学園のクリスの魔道士見習いは火炎攻撃を反射しました
5月のナッツァの朝はまだ涼しかった。
制服に身を包んだビアンカは中等部のアデリナと一緒に学園に向かって歩いていた。
「昨日は何もなかったの」
昨日は休みだったビアンカがアデリナに聞いた。二人は基本的に学業優先をクリスからは言われており、ビアンカは平日の学校終わってから3日に1回、アデリナは平日の2日に1回が勤務だった。
「うーん、騒ぎになったことと言えば、昨日の夕食の時にオーウェン様がいらっしゃってたけれど、クリス様は避けてらしたし」
「えっ、昨日も来たんだ。一昨日も来てたけど」
アデリナの言葉に、ビアンカが返す。
「せっかく宋国では仲良くしていらっしゃったってメイ様から聞いたのに」
「オーウェン様も何も皆の前で、結婚申し込まなくても良いのに」
「神様みたいにクリス様にお祈りしていたし」
「何でかな」
「アレク様もなんで、ジャンヌ殿下との結婚をクリス様にお祈りしていたんだろう?」
2人はクリスに戦神シャラザールが憑依してるのを知らないので、オーウェンとアレクの神頼みの意味がクリス同様、全然判っていなかったのだった。
「ビアンカ!」
歩いている後ろに馬車がついてロヴィーサが降りてきた。ビアンカは嫌そうな顔をした。そう、最近この田舎公爵令嬢にまとわりつかれて大変なのだ。
ビアンカは高等部では魔導科に属し、出来る限り目立たないようにしようとしたのに、来た時に付けられたあだ名が反射のビアンカ。魔王の攻撃を反射して防いだことからつけられていた。メイは完璧な反射で魔王を攻撃していたので、それに比べるとまだまだだったが、人材不足のボフミエ魔導国では学生ながらクリスの護衛の予備にあっさり編入されていた。すなわち学生でありながら、筆頭魔道士の護衛魔道士という待遇で、それが目立たないはずはなかった。目立ちたくなかったのに、皆から向けられる視線は羨望と嫉妬だった。そして、ロヴィーサと仲良くなることで更に最近目立つことになった。
人員不足の魔導学園では今は1月入学クラスが、4月入学クラスの魔導実技も見ているのだ。
何故かパーティーの後にビアンカがロヴィーサの面倒を見ることになっていた。
「公爵令嬢様。何でございますか」
他人行儀にビアンカが聞く。
「何言っているのよ。ロヴィーサよ。魔導学園は平等なんでしょ。魔導学園ナンバーワンの魔力量のあなたなら、呼び捨てを許すって言ってるでしょ」
その声を聞きながら、ビアンカは盛大な溜息をついた。
「だから目立ちたくないんだって」
ボソリとつぶやく。
「ビアンカ様。今日もとっても凛々しいです」
反射のビアンカと呼ばれていることを知ってから護衛騎士のドリスはビアンカの事を様付けで呼んでいたし。いくら同等だと言ってもドリスは聞き入れなかった。
そして、必死に反射の使い方を聞いてくるのだった。
この二人の相手をするので、この1週間ビアンカは本当に疲れていた。
そしてその日の魔導実技の時間。100人の1月入学の生徒達が100人の4月入学の生徒達を見ていた。それをフランツ・マルクスが監督しているという感じだった。
「出でよ!火の玉」
ロヴィーサが詠唱する。ちゅどーんと大きな火の玉がボロンボロン揺れながら、的に向かって飛んでいく。揺れが激しいのかそれは的を大きく外した。その向こうで盛大に爆発する。
「ロヴィ」
呼び捨てはあれだったので、結局ビアンカはロヴィと愛称呼びすることにした。
ロヴィーサは今まで公爵領では自分が一番上で、オスキャルやドリスは仲間に近いものがあっても所詮は護衛になるので、友達と呼べるのはビアンカが初めてだった。愛称呼びなんてされたことがなかったので、とても喜んだのだ。
「的に対して正対しないと。そして、目標を絞ってこうよ」
ビアンカは小さなファイヤーボールを放つと、それは一瞬にして的を破壊していた。
「凄いわ。ビアンカ。無詠唱でやるなんて」
感動してロヴィーサが手を叩いて褒める。
「あなたも慣れたら出来るわよ」
「えいっ」
ロヴィーサがやるが、とても小さなファイアーボールが出来たが、途中で消えてしまう。
「ロヴィ。確実にできないうちは無詠唱なんてやっちゃだめよ」
「でも、ビアンカがやっているじゃない」
「確実にやれるようになってからね。何事も基礎が肝心よ」
「判ったわ。出でよ!火の玉」
今度は多少先程よりも小ぶりでまとまった火の玉が出来たが、また的を外す。
「はいもう一度」
「出でよ!火の玉」
ビアンカに言われて再度ロヴィーサはやる。
その様子をジークムント・ケラーは憎々しげに見ていた。ケラーはボフミエの伯爵家の人間で、平民を下手に見ていた。平民のビアンカが偉そうに公爵家を指導するのを見て舌打ちする。
「平民風情でハイドランジア公爵令嬢を愛称呼びするとは身の程知らずな」
ジークムント家は300年間ボフミエ国で伯爵位を有しており、今回の件では役職についておらず、たまたま、没落を逃れたのだが、平民風情を重用する筆頭魔道士にも忌々しさを感じていた。ジークムントは少し思い知らせることにした。
「あっ失敗した」
ジークムントはそう叫ぶとビアンカ目掛けてファイアーボールを放った。
「えっ」
自分に向けられた魔力を感じてビアンカはとっさに反射を張る。
人の頭大のファイアーボールがビアンカを襲った。もろに食らえば丸焼けになるレベルだ。
それは、しかし、ビアンカの張った反射で弾かれたが、全体に拡散して凄まじい爆発音を伴って爆発した。








