大国皇太子は最初に東方王女と踊る約束をさせられました
「なんで全然出ないんだ」
何回電話しても出ない、クリスにしびれを切らしたオーウェンは侯爵家令嬢のイザベラに電話することにした。
「これはこれは依然王女と仲の良い、皇太子殿下」
魔導電話に出たイザベラは嫌味ったらしく言う。
「何だそれは。たまたま、昔助けてもらった幼馴染に出会ったから、親切にしているだけだ」
オーウェンは言い訳した。
「ふうん。クリス様の前で二人で手を握り合っていましたよね」
「えっ。クリス見ていたの」
オーウェンは最悪の事態に初めて気がついた。
それで怒ってクリスは出ないのか。
「それで落ち込まれていたクリス様を」
「えっクリス落ち込んでくれたの」
喜んでオーウェンが言う。
「そこ喜ぶところではないです。それに元気のなかったクリス様を気になさった皇太后様がコレキヨ様をご紹介されてそれ以来お二人は親密な関係ですよ」
ニコリと笑ってイザベラが言う。
「な、何だと。おばあさまも余計なことを。イザベラ嬢も何とか二人の間を邪魔してくれ」
オーウェンは慌てた。
「えええ?せっかくクリス様は元気になられたのに。コレキヨ様は博識らしく、クリス様といろんな話題で盛り上がっていらっしゃいますよ」
「いや、イザベラ嬢。そこを何とか」
オーウェンはイザベラに頼み込んだ。
「取り敢えず、電話されたらどうですか。ご自身で謝られたほうが良いかと思いますが」
「電話しても全く出ないんだよ」
「余程嫌われたんじゃないですか」
「そんな」
呆然とオーウェンがする。
「アデリナどう思う?」
側にいたアデリナに聞く。
「二股の皇太子殿下は嫌いです」
アデリナに一刀両断にされ、オーウェンは絶句する。
「いや、だからそれは誤解であって」
「だってクリス様の目の前でクリス様の知らない女性と手を握り合っていたよね」
「本当に最低です」
「ちょっと待ってよ。15年前に陳国の西安で迷子になっていたのを助けてもらった子と久しぶりに会ったんだよ。そもそも握手しただけだろ」
「それはクリス様におっしゃって下さい」
「私なら絶対に許しません」
「いや、あのさ」
言い訳が通りそうになく、オーウェンは焦った。
「オウ。このような所で油を売っていらっしゃったのですか。ヘルマン様らが怒っていらっしゃいますよ」
そこへ依然が現れた。
「えっちょっと」
オーウエンが叫ぶと同時に電話が切れた。
「どう思う?アデリナ。いきなりあの女に電話切られたよ」
「オーウェン様もう最低です」
イザベラの問いにアデリナが応えた。
「だよね」
イザベラはもう知らないと思った。。
「依然っ。ちょっと」
「オウ。皆さん怒っていますよ。強引にでも連れてこいってヘルマン様に言われたんですけど」
強引に依然はオーウェンを引っ張って戻った。
「内務卿。一応依然王女には内務の概要は伝えましたよ」
シュテファンが言う。
「では実際にやってみる?」
「でも、まだ内務やるかどうかはわかりませんし」
依然は渋った。
「えっそうなの」
残念そうにヘルマンが言う。
「そんな事言わずに、お願いしますよ」
シュテファンが頼む。
「外務からも呼ばれていますし」
「アレクからか。じゃあ外務も………痛い」
そう言うオーウェンの靴をシュテファンが踏んだ。
「オーウェン様。僕疲れました」
白々しくうつむく。
「休み殆どないし、無茶振りされるし」
「えっ休み無いんですか」
「いやいや、そんなことはないよ。ちょっとまってね」
言いながらシュテファンを横に連れ出す。
「どういうことだよシュテファン」
「そんなの決まっているでしょ。いつも朝から晩まで頑張っているのに、仕事は全然減らないし。女の子もいないし。内務卿は仕事ほっぽりだしてどこかに行くし…」
「いや、そんな事は無いだろう。それに女の子がいないことないだろ。周りにはいっぱいいるし、新人も入ってくるし」
「王女がいるといないじゃ違うでしょ。ここは僕らのためにオーウェン様がもう一肌頑張って下さいよ。でないと僕も外務に行きます」
「判ったよ。やらあ良いんだろ」
ブツブツ言いながらオーウェンは部屋に戻った。
「依然王女。内務の人間は君が気に入ったようだよ。是非とも入ってほしいって言っている」
シュテファンとヘルマンが目を輝かしている。スミスとロルフは我関せずで仕事に勤しんでいた。
「ありがとうございます」
依然は嬉しそうにした。
「で、何か不満があるのか」
「オウ、1つだけ希望があるんですが、でも難しいかなって」
依然が言いにくそうにした。
「どんな希望だ」
「明日、なんかパーティーがあるみたいで」
「ああ、君たちの歓迎パーティーだろ」
新留学生をはじめ、新たな領地の施政官たちも呼んだ歓迎式典があるのだ。
その後舞踏会を兼ねたパーティーがある。
「私、この国にまだ知り合いがほとんどいなくて、出来たら最初はオウに踊ってほしいなと思って」
「えっ最初に踊るの?」
オーウェンとしては最初は怒っているクリスと必ず踊りたかった。
「ヘルマンは」
「ごめん、賭けで負けたので、アメリアと踊る」
「はいっ?なにそれ。アメリアと踊るのか」
驚いてオーウェンが聞いた。この組み合わせも予想外だ。最もアメリアが来た当初は色々二人でやりあっていたみたいだが。
シュテファンが依然の相手に立候補しようとしたが、
「オウが駄目ならペトロ様に頼んでみるわ」
ペトロはこの国の公爵家で父は閣僚だった。きっとしてシュテファンがオーウェンを睨む。
「踊ったら内務に入ってくれるのか」
「やった。有難うオウ」
抱きつきそうな勢いで依然はオーウェンの手を握ってきた。
まあ、クリスは最初に新しい財務卿のコレキヨと踊るか………・
想像するだけで限りなく嫌になったオーウェンだった。








