大国皇太子は怒ったクリスに頬にもみじマークを付けられました
クリスは夜遅くまで閣議室で黙々と出張の間の溜まった仕事を片付けていた。
それを心配した顔でナタリーは見ていた。クリスは何かしていないと心が休まらなかった。オーウェンが彼の幼馴染の悠然王女を追いかけていってから既に二時間以上がたっていた。クリスはとても不安だった。
そこへ憔悴したオーウェンが入ってきた。
「オーウェン様!」
ナタリーが思わず、非難の声を上げる。
「クリスティーナ様に報告があって来た。皆は申し訳ないが少し外してくれないか」
珍しく改まった口調でオーウエンが言った。
「しかし…」
「良いの。ナタリー、皆も少し外してくれる」
クリスを心配するナタリーらにクリスが言う。
ナタリーらは顔を見合わせるとクリスが頷くので仕方無しに外に出た。
「オーウェン様。報告とはどのようなことですか」
仕事の手を止めてクリスはオーウェンを見た。
「ごめん、クリス。隣りに座っても良いか」
「えっ、隣に?」
クリスは書類の山を見て躊躇したが、それをどかせて席を開けた。
「どうぞ。ドラフォード皇太子殿下」
「有難うございます。ボフミエ筆頭魔道士様」
言うや、オーウェンは隣りに座った。なんとも堅苦しい言い方だった。
しかし、オーウェンは話すことはなく、地面を見つめているだけだった。
そのオーウェンの前の机の上にクリスが紅茶を入れて渡した。
「どうぞ」
「有難う」
オーウェンは一口飲んだ。
「クリス、少しだけ話して良い?」
クリスの方を向いたオーウェンにクリスは頷いた。
「おれ、ずうーっと好きな子がいた。でも、その子はいつの間にかいとこの婚約者になっていて手の届かないところに行った。もう最悪だった。他国の皇太子の想い人に横恋慕してどうするって父や母に言われて。それが大国の皇太子のすることかとか、散々言われてとても辛かった。でも、諦めきれなかったんだ。そして、王立高等学園に留学した。もう、諦めるために最後に行ったんだ。
でも、その子がパーティーで婚約破棄されたんだ。
その時、その子には悪いけど、俺は歓喜に震えていた。神様がやっと俺の言うことを聞いてくれたって。
やっと普通に話せるって。でも、その子はドラフォードなんか大国の皇太子の婚約者は厭だって言うんだ。俺はもう絶対に皇太子なんて辞めてやるって思った。
でも、その子はどんどん強くなっていつの間にかこの国の筆頭魔導師になっているし、いつの間にか大国の皇太子を5人も下に従えているんだ。たかだか1国の皇太子ではもう釣り合わないんじゃないかって最近は思い出している」
クリスはオーウェンが何が言いたいか全然判らなかった。
今までは好きだけど嫌いになったと言いたいのかと。クリスは真っ青になった。
「オウ、それで、依然王女が好きになったの?」
下を向いてボソリとクリスが言った。
「はんっ何言ってるんだ。俺はクリスがエドの婚約者だった最悪の時からずうーっとクリスが好きなんだぞ。そんな理由で諦めれるわけ無いだろう」
「本当に?」
「俺の態度見たら判るだろ」
「王女と仲良くしていた」
「クリスの方こそコレキヨとめちゃくちゃ親しそうだったぞ」
「あれは新しい仲間に対する態度よ」
「俺のもジャンヌとかアメリアに対する態度と同じで、戦友っていうか、仲間に対する態度だろ」
「でも私よりも近かった」
「そんな事無いよ。近いっていうのはこういうことだろ」
言うやオーウェンはクリスを抱き寄せた。
「えっオウ」
クリスは慌てて離れようとするが、オーウェンは離してくれない。
「ごめん、クリス、少しだけこうしていたい」
オーウェンはクリスを抱きしめていた。そしてクリスの首筋に顔を埋めた。
「えっ、ちょっとオウ」
更にクリスは慌てる。
「ごめん。クリス。少しの間だけ慰めて」
オーウェンの腕の中にすっぽりとクリスは覆われていた。
「依然は陳国をノルデインの攻撃から助けて欲しいって言いに来たんだ。
ドラフォードに。でも俺は今はドラフォードの皇太子ではなくてボフミエの内務卿だ」
「ドラフォードに繋いであげることは出来たんじゃないの」
「陳国は既に父らと交渉しているだろう。それで駄目だから陳王女と幼馴染の俺の所に悠然を寄越したんだ。でも、俺の言葉で国王が方針を変えるとは思えない。
そして、ボフミエ魔導国自体も建国してすぐで到底陳国を助けられる力はない。
泣いて助けてっていう幼馴染に対して頷くことは出来なかった。ただただ抱きしめることしか出来なかったんだ」
その最後の言葉を聞いた瞬間クリスはプッツン切れていた。
「オウ、最低」
思いっきりオーウエンを引き離して、頬を叩く。
「えっクリス」
「女だったら誰でも抱きしめるの!!」
「いや、誤解だから。女として抱きしめたんじゃなくて・・・・・・」
オウは必死に言い訳しようとした。
ドンッ
しかし、そこにウィルが転移してきた。クリスに駆け寄ろうとしたオーウェンを突き飛ばす。
「姉さま。アデリナの母の居所が判ったよ」
ウィルは喜んでクリスに駆け寄った。
ボフミエ魔導国はGAFA等によって奴隷として売られた人々を捜索していた。その探査に行っていたウィルが成果を上げて帰ってきたのだ。
「本当なの。それならすぐにアデリナに知らせないと」
クリスは喜んだ。
「クリス様大丈夫ですか」
大きな音を聞いて外に待機していたナタリーらが流れ込んできた。
そこには書類の山に突っ込んだオーウェンと手を取り合って喜んでいるクリスとウィルがいた……
オーウェン…自分の胸で泣く依然の希望を全く叶えられなかった。同じ国民を背負う戦友の幼馴染に最後の死亡宣告をしたつもり
クリス…自分以外の女を胸で泣かすなんて許せない。それにまだ出来ることあるでしょ。さっさと諦めるな
次回クリスの善意全開で困り果てる赤い死神
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