クリスの前に素敵な島国皇太子が現れました
スカイバードの中のクリスは上の空だった。
アデリナの入れてくれた紅茶で少しは落ち着いたが、心は晴れなかった。
アルバートらはお互いに顔を見合わせたが、慰めようもなく、その件には触れないことにした。
アン王太后の前に出ると流石に元に戻ったが、時折思いつめたような表情になるので流石に王太后も気付いた。
「クリス、なにか心配事でもあるのかい」
王太后は尋ねた。
「すいません。何でも無いです」
そう応えるが、なにか変だ。
王太后はイザベラを隅に呼び出して孫のオーウェンが陳国の王女と抱きつかんばかりに近くで話しているのを見て、クリスがショックを受けたことを聞いた。
「何だ。クリスらも青春しているんだね」
王太后は微笑んだ。
「うーん、でも、オーウェン様も何もクリス様の真ん前で手を握り合わなくてもいいと思うんですけど」
イザベラが言う。
「そう言う事ならこちらにも、一人面白い男が来ているよ」
王太后は侍女を呼ぶと人を呼ばせた。
「王太后様。お呼びですか」
そこには小柄だが、眉目秀麗な青年がいた。
「クリス、彼がジパグ王国からの留学生のコレキヨだよ」
王太后が紹介した。
慌ててクリスは立上った。
「これはこれはジパグ王国の皇太子殿下。クリスティーナ・ミハイルと申します」
その言葉にコレキヨは驚いて跪いた。
「お初にお目にかかります。筆頭魔導師様。コレキヨでございます」
「そのように、跪かれなくても。どうぞお立ち下さい」
クリスが手を差し出す。
「ありがとうございます。筆頭魔導師様。」
コレキヨは立上った。
「私は出来ればクリスとお呼び下さい」
クリスはそのコレキヨに微笑みかけて頼んだ。
「ではクリス様。私もコレキヨとお呼び下さい」
「判りました。コレキヨ様」
二人はほほえみあった。
「呼んだのはコレキヨ。クリスにお前のところから持ってきてくれた、苗について案内してくれるかい」
「判りました。どうぞ、クリス様。こちらでございます」
コレキヨが手を差し出した。
「よろしくお願いいたします」
クリスはその手を取って出ていった。
「わざわざ日のいずる国からお越しいただいたのですね」
「クリス様。そのようにおっしゃいますな。昔先祖が大国陳帝国に対して見栄で言っただけでございます」
謙遜してコレキヨが言う。
「いえいえ、コレキヨ様。その当時の陳帝国は強大な力を持っていたと存じます。その帝国に、日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致すと申された心意気たるや、小国の私も見習わなければと思っております」
「小国などと、ボフミエはGAFAの陰謀を叩き潰し、魔王を倒した今や押しも押されぬ強国ではありませんか」
「ボフミエ魔導国は出来たての国でついこの前まで飢饉だったんです。諸外国のご厚意により解消は出来ましたが、まだ食料の自給も満足に出来ておらず、皆様方にご尽力いただいているまだまだこれからの小国ですわ」
話しているうちに稲が植えてあるところに来た。
「こちらがジパグから持ってきた三ツ星です。ジパグではオーソドックスな稲なのですが」
見た目は普通の稲だ。
「わざわざジパグからお持ち頂いてありがとうございます。大変だったでしょう」
言いながらクリスは稲の特徴とか、1本あたり何粒取れるのとか専門的なことを聞き出した。
「クリス様はすごいですね。国のトップの方がそこまで勉強していらっしゃるなんて」
感心してコレキヨは言った。
「一度飢えを経験すると詳しくもなりますわ。もうお粥だけの生活は懲り懲りですから」
苦笑いをしてクリスが言った。
「でも、国民が飢えても普通は貴族はお粥なんて食べないでしょ」
