クロチア最終決戦11 魔王カーンはひたすらシャラザールに恭順すると偽って最後に本性を現しました
「シャラザール様!」
感極まったようにメイが叫んでいた。
そう、そこには今までのクリスとは比べ物にもならぬほどの圧倒的な存在感で周囲を圧倒したシャラザールが来臨していた。
「ああ、ついに現れた。これでこの国も終わりだ」
アレクが震えて言う。
シャラザールが現れる時はいつも最悪感満載だったが、今日のシャラザールはいつにも増して周囲を威圧していた。
アレクは初めてシャラザールを見た時のように漏らしてしまいそうだった。
今日のシャラザールはそれほど怒りに燃えていた。
「そんな馬鹿な。シャ、シャラザールだと」
カーンは呆然として立っていた。
シャラザールには1000年前に悲惨な目にあわされた。それ以来絶対に会わないようにしていた筈なのに。魔王カーンは復活する時を間違えたことに気づいた。
そう、その後悔に泣きそうな魔王カーンの目の前には光り輝く戦神シャラザールがいた。
その威圧感、その人を人とも思わない傲慢な態度といい、魔王カーンを魔王とも見ない、
いや、ごみ屑以下にしか見ていないその態度、忘れても忘れられない屈辱の数々をカーンは思い出していた。
1000年前はシャラザールと戦ってぼろ布のようにやられて完敗だった。
魔王として存在してより初めて自分よりも強いやつの存在を思い知らされた。
アッシーとして雑用をさせられて、シャラザールの小間使いを引き受け、シャラザールが肩が凝ったと言えば肩を揉み、のどが渇いたと言われたら、紅茶を入れてただひたすら仕えた。靴をなめろと言われれば、その靴をも舐めてしのいだ屈辱、魔王カーンはその屈辱の数々を思い出していた。
(絶対に許さない)
魔王カーンは両拳を思いっきり握っていた。
そして……
「申し訳ございません」
シャラザールの前に土下座して謝った。
「…」
周りは唖然とした。
「えっ」
ウィルらも唖然としてみていた。
今までの傲慢な態度はどこへ行ったかのようにただひたすら頭を擦り付けて謝っていた。
「シャラザール様が復活していらっしゃるなんて露ほども知らず、ご無礼の数々平にお許しください」
もうシャラザールの靴をなめろと言われても舐めそうな勢いだった。
そう魔王は前回で理解したのだ。いくら頑張ったところでシャラザールには絶対に勝てないと。身に染みて理解させられたのだ。
だから絶対にシャラザールには逆らってはいけなかった。
そう赤い死神と同じように。
アレクは戦う前にそれを理解したが、魔王は何回も戦って絶対に敵わぬことをその身に叩き込まれたのだ。
「魔王でも恐怖に感じるくらいなのだ。ひたすら逃げだして本当に正解だった」
ノルディン戦で恥もプライドも投げ捨てて逃げた己を今の魔王の姿に重ねてアレクは褒めていた。
「なんでも致します。なにとぞお怒りを収めていただきたくお願いいたします」
肢体を投げ出さん勢いで魔王カーンは謝っていた。
シャラザールはその様子を不満そうに見ていた。
せっかく、全力で戦える相手が現れたのだ。
今まではクリスが戦っていて、特に最近はシャラザール自身で戦える場面が殆どなかった。
例えあったとしても魔人レベルだ。
シャラザールがちょっと撫でてやれば相手がやられるレベルだ。
でも魔王はおそらく全力で叩きつけても、そう簡単には死なない。
久しぶりに全力を出せるはずだった。
1000年ぶりの全開攻撃をできると期待に震えてクリスから出てきたのだ。
それも少しタイミングをずらして正義の味方の出現するタイミングで。
クリスを突き刺すということは己の体に汚らしい屑の魔王の体の一部が入ったという事だ。
シャラザールはそのことに怒り狂っていた。
その怒りも出てくるタイミングを計って抑えていたのだ。
やっとその怒りを放出できると期待に打ち震えて出現したのだ。
しかし、ここで少しでも反抗的な態度をとったらそのまま殴りつけようとしていたのに。
ここで謝るだと。シャラザールとしては絶対に許せなかった。
「シャラザール様のお怒りのほど、良く判ります。私が悪うございました。
どのような罰でもお受けいたします。
靴を舐めろと言われれば舐めましょう。なにとぞ命だけは、命だけはお許しください」
魔王カーンはただひたすら謝っていた。
いくらシャラザールでもここまで謝っている奴をすぐに消滅させることは出来なかった。
「そこまで言うなら、魔物の屑、屑の中の屑のカーンよ。こちらに来よ」
シャラザールはカーンを呼んだ。
「ははあーー」
魔王カーンは平伏するとそのままシャラザールの元へ小走りに駆け寄る。
「余の靴を舐めてみよ」
そのままシャラザールは足を突き出した。
「ははあーーー」
再度平伏するとカーンは両手で靴を押し頂くように添えて頭を再度下げる。
そして、靴ごとシャラザールの足を引っ張った。
「何を」
慌てたシャラザールの体に下から魔王カーンの手が剣のように鋭く伸びてシャラザールの体を貫いていた。








