クロチア最終決戦3 サイラスはテレーゼに魔人を1匹送り出しました
「ほう、ドラフォードの小僧、中々やるではないか」
ベンが魔人を倒すのを見てサイラス・ヨークシャーは独り言を言った。
「ここは私も力の一部を示さんといかんな」
サイラスは敵を物色し始めた。
あのクリスの祖父なのだ。その魔力量は言うまでも無かった。
各地では戦闘が始まっていた。
すさまじい雄たけびと剣戟の音、魔法の爆発音が次々に響く。
サイラスの方にも、クロチアモルロイ連合軍の一部が接近してきた。
「ふんっ。私に向かってくるとは不運な奴らじゃな」
剣を抜いて突撃して来る一団にサイラスは軽く手をかざした。
爆裂魔法が敵の集団の先頭に炸裂する。
爆発が終わった後には小さなクレーターが開いていた。
「ふんっ言うほども無い奴らよ」
サイラスはつまらなそうに言う。
乱戦に突入していた。
サイラスの横から巨大な剣を抜いた魔人が切りかかってきた。
それをサイラスは障壁を築いて受け取る。
しかし、そのサイラスの後ろからもう一匹の魔人が現れて切りかかってきた。
後ろにも障壁を築いて受ける。
「グウォ―――――」
「グウォ―――――」
2匹の魔人は吠えると同時に渾身の力をふるった。
バリンっと障壁が割れる。
目くらましにファイアーボールを2匹に食らわすが、魔人たちは剣ではじいていた。
「さすがの儂も魔人2匹相手では厳しいか」
サイラスはハタと考えた。
その頃テレーゼ王国の王城ではオリビア・テレーゼ女王が戦闘の画面を見て興奮していた。
「さすが、ドラフォードにその人ありと言われたベン・ドーブネルよ、魔人を1大隊で葬り去るとは」
とか、
「さすが暴風王女。魔人相手に爆裂魔法を決めるとは」
喜んで見ていた。
日頃はおしとやかな女王だが、戦いを見ると興奮に我を忘れるのが玉に瑕だった。
そして、そのオリビアの玉座の後ろには近衛魔導騎士団100名が抜剣して控えていた。
「その方どもは何故剣を構えているのか」
オリビアも不思議に思って訪ねた。
「いえ、陛下はお気に召されず。前面の画面のみご覧いただければ」
近衛魔導騎士団長のサロメが頭を下げて言う。
「しかし、後ろで大挙抜剣した近衛がいるとなるとの。後ろも気になる」
居辛そうにオリビアが言う。
「我々は万が一に備えているだけでございます。何もないとは存じますが」
サロメは緊張を解かずに言った。
「姫様にもたまには戦って頂かないと」
そう、サイラスがボフミエに帰る前にサロメに不吉な言葉を残して言ったのだ。
「何をするつもりだ」
「それはその時のお楽しみだ」
サロメが必死に食い下がったが、サイラスは笑っているだけだった。
何をするか判らないのがボフミエ最強魔導師のサイラスだった。
「そうか、しかし、画面から魔人が出て来る訳は無いぞ」
テレーゼは言いつつその瞳がサイラスを捕えた。
(サイラスがやる事は常識では通用しないのですよ)
心の言葉でサロメは訴えていた。
傍若無人なサイラスに女王は何故かいつも寛大だった。
しかし、サイラスなら画面とこちらを繋ぐことも可能なのではないかと冗談抜きにサロメは恐れていた。
「サイラス。何をしておる。そんな所で考え込まんでも。早う、魔人を攻撃せよ」
しかし、サイラスは魔人が前後から交互に攻撃してくるのを避けるのみだった。
「おのれ、サイラス。早う、攻撃せんか。
ええいじれったい。予が現地にいれば魔人ごとき一瞬で消滅させてやるものを」
「お助けいただきますか」
「当然じゃ。余に任せよ」
オリビアは興奮のあまり請け負っていた。
画像のみを現地から送らせているはずが何故か現地のサイラスとオリビアは言葉が通じていた。
「陛下!」
慌ててサロメが叫ぶが、間に合わなかった。
「グウォ―――――」
魔人の大アップがうつるや、魔人が口から衝撃波を放ち、それが何故か画面から飛び出してオリビアに襲い掛かった。
オリビアの目が点になる。
その前に慌てた近衛魔導騎士団が障壁を築く。
ドカーン
すさまじい爆発音が響き、衝撃が謁見の間に響く。
その振動と黒煙が消えた後には魔人が一匹出現していた。
神聖なテレーゼ王国の謁見の間に史上初めて魔人が突如出現した瞬間だった。
人物紹介
オリビア・テレーゼ女王53、戦神シャラザールの子孫を称する3国 マーマレード王国、ドラフォード王国の一角。代々シャラザールを模して女王が王権を握る。
妹はマーマレードの王妃のエリザベスとドラフォードの王妃のキャロライン
つまり、ジャンヌとオーウェンの叔母に当たる。娘はアメリア・テレーゼ学園長
いつもは威厳に満ちて女王然としていると本人は思っている。
しかし、戦いを見るのは大好き。模擬戦とか魔導戦とかやる時はミーハーと化している。
サイラスとの漫才なような会話は保守派からは眉をしかめられている。
ただし、サイラスの弟子なだけあってその魔力量はサイラスに次いで多い。
威力の調節をよく間違えて小山を破壊したりしている。








