クロチア最終決戦8 クリスは魔王に胸を刺し貫かれました
.ドス黒い奔流が今までクリスのいた空間に流れ込み、一瞬でクリスの姿が飲み込まれた。
「クリス!」
オーウェンの叫び声が閣議室の中に響き渡った。いても立ってもいられなかったオーウェンはスクリーンの中に入り込んで必死に手で黒いもやもやをどけようとする。
が黒いもやもやはクリスを取り囲み、どんどん収縮していく。
みんな固唾を飲んで見入っていた。
カーンはにやりと笑った。
「あっはっはっはっは」
高笑いする。
「所詮ボフミエの小娘よ。余の前には抗うすべも無かったようだな」
カーンは余裕をもって周りを見渡した。
魔人の大半はやられており、兵士の多くもやられたみたいだが、ボフミエの小娘さえ処分すればあとは雑魚しかおるまい。
カーンはにやりと笑った。
目の上のたん瘤だったクリスがいなくなればあとは魔人などおらずとも、カーン一人で何とかなるだろう。
その瞬間だ。
黒い塊が光り輝いた。
一瞬で黒い塊が光にとって代わり、中からクリスの姿が現れたのだ。
「そんな馬鹿な。最強の闇魔術が効かないなんて化け物か」
カーンは驚いた。一瞬対処が遅くなる。
クリスがさらに光輝いた。
そして、クリスから雷撃がほとばり出して一瞬で戸惑っていたカーンを直撃した。
「ギョェェェェェェ」
カーンの絶叫が戦場に響く。
雷撃の短距離直撃だ。
宮殿をも一瞬で破壊する恐怖のクリスの雷撃がカーン一人に集中した。
いくら魔王と言えどもひとたまりもなかった。魔王カーンは一瞬にして黒焦げになった。
そして、ピキピキけいれんしながら、ドタリと倒れた。
そこには真っ黒こげになった肉塊が倒れていた。
「さすが姉さま」
ウィルが叫ぶ。
「よし、クリス、よくやった」
画面越しにオーウェンはクリスに抱きつこうとして腕が空を切る。
「まあ、あれごときの魔術でクリス様がやられるわけは無いですな」
その横でオーウェンの様子にドン引きしながらジャルカは言った。
残った敵は動揺した。
いくら魔人と化しているとはいえ、魔王が倒れた今はここにとどまる理由もない。
慌てて撤退しようとした。
「よし、敵を逃がすな」
ジャンヌが喜んで叫んだ。
「全軍掃討戦だ」
アレクも指示を飛ばす。
全軍が掃討戦に移ろうとした時だ。
「クリス様。魔王はまだ死んでおりませんぞ」
ジャルカが大声で叫んだ。
画面を見ていたものが慌てて魔王を見る。
しかし、その声はクリスには届いていなかった。
魔王の横を通り過ぎたクリスに、魔王から黒い鋭い物が伸びてクリスの胸を貫いた。
「クリス!」
閣議室にオーウェンの絶叫が響いた。
クリスがやられた。
そんな馬鹿な。
オーウェンの頭は真っ白になった。
と同時に何故か画面がブラックアウトした。
「姉さま!」
ウィルは絶叫した。
クリスの胸にはカーンから伸びた腕が突き刺さっていた。
いつの間にかカーンの黒焦げになって干からびた体は元に戻っていた。
クリスの頭には今までのことが走馬灯のように流れた。
小さい時、泣いていたクリスをオーウェンに慰めてもらった事。
婚約破棄の時に颯爽と現れてかばってくれたオーウェン。
ドラフォードで生まれて初めて街に連れ出してくれたオーウェン。
そこで夜の街並みを見ながら「好きだ」と告白してくれたオーウェン。
GAFAに対して雷撃攻撃してしまい、多くの人を殺してしまったと泣いていた時に慰めてくれたオーウェン。
オーウェンとのいろんな楽しい思い出だった。
「ごめん、オウ」
そう言うとクリスは血反吐を吐きだした。
「あっはっはっはっ」
カーンの高笑いが戦場に響き渡った。
「愚かな小娘よ。余がこれくらいでやられると思ったのか」
立ち上がったカーンは貫いた腕に力を入れた。
「死ね!小娘」
カーンはそう言うと腕をクリスの胸から引き抜いた。
血しぶきをあげてクリスはゆっくりと地面に倒れ伏した。








