クロチア最終決戦9 クリスが魔王に倒さる報に世界は混乱しました。
クリスがカーンの体から飛び出た鋭利な物に刺された瞬間、世界に激震が走った。
「クリス様!」
マーマレードの王宮で仕事そっちのけで画面を見ていた女官たちは悲鳴を上げていた。
そして、画面がブラックアウトする。
「なんで画面が消えるの」
「クリス様」
みんなが画面に詰め寄る。
「そんな、クリス様が魔王に負けるなんて」
呆然として侍女のメリーがいう。
魔人と化した王弟も張り倒して元に戻したほどの方が負けるなんて。
国王は執務室でクリスの刺される様子を見て呆然としていた。
「あなた。どういうことなの」
そこへ王妃のエリザベスが飛び込んできた。
「どうにもこうにも、画面の通りだろう」
国王は感情のこもっていない声で言った。
「そんな、あのクリスがやられるなんて」
真っ青になってエリザベスが言った。
ブラックアウトした画面に情報局長のルーファスが出てきた。
「すいません。魔道電話がクロチアの間で不通になっていました」
「ルーファス、状況はどうなっているのよ」
そのルーファスにこれ幸いとエリザベスが食って掛かった。
「お話ししたとおり、魔道電話が不通になっており確認できません」
「そこを何とかするのがあなたでしょ」
「そんな無茶な…」
「何か言った、ルーファス」
「いえっ。至急、ありとあらゆる手段を使って状況把握に努めます」
そう言うやルーファスは慌てて画面から消えた。
ドラフォード王宮では国王のピーターと王妃のキャロラインが呆然とブラックアウトした画面を見ていた。
「あなた。クリスがやられたわ」
呆然としてキャロラインが言った。
「ああそうだな」
「あのかわいかったクリスが」
「……」
「オーウェンが必死にアタックしていたのに」
「……」
「ボフミエで貧乏くじ引いても必死に頑張っていたのに」
「……」
「お粥しか食べられなくてもけなげにふるまっていたのに」
「……」
キャロラインの声にピーターはほとんど応えられなかった。
「あなたなんか言えないの」
ヒステリックにキャロラインは叫んでいた。
「何故、黙っているのよ」
魔道電話をつかむと地面に叩きつけていた。
「キャロライン。落ち着け」
慌ててピーターが言う。
「落ち着けですって。落ち着いていられるわけないわよ」
キャロラインは怒りのオーラ満載で叫んでいた。
「クリスは、あの子はまだ18なのよ。子供なのよ。
そもそも本来、クリスは剣を持ったこともない可憐な令嬢なのよ。なのに私達はあの子に戦場に行かせてしまった。本来ならば魔王の相手は私達各国王家が協力してしなければならなかったのに。それを楽だからってあの子たちに任せてしまったのよ。判っているの。あなたは」
キャロラインは机を思いっきり叩いていた。
「私たち大人がこんな後方でのほほんと魔王との戦いを見物しているなんていけなかったのよ」
「そうは言っても、こちらはオーウェンをはじめ最強の東方第一師団も出している」
ピーターが言い訳する。
「それがどうしたのよ。相手は魔王よ。国王親征の元ドラフォード全軍出撃するのが筋でしょ」
「全軍?私が親征するのか?」
ピーターが尋ねた。
その他人事のようなセリフにさらにキャロラインはヒートアップする。
「当然でしょ。魔王が前回出たときは皇帝シャラザールご自身が親征されたのよ」
「いや、あれはシャラザールは元々戦いの神で」
「何言っているのよ。シャラザールはこのドラフォード王国の前身のシャラザール帝国の皇帝でしょうが」
「しかしだな、全軍で出ればこの王宮を守るものもいなくなるが」
「はんっ?何言っているの。魔王が生きている限りどこにいても同じよ。私も魔術師として戦場に出ます。あなたが出ないなら王妃親征になるけど」
キャロラインは言い切った。
戦場に出たことのない王妃が親征すると言い出したのだ。
王妃はこうと言ったら聞かなくなる。
「判った。全軍に出撃命令を下す」
やむを得なしにピーターは諦めて言った。
一方のその息子のオーウェンは地面にへたり込んでいた。
クリスがやられた。
こんなことなら一人で行かせるのではなかった。
後方が大事だからと居残りさせられたが、絶対に一緒に行くべきだった。
剣の力はアレクには勝てず、魔術でもジャンヌには劣ったが、クリスの盾となって魔王の攻撃を受けることはできたはずだった。
この身を犠牲にすればジャンヌやアレクが魔王に対するのにプラスになるかもしれない。
クリスの傍にいられられないのがオーウェンには耐えられなかった。
地面にへたり込んでいたオーウェンがきっとして立ち上がった。
「ジャルカ殿。頼む。俺を戦場に送ってくれ」
ジャルカに向けて頭を下げた。
「しかし、オーウェン様。戦場にいきなり転移させるのは危険です。どこにどのような攻撃がされているかわかりませんし」
「頼む。何としてもクリスを助けたいんだ」
オーウェンはジャルカの手を取った。
あまりの真剣さにジャルカはほだされかけたが、男に手を握られる趣味はジャルカには無かった。
「今更行かれても、プラスになるとは思えませんが」
「頼む。何としても行きたいんだ」
手を振りほどこうとするジャルカをオーウェンは離さない。
「致し方ありませんな。転移させることはできませんが、スカイバードで送る事はできますが」
「それで良い。何としてもすぐにクリスの傍に行きたい」
オーウェンはさらにきつくジャルカの手を握った。
「ただし、衝撃吸収装置はついておりませんぞ」
「かまわない。それで頼む」
「判りました」
必死に頼むオーウェンの手を引きはがそうとジャルカは顔を引きつらせつつ頷いた。








