クリスの理想が宋襄の仁だとわかって周りの人は戸惑いました
皆さん。いつもありがとうございます。
今回はちょっと長いです。
ノルディンが陳国に攻勢準備していて、陳国はドラフォードに助けてもらおうとして必死です。
でも、最終兵器は別にいるのに
翌朝、執務室でクリスと話そうとしていたオーウェンだが、配置された席順で怒っていた。
財務卿の席がオーウェンとクリスの間に設けられていたのだ。
「スティーブ、どういう事だ。この席は」
「だって、仕方がないじゃないですか。財務はこちら側に揃っているんですから、その前にコレキヨ様の席を持ってくるしか無いでしょ。それとも財務全員に動けと言われるんですか」
スティーブの機嫌も良くなかった。
「そもそも、オーウェン様ですよね。席は任せると言われたのは」
「どうかされましたか。内務卿。不都合あれば席は動きますが」
オーウェンよりも早く出社していて仕事をしていた財務卿に言われてはもう反論のしようもなかった。
「オウ、それよりも早く仕事指示して下さい」
オーウェンの反対隣の席から依然が言う。
「シュテファン。今回の災害の処理の一部を依然に」
オーウェンは止む終えず、指示をする。
その一方の当事者のクリスはその事は全く気にせず、既に一心不乱に決裁文書に目を通していた。
時々、隣からコレキヨがクリスに指示を仰ぐ。
その距離が近いんじゃないかとオーウェンがきっと見ていると
「オウ、これはどうするの」
依然がもっと近くにいて聞いてくる。
「これはこうして」
それに対してオーウェンは教えていく。
その二人の近さが、クリスの怒りを買っているとも知らずに。
「クリス様。これおかしくないですか」
クリスの後ろからクリスの補佐官のフェビアンが用紙を返す。
「あっごめんなさい」
クリスは謝る。
「クリス様。もう3回目ですよ。どうされたんですか」
「いや、ごめんなさい。久々の執務だからちょっと感覚が狂っているのかも」
その視線が、オーウェンと依然の方にいっているのをみてフェビアンは顔をしかめる。
「少し休憩にされますか」
「えっでも、まだ始めたばかりだし……」
フェビアンの提案に、クリスが反論している時に、大きな魔導電話の着信音がした。
「あっすいません。音大きいままでした」
謝りつつ悠然が電話を取る。
「はい。ボフミエ魔導国外務省です。あ、叔父様」
電話の悠然の前に、周外務大臣が出た。
「悠然、早速お手伝いしているのか」
「はい。いけなかったですか」
「いや、そんな事は無い。外務卿はいらっしゃるか」
「はい。少々お待ち下さい」
アレクの方を見るとアレクが前の画面を指差す。
外務の大画面に周外務大臣が出た。
「これはこれは陳国の周外務大臣。わざわざお電話頂くとは」
アレクが出た。
「こちらこそ。皇太子殿下からうちの者をそちらでお使い頂けるとお伺いして、お礼の電話をさせていただいたまでですよ」
「あの、周外務卿。私は今はボフミエの外務卿としてお話しているので、ボフミエの外務で働いて頂くということで宜しいか」、
「あ、申し訳ありません。当然そのようにお伺いしております。是非とも色々厳しくご指導賜りたいと国王も申しておりました」
それを目ざとく見つけてクリスがアレクに合図を送る。
「外務卿。うちの筆頭魔導師がお話したいと申しているので話しさせて頂いて宜しいか」
「どうぞ」
言われて横からクリスが中に入る。
「これはこれは周外務卿。クリスティーナ・ミハイルと申します。テレーゼのヨークシャー家でお会いしてから8年ぶりですね」
「えっ、あああ、サイラス公爵の孫娘のクリス嬢か」
外務大臣は昔テレーゼを訪問して滞在していたヨークシャー公爵家にいた孫娘のクリスの事を思い出ししていた。
「大きくなられましたな。え、そのクリス嬢がボフミエの筆頭魔導師様に」
外務大臣は目が点になった。
「まあ、いろいろありまして」
