クリスの見習い魔導師と侍女はザール教に圧倒されました。
「ビアンカ。公爵家のタウンハウスはすごかった?」
夕食時にアデリナがビアンカに尋ねた。
「うん、そうね。邸宅がとても大きかった。内装はこの王宮よりも凄かったわ」
ビアンカが言った。
「へえええ、そうなんだ」
「まあ、私はそれよりもベスファルトのケーキが美味しくて感激したわ」
「えっベスファルトのケーキが出たの?」
アデリナが驚いて聞いた。
「そう。ロヴィーがそんなにおいしかったのなら私のもあげるって2つも食べられて本当に幸せだった」
「えっいいなあ」
羨ましそうにアデリナが言う。
「じゃああなたも来る?アデリナ。今度の日曜日に礼拝があるから来ないって誘われているの。お友達も呼んで良いって。お菓子がそんなに好きならばもっと用意しておくって言われたのよ」
「えっ本当なの。日曜日はお休みだし、でも私なんて行っていいのかな」
「それを言うなら私も同じよ。庶民もたくさん来るから、普段着で参加してって」
「判った。お母さんに聞いてみるわ」
アデリナもお菓子に釣られていた。
その話はクリスらは閣議が長引いて聞いていなかった。
2日後の日曜日に、ビアンカは朝からアデリナと連れ立って公爵家の中にある聖堂でのミサに参加した。聖堂の周りには既に多くの人がいた。
「ビアンカ」
入り口でロヴィーサに呼び止められる。
「ロヴィ。すごい人ね」
「そうなの。今日はザールから偉い人が来ているみたいだから、いつもより多いみたい。こっちよ」
ロヴィーサに連れられて二人は聖堂の中に案内される。
「えっ、こんな前なの」
一番前の席に案内されてアデリナは躊躇した。
「それは私のお客様だもの。いいから座って」
強引にロヴィーサに座らされる。
中には巨大なステンドグラスが建物の各所に設置されてきれいだった。
建物の中には多くの人がいて熱気にあふれていた。
「ビアンカ、ナンカ少し臭わない」
アデリナが少し気にしていった。クンクン臭う。
「そうかな。あんまり感じないけれど」
ビアンカは否定した。それよりも早く、ロヴィの部屋に行ってケーキが食べたい、とビアンカは思っていた。
荘厳なパイプオルガンの音楽が流れる。
そして、その音の中、壇上に黒い神父服を来た男が現れた。
「皆さん。本日はお忙しい中、ザール本国からからアルヴィ・パーテロ枢軸卿にお越し頂きました」
壇上に上がった男が紹介するとスポットライトを浴びて真ん中の通路を通って背の高い男が歩いてきて登壇した。
「皆さん、ザール教区から参ったアルヴィ・パーテロです。ザールのお導きによって本日この地に参りました」
「ザール、ザール、ザール」
皆、そう叫んで足踏みする。
アルヴィが手を挙げると皆静かになる。
「かつてザールはおっしゃいました。この世は全て汚れていると・・・・・・」
男の話が始まった。いつもはビアンカは演説を聞くと眠くなるのだが、今日は眠くならなかった。
男の話は延々続く。何故か頭がスッキリして素晴らしい話を聞いているような気がしてきた。
そして、所々で
「ザール、ザール、ザール」
という大歓声と足踏みが起こる。
ビアンカとアデリナはどんどんその熱気に当てられていった。
気づくと一緒に叫んで足踏みしていた。
気持ちがとてもハイになっていく。
「ザールの敵に審判を!」
「ザールの敵に審判を!」
枢軸卿の言葉を復唱する。
「ザールの敵に罰を!」
「ザールの敵に罰を!」
言葉は徐々に過激になっていく。
「ザールの敵に死を!」
「ザールの敵に死を!」
そしていつの間にか当然のように叫んでいた。








