲んで待機しているのが基本であろうが。そうであれば久々にライトニングブラスターで一撃で葬ってやったのに、軽く蹴っただけで終わってしまったではないか。この憤りをどうすれば晴らせるのか」
ジタンダ踏んで悔しがりそうな勢いでシャラザールは言った。
「そうだ。アレク。今からそのへんで魔人の薬を調達してこい。こやつらに飲ませて魔人と化してそれを成敗しよう」
シャラザールはとんでもない事を言い始めた。周りの教皇騎士達は真っ青になっていた。
「シャラザール、流石にそれはまずいのではないですか」
ジャンヌが間に入って窘めた。
ジャンヌが嗜めるなんて、何年ぶりだろう。いつもは周りに窘められているのに。と周りの兵士たちは思った。
それほどこうなった戦神を抑えるのは大変だった。
「何故だ。いつもクリスは魔人を退治しているではないか」
さも当然とばかりにシャラザールが言う。
「クリスの場合はいつも相手が勝手に魔人の薬を服用しているのです。それにクリスはシャラザールのように魔人を倒すのではなくて、その魔人と化した奴らを聖魔術で人間に還しております」
「左様か。余のようにライトニングブラスターで弾き飛ばしてはおらんか」
さもがっかりしてシャラザールは項垂れた。
アレクはそれを見て喜んだ。これで終わるか。いつもの特訓は無しか。
「止む終えまい。貴様ら相手で我慢しよう」
シャラザールの言葉を聞いてアレクの期待は吹っ飛んでいた。
また、いつもの特訓が始まるのだ。
何回殺されるだろうか・・・・・・
アレクらは暗澹とした気分でシャラザールを見た。
「今日は久々にライトニングブラスターを使って特訓してやろう」
シャラザールの言葉にアレクらは固まった。
「ちょっと待って下さい。シャラザール様。それってゼウス相手に使われたシャラザール様の必殺技では」
アレクが蒼白になっていった。
「何を言うか。それは光の一撃じゃ。貴様ら相手に必殺技を使うほど余は落ちぶれてはおらんぞ」
ニヤリと笑ってシャラザールは立ち上がった。
「まずはアレク」
「はっはい」
慌ててアレクが返事をする。
「余の前に立って障壁で防いでみろ」
「しかし、」
「行くぞ」
シャラザールは強引に前にアレクを立たせた。
「良いか」
「最大障壁」
シャラザールの掛け声にアレクは全力で障壁を展開した。
「ライトニングブラスター!」
シャラザールは剣を上段から一閃させた。
凄まじい光の奔流がアレクを直撃する。
しかし、アレクの必死に張った障壁が何とかシャラザールの魔術を防ぐ。後ろに弾き飛ばされそうになるのを必死に足を踏ん張って耐えた。
アレクはほっとした。
「ほう、やるではないかアレク」
「いえ、これもシャラザール様による鍛錬の賜物でございます」
アレクが謙遜する。
「いやいや、余のライトニングブラスターを防げたのは貴様の努力の成果だ」
「そのような事は」
アレクは控えめに笑ったが、心の中では努力の成果だと思っていた。初めてシャラザールとの特訓で地面に叩きつけられずに、地上に立っていられたのだ。これを今までのまさしく、血まみれになりながら、いや、そんな言葉では軟すぎる。将に半死半生目に合わされながら、培った努力の成果だと思っていた。
ふっと思わず、笑みが溢れてしまう。
「では、アレク、準備運動は終わりだ。そろそろ本番に行くぞ」
シャラザールの言葉にその笑顔が凍った。
「えっ、ちょっと待って下さい。いまのが準備運動なんですか」
アレクは慌てて叫んだ。
「当たり前であろう。あれで本気なわけはなかろう」
シャラザールはニヤリと笑った。
「ちょっちょっと」
アレクの慌てぶりに構わず、シャラザールは上段に剣を構えた。先程の構えとは違う。構えた姿からも魔力がにじみ出ていた。
アレクは必死に障壁を張った・・・・