クリスは笑って言った。
「あの時は陳国のことをいろいろお教え頂きありがとうございました」
「いえ、10歳にもなられないお嬢様が熱心に我が国のことを聞いて頂いて、関心いたした事を思い出しました。その時からヨークシャー公の自慢の孫娘でいらっしゃいましたな」
「ませた小娘で失礼いたしました」
「いやいや、あの年であそこまでの勉強熱心さには感激いたしました。そう言えばその時から宋襄の仁で有名な襄公の事をよく聞かれましたな。何でもクリス嬢の理想でしたか」
「はい。それは今でもそうです」
周りの皆がえっという顔でクリスを見た。
「左様でございますか」
外務卿は少し困った顔をした。
宋襄の仁の意味はつまらない情けをかけてひどい目にあうこと。
昔、宋国の襄公が大国楚との戦いで敵が川を渡っている途中で攻撃するのは卑怯だと敵が陣を整えるまで攻撃せずに、戦いで負けたことを意味する。
基本的にどの国の教科書でもこんな事をしてはいけないと記載されていた。
ノルディンやドラフォードは元よりマーマレードでもバカにされていて、かのジャンヌですら知っていることだった。
「あっそう言えば、外務でお世話になる悠然は元々宋の出身なのですよ。養子で我が周家の氏族に入りましたが」
「えっ、そうなのですか」
クリスは驚いて言った。
「また目をかけてやって下さい。では外務卿、また連絡させて頂きます」
周外務卿は魔導電話を切った。
ボフミエの筆頭魔道士が知り合いのクリスだとは知らなかった。
周外務卿はこれが大国のドラフォードの人間だったらどれだけ嬉しかったろう、と残念がった。
しかし、クリスが大国ノルディンに対して唯一対抗できる最終兵器なのは知らなかった。
「悠然さん。あなた、襄公の子孫なの」
電話が終わるとクリスは皆そっちのけで悠然に飛びつくように傍に行った。
「えっ、まあ、そうです。3年前に今の周家に養子に出されたんです」
「まあ、そうなのね。宋国の方には一度お会いしたかったの。いろいろ教えてほしいんだけど」
いつもその件では散々バカにされているので悠然は嫌だったのだが。クリスの勢いは止まらない。
「いや、クリス。宋襄の仁が理想ってまずいだろ」
執務室に書類を提出に来ていたジャンヌが言った。
「お姉様。何を仰るんですか。襄公は素晴らしい人なのです。儒学でも絶賛されています」
「あの、やたら儀式しか気にしない宗教だろ。そんなのしているから国が滅ぶんだよ」
「理想を求めるのは大切なことなんです」
「いや、クリス、しかし、この時代に襄公は流石にまずいんじゃないか」
横からオーウェンがしゃしゃり出て聞く。
「何おっしゃっているんですか。元々オウが東国に襄公という僕らの教師になるような立派な方が居たとお父様に聞いたとおっしゃったんじゃないですか。それから必死に襄公について調べたんですよ」
「えっ俺?」
オーウェンはクリスの怒った様子に絶句した。
アレクは絶対に嘘だと思った。
「あの陰謀長けたドラフォードの国王が襄公なんて褒めるわけ無いだろ。反面教師にするなら判るけど」
アレクの言葉にオーウェンは固まった。
「そうですよ。我がドラフォードで敵がわざわざ渡るのを待ってそれから攻撃したら、それだけで責任問題です」
アルバートまで言う。
「どうしたオーウェン」
ジャンヌが固まったオーウェンに聞く。
「ごめんクリス。小さい時は大人の言うことがよく判らなくて」
「よく判らなくてどうした」
ジャンヌが先を促す。
「反面教師の意味がわからなくて良い教師という意味かなと」
「えええ、いたいけな子供のクリスに嘘を教えたのか」
「そうだろうな。あの陰謀大魔王のドラフォード王がそんな事言うわけないよな」
ジャンヌとアレクが吹き出した。
「もう良いです。私なりに襄公がいかに素晴らしいか研究したんです」
クリスが赤くなって言う。
「いや。クリス……ごめん」