「そう言う余裕は無かったですね。元々、前帝国の皇帝によって攫われたと思ったらいきなり筆頭魔導師にならされて、やっと国を作り出そうとしたら飢饉でした。
街を見回りに出てたお姉様が、『クリス大変だ。飢饉になっている』って慌てて転移してきてもう大変でした」
「お姉様?」
「すいません。マーマレードの皇太子のジャンヌ殿下です。昔からよく遊んでもらっていてつい呼び名がそのまま出てしまって」
コレキヨの質問にクリスが恥ずかしそうに応えた。
「いやいや、アットホームな感じが良いですね」
羨ましそうにコレキヨが言った。
「それはそうですね。内務卿のオーウェン様も外務卿のアレク様もクラスメートでしたし」
「そうそうたるメンバーですよね」
「そうなんです。でも、元クラスメートの誼なのか甘えてしまっていて。お姉様なんか煩いお目付け役がいなくて実際の政務が学べるからこれほど楽なことはないなんて喜んでいらっしゃいますから」
「楽しそうですね」
思わずコレキヨが笑ってしまった。
「そうなんです。良ければコレキヨ様もいかがですか」
ずいっとクリスがコレキヨに近づいた。
「ジパグ国は算術が得意だとか」
「確かに盛んだとは思いますが」
「学園をコレキヨ様は主席で卒業されていらっしゃいますよね」
「よくご存知ですね」
「はい。実はアメリア皇太子殿下には断られたのですが、財務卿の椅子が空いておりまして、今探しておるのです」
「ざ、財務卿ですか」
若干引き気味にコレキヨが聞く。
「そうなんです。閣僚には北のノルデイン、南のドラフォード、マーマレードとテレーゼの皇太子殿下を始めとして各国から優秀な人材をお招きしているのです。東の島国として周りに影響を与えられるジパグの皇太子殿下も是非ともその一角を占めて頂けると大変ありがたいのですが」
怒涛のごとくクリスの勧誘が続く。
「各国の有意な人材と交流されることは今後のジパグ王国にとってもプラスになると思うのですが」
わはははは
いきなりコレキヨが笑い出した。
「すごい、すごいよクリス嬢」
キョトンとしているクリスにコレキヨが言った。
「完全に私がここにいるのを知って勧誘に来たんだね。王太后様からどれくらい逗留できるとか、少し国をあけても大丈夫かとか聞かれて変だなとは思っていたんだ」
「はい。皇太后様には少し聞いておいて頂けるようにお願いしてました。本当に今財務に人がいないんです。オーウェン様は内務で手一杯で、アレク様やアメリア様、ジャンヌお姉様は算術が苦手ですので。算術もお得意なコレキヨ様には是非ともお願いしたいんですけど」
上目遣いで自分の手を握ってクリスが聞いてくる。
「判りました。降参です。ぜひともさせて下さい」
そのあざとさにコレキヨは降参した。
「ありがとうございます」
思わずクリスがコレキヨの手を握って飛上った。
そうされて思わずコレキヨが赤くなる。
「本当に良かったです。で、どうしたんですか」
しばらくして固まって赤くなっているコレキヨを見てクリスが聞く。
「クリス嬢。手」
「えっ」
クリスは言われて慌てて手を離した。
「すいません。はしたないことをしてしまって」
クリスも赤くなる。
「でも、本当に良かったです。人がいなくて、計算得意でない私まで財務の仕事駆り出されていたくらいですから」
「本当の狙いはそこだったんですね」
「違いますよ、コレキヨ様。優秀な人材をお探ししていたのは本当ですから」
コレキヨのツッコミに目をそらしてクリスが応えた。
「クリス嬢、目をそらしていらっしゃいますよ」
「そんな事ないですよ」
仏頂面でクリスはコレキヨの目を見たが、思わず吹き出した。
「やっぱりそうだ」
「違います。本当に優秀な財務卿が出来て嬉しいんです」
クリスが言い訳する。
「本当に?」
「本当です」
やり取りする二人の周りを温かい風がふいていた。
クリスの前にも眉目秀麗な皇太子出現