「ライトニングブラスター!」
先程のとは比べようもないとんでもない光の奔流がシャラザールから放たれた。
アレクは一瞬も保たずに、城壁を突き破って飛んで行った。
「ふんっまだまだじゃの。少し褒めるとこれじゃ。」
シャラザールは不機嫌そうに言った。周りは皆唖然としてみていた。いつもよりも更にパワーアップしていた。あれが今から自分達に襲ってくるのか。皆暗澹としていた。ジャンヌは呼ばれる覚悟をしたる
「次はオーウェン」
「はい?」
いきなり呼ばれてオーウェンは声が裏返った。あんなのは無理だ。浴びただけで死んでしまう。あれはアレクだからこそ、まだ原型を留められたのだ。自分なら一瞬で消滅させられる。オーウェンは恐怖を感じた。
「次は自分とは思っていなかったのか」
不機嫌そうにシャラザールが言う。
「いえいえ、そのような事は。しかし、シャラザール。私よりもシャラザールの後ろにいる教皇魔導師団長のほうがやる気を見せておりますぞ」
「何。そうなのか」
オーウェンに指さされてシャラザールは思わず後ろを振り返った。
倒れていた騎士団長が立ち上がっていた。
皆必死で魔導師団長の周りから避けようと逃げる。いきなりこちらに振るなよと思う暇もなく。
シャラザールが振り向きざま剣を振り下ろしていた。
男は抵抗するまもなく、弾き飛ばされて反対の城壁を突き抜けて飛んで行った。
「オーウェン!何だ今のは」
振り向きざまシャラザールは叫んだ。魔導師団長は無理やりオーウェンの魔術で立たされたに違いなかった。慌ててオーウェンを探すが、オーウェンはそのすきに壊れた柱の陰に隠れていた。
「おのれ、さすが、ドラフォードの小倅。悪知恵が働くわ」
シャラザールはニタリと笑う。
「しかし、余には通用せん」
シャラザールはオーウェンが隠れていた柱の残骸を弾き飛ばしていた。
「ギェっ」
オーウェンは慌てた。あっという間に遮断物がなくなり、怒りまくったシャラザールの前に立たされていた。
「そのような小細工が余に通用すると思うなよ」
シャラザールは剣を構えた。
「食らえ」
光の奔流がオーウェンを襲う。
オーウェンはとっさに反射を45度の角度にして最大限に展開した。
本来ならば力は45度で反射されると空に拡散されるはずなのだが・・・・
シャラザールの力が強すぎた。一瞬で光の奔流はオーウェンを城壁まで弾き飛ばしていた。と同時に、周りにそのまま拡散。凄まじい爆発が四方八方に襲いかかった。
周りの全員が地面に叩きつけられていた。
凄まじい光の奔流が周りを覆い、その勢いに皆倒れ伏す。
噴煙の跡に立っていたのは、シャラザールのみだった。
「ふんっ、小賢しい奴じゃ。しかし、反射を45度に展開するとは中々やる。あのまま直接受けていたらオーウェンも消滅していたかも知れんからの。まあ、その工夫は認めてやらねばなるまい」
シャラザールはとんでもない事を言いながら、次のターゲットにジャンヌを指定した。
「えっ、まだやるんですか」
「当たり前じゃ」
ジャンヌの不満の声を全く聞く耳も保たずに、シャラザールは剣を上段に構えた。
こうして全員が立てなくなっても治療して治し、シャラザールの氣の済むまでシャラザールの特訓は続けられたのだった。
皆さん。ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。
評価まだの方はぜひとも評価願います。
明日は300話記念更新行います。
こんなにも長く続けられるとは思ってもいませんでした。
これも皆様方読者の方のおかげです。
その後はしばらく休んで、新しい話書きます。
ブックマークまだの方はブックマークよろしくお願いします。
ではまた明日もよろしくお願い致します。