「もう良いです。オーウェン様は大人の汚い心を持っているのがよく判りました」
「えっいや、クリス」
慌ててオーウェンはクリスにすがろうとするが
「私は清い心を持った悠然さんと少しお話します。アレク様。悠然さんをお借りしますね」
怒ってクリスは悠然を連れて外に歩き出した。
その後には呆然としたオーウェンが残った。
「あああ、オーウェンが変なことクリスに教えるからあんなクリスになったんだぞ」
「魔王の時も反撃する必要があるって散々言ったのに、やらなかったのは宋襄の仁があったからだな」
「まあ、聖女クリス様らしいと言えばらしいですけど」
アルバートが言う。
「しかし、それをいつもやられたら兵士がいくらいても、足りなくなるぞ」
ジャンヌが心配して言う。
「でも、失敗しても最後は今回みたいにシャラザールが来臨して終わりだから良いんじゃないですか」
アルバートが言った。まあ、その破壊しつくされた街を再建するのが大変だったのだが。
「何だ?シャラザールって」
オーウェンが聞く。
「いや」
「まあ」
「何でも無いよ」
3人はシャラザールから口止めされているので口を濁した。
「まあ、良いけど……あああ、またやってしまった」
オーウェンが頭を抱えてしまった。
「内務卿。悩んでいる暇あったら、さっさと仕事して下さい」
シュテファンが後ろからオーウェンを捕まえる。
「えっちょっと」
「悩む暇あったら、仕事して下さい」
「ほっておいて良いのか」
コレキヨは後ろのスティーブに聞いた。
「まあ、いつものことですから良いんです。あの二人にかまっていたら仕事が全然はかどりませんから」
スティーブは言いながらコレキヨに次々に資料を渡していく。
「なんか凄いところだな。ここは」
コレキヨは呆れていた。
人物紹介クリスの血縁関係
クリスティーナ・ミハイル主人公 ミハイル侯爵家長女 元エドワードマーマレード皇太子の元婚約者。元々大国ドラフォードの皇太子のオーウェンがご執心だったのに、横からエドが取った感じ。
ウィリアム・ミハイル15 弟
父は エルンスト・ミハイル マーマレード王国内務卿 彼がいないと国が回らない。
母はシャーロット・ミハイル42 侯爵夫人。隣国テレーゼ王国ヨークシャー公爵家出身。元ドラフォード王妃キャロライン(テレーゼ王国出身)の侍女をしていた。マーマレード現王妃エリザベスはそのキャロラインの妹。ちなみにテレーゼの女王はその一番上の姉オリビア
アレリア・テレーゼ皇太子とオーウェン・ドラフォード皇太子、ジャンヌマーマレード皇太子はその3姉妹の子供なので当然いとこ。
クリスの祖父はテレーゼの筆頭魔導師サイラス・ヨークシャー公爵70
前王妃の故エルフリーダ・ミハイル(ジャンヌの祖母)はクリスの曾祖父の娘。すなわちジャンヌとクリスも近い親戚
ジャラザール3国テレーゼ・マーマレード・ドラフォードは血縁関係も近い。
それはクリスにも言えること。子供の時によく行き来していてクリスもウィルも上記3人とはよく遊んでいた。
ちなみに、クリスがオーウェンの皇太子妃になること自体は家柄的には全く問題はない。
ドラフォードで反対派筆頭の皇太后やバーモンガム公爵(息子はクリスの騎士のアルバートや東方第一師団長のミューラー)や、軍部の連中もクリスの必殺爺殺しで完全に手中に収めているクリスの皇太子妃になるネックはクリスの心だけ。
オーウェンの10年くらいの片思いにいい加減に応えてあげればと周りは思っている。
クリスは史上最強の戦神シャラザールが憑依しているので戦でも最強。クリスの配偶者になった国が史上最強国家になることは決定している。本来はアレクが落とせば良いのだが、アレクはシャラザールの尻に敷かれており、というか恐怖を未だに抱えており、本人はジャンヌで満足している。しかし、ここもジャンヌが認めていないが。
オーウェンとクリスはシャラザールが憑依しているのを知らない。








