暴風王女窮地に立たされる
その頃ジャルカの上司であるジャンヌは珍しく王宮に呼ばれていた。
ここ3年は北方にあってほとんど帰ってきたことは無かった。
この前のサマーパーティーの後も速攻で北方師団の駐屯地に戻ったので王宮は久しぶりだ。
ジャンヌを見て皆一同驚いた顔で次々に礼をしていく。
不機嫌そうに頷き返して国王の執務室に向かって歩いていく。
その国王は執務室で山のような書類に囲まれていた。
隣に鬼のように次から次に書類を差し出していく内務卿がいた。
「陛下。お呼びですか」
「ああ、ソファに座ってくれ」
ジャンヌが声をかけると
国王はジャンヌの方も見ず一心不乱にハンコを押していた。
「陛下、書面はご覧になりましたか?」
横で内務卿のエルンスト・ミハイルが注意する。
「貴様が見て良いと思ったのだろう。わしが再度見ることもあるまい」
まじめに国王が応える。
「そんなことで私が不正をしていたらどうされるのですか。」
「その時はその時、わしがそなたを見る目がなかったという事だろう」
国王は笑った。
「陛下」
驚いた顔でミハイルは国王の顔を見た。
「ついでにハンコをその方に渡すから押しておいてくれると助かるのだが」
悪戯っぽく国王は言うが
「御冗談を。陛下は陛下のお仕事をしていただけませんと」
必要書類を受け取るとジャンヌにも礼をして内務卿は出て行った。
「見たか。あの嫌味な顔。
先日バカ息子が婚約破棄をしたとたん領地にこもりよって内務の仕事が滞っての。
内務の奴ら書類を全部嫌味たらたらでこの部屋に置きに来寄った。
あと2日あいつが帰って来るのが遅れたら、わしは書類の山で窒息死していたよ」
国王は笑って言った。
「で、国王陛下。ご用件は?」
「ジャンヌは冷たいな。久しぶりに会ったのに父上とは呼んでくれんのか」
さみしそうに国王が言う。
「陛下。時間がないので手短に。」
一瞥してジャンヌは言う。
「今回の顛末は聞いたか」
ため息をつくと国王は言った。
「はい。ジャルカからは今回の件は王妃様の王妃教育が厳しすぎたからで、
クリスを罰するならば全ての侍女が辞めると泣いて嘆願してきたと。
また、皇太子殿下のなさりようはあまりにもひどいと近衛を除く全将軍がその処罰を求めて辞表を提出してきたと。
国王陛下も日ごろの自分の行いを恥じて、やっと仕事らしい仕事を始められたと聞き及んでおりますが」
「あのくそジャルカめ。そんなことを」
きっとして国王はいう。
「何か間違いがございますか。」
ジャルカのいう事だから誇張、誇大な事にはなっているしどこまでが真実かはジャンヌにも疑わしかった。だが、国王が研究室では無くて執務室で仕事をしているのを見て少しはまともになったかと自分を省みずにジャンヌは思った。
「全く違うように聞こえるが、大まかにはあっている」
国王は忌々しそうに言った。
「で、これがジャルカから出てきた嘆願書だ」
不吉な予感がしてジャンヌは一瞬でその嘆願書を魔法で燃やした。
「すいません。陛下、つい手が滑って」
にやっと笑ってジャンヌが言う。
「手が滑って嘆願書が燃えるか」
顎で紙のあった場所を指す。
そこには無傷な嘆願書があった。
それも2枚も。
「わしもむかついたから捨てたのだが、倍になって戻ってきたのだ。」
「はんっ」
怒ったジャンヌが2枚まとめて破り捨てると4枚になった。
「この野郎」
燃やす、水浸しにする等々いろいろやったが、ジャンヌはあっという間に書類の山に埋もれてしまった。
「お前はバカか」
国王が呆れる。
「ジャルカもわしらのことなどいやというほどわかっておるのだよ」
仕方なく、ジャンヌは目を通す。
そのジャンヌが目に見えて怒っていくのが判る。
「ジャンヌ、わしも王妃も今回の件は反省した。
お前にも全く原因がないとは言えまい。
今回兵部卿が引退した。
魔導第一師団長のザクセン・コーフナーがそのあとを継ぐ。
お前にはその後をしてもらいたい。
ジャンヌ・マーマレード
本日付で魔導第一師団師団長を命ず。」
「ジャルカ。これはどういうことだ。」
返事もせずに王都から駐屯地に転移するとジャルカの前に書面を突き出した。
「これはこれは姫様。
早速お読みいただきましたか。
その上でご高配賜り誠にありがとうございます。」
ジャルカは恭しく頭を下げる。
「はんっ。了解なんてしていないぞ。」
「またまた、ご無体な事を言われる。
今回弟君のなされたことで、王都は大混乱です。
王弟殿下の動向も不確か。
そういった中で兵士も動揺しておりましょう。
その中で隣国皇太子殿下とも互角に戦われるマーマレードの英雄
姫様が王都に着任されれば皆の動揺も無くなりましょう。」
「なんでそんなことをしなければならない。」
「なんでと言われても、弟君の皇太子廃嫡で、姫様の皇位継承順位は第一位でございます。」
「えっ。私が第一位だと。」
ジャンヌは驚く。
「さようでございます。
それにそもそも、この前クリス様に電話でクリス様だけに、迷惑をかけて申し訳なかったと謝っていらっしゃいました。少しはご自身もクリス様のご苦労を味あわれる必要があるのでは無いでしょうか?」
「それはそうだが・・・・」
珍しくジャンヌは押し黙った。
「今回の件はクリス様も大変ショックを受けておられます。
それを気遣ったクリス様のお母様が気分転換も兼ねてドラフォードに向かわれました。」
「クリスがドラフォードにか。」
「何でしたら姫様もドラフォードに行かれてご相談なされたらいかがですかな」
「うーん、ドラフォードか」
確かに今はアレクも陰険皇太子を邪魔しに行っているはず。
それを手伝うのも良いか。
珍しく考え込むジャンヌをにやにやとジャルカは見ていた。








