幕間 クロチア再建3 小国王女はクリスの怒りの障壁に弾き飛ばされました
「クリス様。あんなのに女官長をさせている王女になんて、この国を統治させる必要はないです。
クロチアの国民が困ります」
「私もそう思います。クリス様の御恩に仇で応えるなど思い上がりも甚だしいです」
ミアの言葉にアルバートも応える。二人はいきり立っていた。
「ありがとう。二人共。でも、私はオーウェン様やアレク様、ジャンヌお姉様やアメリア様みたいに皇太子でもないし、王女の言う通り地方の貴族の令嬢に違いないわ」
「何をおっしゃっていらっしゃるんですか。クリス様にはマーマレード王族やテレーゼ王族の血筋も入っていますし、母方のお祖父様はテレーゼの最強魔導師サイラス様です。父上はマーマレードにこの人がいないと回らないと言われているミハイル内務卿ではないですか。クリス様以上の血筋の良い方はなかなかいらっしゃいませんよ」
「ドラフォードの名門バーミンガム公爵家のご子息のアルバート様が何を仰るんですか」
「いえいえ、クリス様にはかないませんが、そもそも、私も高々クロチアなどという小国の王女にバカにされる身分にはないと思うのですが」
思い出して更にアルバートの頭に血が上る。
「嫌ですね。身分の高い方々は」
孤児院出身のフェビアンが言う。
「何言ってるのよ。フェビアン。クリス様はそんな平民出身の私達にも分け隔てなく接して頂けるのよ。クロチアの国民にしてもあんな王女の下よりも聖女クリス様の統治のほうが良いに違いないわ」
「それはそうかも知れないけれど」
フェビアンが認める。クリスは出会った時から、ボフミエの元王子たちと違って、フェビアンを全く見下さなかった。
「私としては新たに統治することが決まったモルロイだけで手一杯なんだけど」
クリスが本音を呟いたが、周りは全く聞いてくれないかった・・・・・。
その一方クロチアの王女の臨時テントでも王女が怒りにブチギレていた。
「何ですって。辺境の地の貴族令嬢風情が私に出て来いって言ったの?」
ルカニア王女はハンカチを口に咥えて悔しがった。
「はい。本人は私の前に姿さえ現さずに、護衛騎士を通して言って参りました」
女官長は事実を歪めて更にルカニアの火に油を注ぐ。
「判ったわ。貴族の小娘風情にいつまでも良い顔はさせないわ」
扇子を握り締めてルカニアは決意を表明した。
翌日、クリスらは王都の大聖堂建築を手伝うために、中心部の広場に来ていた。
広場は今日は組み立てのために通行止めが敷かれており、魔力の強いものが集められていた。
切断された大きな石を次々に積み上げていく。柱関係の骨組みだけを一気に魔術を使って組み立ててしまう計画だった。オーウェンらが次々に石を飛ばして丁寧に積み上げていく。
クリスは細かい作業が苦手なので、手は出さないでくれとアルバートらに釘を差されて、若干むくれていた。
「私も出来ると思うんですけど」
シャラザール山破壊とかGAFAへの雷撃攻撃などを目の前で見せつけられていた他の者はクリスの言葉には誰一人頷かなかった。
魔術を使っての大聖堂の組み立てに、物珍しさも手伝って周りは見物客で埋もれいていた。
大勢の見物人が出て、まつりのような雰囲気になっていた。
そこへ、ルカニア王女の大行列が差し掛かったのだ。王女の権威をクリスに見せつけるために、王女は近衛兵を始め千名もの取り巻きを従えて、馬車だけで十数台、騎兵100騎に守らせて大行列でクリスらのテントに向かおうとした。
王都の広場の工事での通行止めは全市民に告知されていたが、王女らはよく調べもしなかったようだった。
通行止めで行列は止まらざるおえなかった。
「どうしたのですか」
女官長が王女の馬車から降りて聞いた。
「はっ。前の広場が工事のために通行止めになっているようです」
騎士の一人が駆けてきて報告した。
「すぐにどけなさい。王女殿下のお通りなのです」
女官長が命令する。
「はっ」
騎士が慌てて騎乗して駆けていった。
「ええい、そこをどけ。ルカニア王女殿下のお通りである」
駆けつけてきた騎士は大上段に構えて叫んだ。
「はんっ。王女だろうが誰だろうが、ここは工事中だ。他を回るように伝えろ」
工事を手伝っていた兵士の一人が叫んだ。
「そうだそうだ」
「他を回れば良いだろう」
見物客の住民たちも尻馬に乗って言う。
「まだなの」
王女はイライラとして行列が動くのを待っていた。
「申し上げます」
そこへ前から騎士が駆けてきて馬から飛び降りて跪く。
「どうしたのです」
「工事をしている平民共が逆らって動きません」
「何ですって。王女様の言うことが聞けないっていうの」
女官長が柳眉を逆立てて言う。
「何をしているのよ。さっさと排除して進みなさい」
王女が馬車から首を出して命令した。
「御意」
騎士は慌てて馬に飛び乗って駆けていった。
「どうしたの?なにか騒がしいけれど」
クリスが声の方を見た。
「見てまいります」
アルバートがそちらの方に駆けて行った。
「ええい、貴様らどけ。どかない場合は排除する」
騎士たちは抜剣した。
その後ろにはまさに呪文を唱えて攻撃しようとする魔導師達がいた。
クリスの遠目には抜剣する多くの騎士たちとその前から逃げようとパニックになる見物客らが映った。
そして、その後ろで両手を突き出す魔導師達も。
「危ない!」
クリスはとっさに見物客達の前に障壁を張った。
しかし、その障壁は小さな物であるはずはなく、巨大な障壁がいきなり現れて、
「えっ」
「ちょっと」
あっという間に、出来た巨大障壁は大聖堂の骨組みを巻き込み、弾き飛ばす。
凄まじい衝撃音とともに、大聖堂の骨組みは弾き飛ばされて、周りに造られ始めていた家々を巻き込んで破壊していく。
工事を手伝っていた兵士達の悲鳴が響く。
大音響と粉塵が収まった跡には巨大な広場が出現していた。
「クリス!魔術は何があっても使うなって言ったよね」
オーウェンが白い目でクリスを睨む。
「えええ、私?だって市民の皆さんが攻撃されようとしたからとっさにやっただけで」
クリスは慌てて言い訳した。
「でも、クリス。僕らの1ヶ月の努力が水の泡なんだけど」
「・・・・・」
オーウェンの言葉にクリスは何も言えなかった。
「その元凶の奴らは、弾き飛ばされたみたいだけど」
王女らの行列はクリスの障壁によって弾き飛ばされてぼろぼろになって沿道に這いつくばっていた。
クリスは貴族が理由もなしに平民を傷つけることは許していなかった。
ルカニア王女を始めその一行は、今までの努力を台無しにされて怒り狂ったオーウェンらの賛成多数で、貴族籍を取り上げられて収容所に収容されてクロチア再建工事に従事させられることになった。
「私も責任を取って工事を手伝います」
しおらしく言ったクリスだが、頼むから手伝わないでくれとオーウェンらに懇願されて、失意のまま国都ナッツアに帰って行った。
クロチアの国民は理解した。
「クリスを怒らせると王都が破壊される」と。
新たな伝説が生まれた瞬間だった。
ここで幕間は終わりです。
次回からは次章が始まります。
今回は恋愛編になる予定。
クリスとオーウェンの前にそれぞれ恋敵?出現です。
二人の間はどうなるのか
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